3.2嬉野と歩田の画策
文字数 1,863文字
シャワーで軽く汗を流した後、脱衣所で髪を乾かす。ドライヤーの電源を切ったとき「カプセルって何がいいんだ?」と嬉野が尋ねてきた。
「オーダーで探せばいいのが見つかるんじゃないかな」
しかし、脱衣所のタッチパネルでカプセルを見ていても、その大きさが分からなかった。こういったときはエンタメエリアの一階、展示場に行くのがいいのだけれど、距離のことを考えると手間だった。
僕は服を着てもう一度タッチパネルを覗き込んだ。
「とりあえずこれを持って来させようか」
「それもいいが、こっちも良さそうに見えないか?」
「じゃそれも」
どこからかカゴを持ったロボットがやってくる。中には楕円状のカプセルが二つ入っていた。嬉野がカプセルを取ると、ロボットは来た道を帰って行った。
「強いていうならこっちだな」
そう言って顔の高さまで持ってきたのは親指サイズのカプセルだった。大きさはもちろん、水中でうまく転がってくれそうな形をしている。
「転がる……か」
「どうした? ダメなのか?」
「転がることを考えるなら完全に球体のほうがいいと思って」
嬉野は持っていたカプセルを見つめる。
「んじゃ、これも返却だな」
そう言って洗面台にカプセルを置いた。
カプセルはこうして放置していれば勝手に回収される。もっともタッチパネルにも返却のボタンはあった。だから後で返却しておこうと思った。
再びタッチパネルに戻って球体のカプセルを探す。
「探してみると案外あるもんだな」
「ガチャガチャに使われるんじゃないかな」
「そう思うと不思議な感じがするな。中身よりも殻が欲しくなるんだぜ?」
「成長ってやつだね」
「どう成長すればそうなるんだよ」
「見えないものが見えてくる」
「透視能力ってやつか」
「それは覚醒だね。人間の域を超えている」
「何の話をしてるんだ?」
「何の話もしてないよ」
「歩田ってたまに変なこと言い出すよな」と嬉野は言った。どう成長したってカプセルの中身を透視できる人間はいない。当たり前だけれど。
それから僕たちはとりあえず三種類のカプセルをオーダーした。オーダー画面には採寸が書かれていても、やはり手に取ってみないと微妙な違いは見えてこない。
「どれも一緒じゃないか?」
「こっちかこっちだよね」
「どっちにする?」
「さあ。両方流せばいいと思うけど」
「そうか。別に一つに決める必要はないのか」
嬉野は二種類のカプセルをカゴから取った。せっかくなので洗面台の不要になったカプセルもカゴへ入れる。返却ボタンを押すと、カプセルを持ってロボットは帰って行った。
「あとはSOSの紙を入れるだけだな」
「カプセルは多分、多い方がいい。確率的にも」
「それもそうか」
そうとなれば僕は二種類のカプセルを追加注文しようとする。どれぐらいあればいいだろう。とりあえず十個ずつだろうか。そうして注文しようとすると、嬉野が「いや、待て」と言った。
「それを言うんだったら、そもそも水に流して中身の方は大丈夫なのか?」
「そっか」
それを調べていなかった。僕はすぐさまオーダー画面を紙のページに変える。試しにA4サイズの紙をオーダーした。またロボットがやってきて紙を受け取ると帰って行った。
紙をちぎる。二種類のカプセルにそれぞれ入れてフタをする。洗面台の栓をし、水を溜めた。そしてカプセルを沈めてみる。
「浮くのか。当たり前か」
「そこは力技で」
僕は無理やり二つのカプセルを手で沈める。一方からは泡が出てきて、一方からは出てこない。それから水中から出しカプセルの中身を確かめた。一方は若干濡れている。もう一方は乾いていた。
「こっちだな」
「了解」
そう言ってオーダー画面を操作し、カプセルを二十個ほど、油性ペンを二本、A4の紙を二枚注文する。ロボットの持ってきたカゴの中は取り出すのも億劫なカプセルの山だった。
最初はカプセルを、洗面台の平らな場所に乗せていた。けれど数個ほど置いたとき転がり始め、地面のあちこちに落ちていった。今では洗面台の窪みにカプセルを溜めている。溜め終わると、僕たちはその窪みを挟むように座った。
「よし、やるか」
そう言い、ペンのキャップを外す。
SOSとちぎった紙に書いては、カプセルに入れ、僕は右側へ、嬉野は左側へ別の洗面台の窪みへ溜めていく。二十個の作業はすぐに終わった。
そして僕たちはあることに気がつく。行き当たりばったりな計画。杜撰 と言ってもいい。僕たちは苦笑いを浮かべ合う。
