5.3嬉野と歩田の画策
文字数 2,719文字
この場所もやはり正五角形の部屋だった。ただ、今までとは趣が異なるようで、生活感のある部屋だった。
皮のソファがあり、ガラスのテーブルがある。冷蔵庫もあって、ゴミ箱も置いてあった。嬉野は冷蔵庫を開け「お、」と言い、二つのグラスとオレンジジュースを取り出してくる。そして「少し休憩しようぜ」と言って、グラスにオレンジジュースを注ぎ、ソファでくつろぎ出した。
僕もそうしようかと思ったけれど、ひとまず状況を把握しておきたくて部屋を歩き回ることにする。
最初に向かったのはクレーンゲーム機。一番目を引いた。中を覗けばカプセルに鍵が入っており、クレーンでこれを取るようだ。
硬貨を入れる場所を探してみる。けれどそれらしい穴はなく、ボタンを連打してみたら、その場でアームが下りていった。お金は必要ないらしい。こうして何度でもできるのだろう。
鍵があるということは鍵穴があるということだ。それはどこだろうかと探す。反対側の壁にすぐ見つかった。
あみだくじだった。スタート地点に番号と鍵穴があり、そこに鍵を刺すと抽選されるのだろう。何が抽選されるのか。恐らく、別の壁のモニターに書いてあることが行われるのだ。
『この部屋にある〇を押せ』
だいたいのことは理解できた。この部屋ではクレーンゲーム機でカプセルを取り、その鍵であみだくじをするらしい。抽選の結果、丸が得られてそれを押すのだろう。
僕はそう結論付けると嬉野と向かい合うようにして座った。グラスにオレンジジュースを注ぎ、一口だけ飲んでテーブルへ置く。嬉野と目があった。嬉野は肩を大げさに竦める仕草をする。
「どう考えてもこの先に出口があるとは思えないよな」
「この先に出口があるとしたら、相当趣味が悪い。秘密主義の態度を一変させたっていうよりも、何かトラップに引っかかったって考えるほうがしっくりくる」
「歩田の中では脱出できる確率は何パーセントぐらいだ?」
「一かな」
「俺はゼロ」
この場合、一もゼロも変わらないだろう。どちらも期待していないという意味では同じだ。
「何が起きているのかは分からないがさっさとここから出るか」
そう言って嬉野は立ち上がった。きょろきょろと辺りを見回し、「なるほどな」と言ってクレーンゲーム機の方へ歩いていく。
同じようにして硬貨の投入口を探していた。そしてこれも同じようにして一ミリも動かさずアームを下ろしていた。
勝手が分かればあとはカプセルを取るだけだ。嬉野はレバーを操作して、クレーンを動かした。一回目の挑戦は何も掴むことはできなかったらしい。少しでも持ち上がったならカプセルの音が聞こえてくるはずだ。
嬉野が振り返ってくる。筐体を指さして吹き出した。
「なんで確率機なんだよ」
「え、そうなの」
「ああ。取らせる気が無いってほどアームがゆるい。何回かしないと絶対に取れないように設定されているな」
「長期戦になりそうだね」
「任せろ。作業ゲーは得意だ」
そう言って嬉野は何度もゲームに挑戦した。暇なのでその様子を見に行くことにする。何度目の挑戦だっただろう。ようやく一つが取れた。
「よっしゃ、一個目」
取ってからは速い。さっそく嬉野はカプセルから番号のついた鍵を取り出し、指定された鍵穴へと刺し込んだ。
鍵下から伸びている線がなぞるように光って行く。そして一番下まで到達すると光の進行は止まった。そこに表示されたのは×マークだった。
「ま、そう上手くはいかないか」
「次やるよ」
そう言い筐体 へと向かう。ゲームは得意というわけではないけれど、これぐらいならできないことはないだろう。とりあえず一回やってみる。確かに嬉野が言うようにただの確率ゲーらしい。惜しいとか思うまでもなく、まったく取れそうな気配が無かった。
そうしてやっていると明らかに掴みが強い瞬間がやってくる。何回やったかは数えるのはやめていた。ようやく二個目の鍵が取れた。
鍵穴に差し込むと一つ目と同じようにして光が線を辿って行った。そして終着点に辿り着く。結果は、×マーク。運が無いらしい。
「なあ、歩田。