「本当にうまくいくのか?」
「それはやってみないと分からない」
今度はカプセルを運ぶカゴが無かった。
「オーダーで探せばいいのが見つかるんじゃないかな」
しかし、脱衣所のタッチパネルでカプセルを見ていても、その大きさが分からなかった。こういったときはエンタメエリアの一階、展示場に行くのがいいのだけれど、距離のことを考えると手間だった。
僕は服を着てもう一度タッチパネルを覗き込んだ。
「とりあえずこれを持って来させようか」
「それもいいが、こっちも良さそうに見えないか?」
「じゃそれも」
どこからかカゴを持ったロボットがやってくる。中には楕円状のカプセルが二つ入っていた。嬉野がカプセルを取ると、ロボットは来た道を帰って行った。
「強いていうならこっちだな」
そう言って顔の高さまで持ってきたのは親指サイズのカプセルだった。大きさはもちろん、水中でうまく転がってくれそうな形をしている。
「転がる……か」
「どうした? ダメなのか?」
「転がることを考えるなら完全に球体のほうがいいと思って」
嬉野は持っていたカプセルを見つめる。
「んじゃ、これも返却だな」
そう言って洗面台にカプセルを置いた。
カプセルはこうして放置していれば勝手に回収される。もっともタッチパネルにも返却のボタンはあった。だから後で返却しておこうと思った。
再びタッチパネルに戻って球体のカプセルを探す。
「探してみると案外あるもんだな」
「ガチャガチャに使われるんじゃないかな」
「そう思うと不思議な感じがするな。中身よりも殻が欲しくなるんだぜ?」
「成長ってやつだね」
「どう成長すればそうなるんだよ」
「見えないものが見えてくる」
「透視能力ってやつか」
「それは覚醒だね。人間の域を超えている」
「何の話をしてるんだ?」
「何の話もしてないよ」
「歩田ってたまに変なこと言い出すよな」と嬉野は言った。どう成長したってカプセルの中身を透視できる人間はいない。当たり前だけれど。
それから僕たちはとりあえず三種類のカプセルをオーダーした。オーダー画面には採寸が書かれていても、やはり手に取ってみないと微妙な違いは見えてこない。
「どれも一緒じゃないか?」
「こっちかこっちだよね」
「どっちにする?」
「さあ。両方流せばいいと思うけど」
「そうか。別に一つに決める必要はないのか」
嬉野は二種類のカプセルをカゴから取った。せっかくなので洗面台の不要になったカプセルもカゴへ入れる。返却ボタンを押すと、カプセルを持ってロボットは帰って行った。
「あとはSOSの紙を入れるだけだな」
「カプセルは多分、多い方がいい。確率的にも」
「それもそうか」
そうとなれば僕は二種類のカプセルを追加注文しようとする。どれぐらいあればいいだろう。とりあえず十個ずつだろうか。そうして注文しようとすると、嬉野が「いや、待て」と言った。
「それを言うんだったら、そもそも水に流して中身の方は大丈夫なのか?」
「そっか」
それを調べていなかった。僕はすぐさまオーダー画面を紙のページに変える。試しにA4サイズの紙をオーダーした。またロボットがやってきて紙を受け取ると帰って行った。
紙をちぎる。二種類のカプセルにそれぞれ入れてフタをする。洗面台の栓をし、水を溜めた。そしてカプセルを沈めてみる。
「浮くのか。当たり前か」
「そこは力技で」
僕は無理やり二つのカプセルを手で沈める。一方からは泡が出てきて、一方からは出てこない。それから水中から出しカプセルの中身を確かめた。一方は若干濡れている。もう一方は乾いていた。
「こっちだな」
「了解」
そう言ってオーダー画面を操作し、カプセルを二十個ほど、油性ペンを二本、A4の紙を二枚注文する。ロボットの持ってきたカゴの中は取り出すのも億劫なカプセルの山だった。
最初はカプセルを、洗面台の平らな場所に乗せていた。けれど数個ほど置いたとき転がり始め、地面のあちこちに落ちていった。今では洗面台の窪みにカプセルを溜めている。溜め終わると、僕たちはその窪みを挟むように座った。
「よし、やるか」
そう言い、ペンのキャップを外す。
SOSとちぎった紙に書いては、カプセルに入れ、僕は右側へ、嬉野は左側へ別の洗面台の窪みへ溜めていく。二十個の作業はすぐに終わった。
そして僕たちはあることに気がつく。行き当たりばったりな計画。
「本当にうまくいくのか?」
「それはやってみないと分からない」
今度はカプセルを運ぶカゴが無かった。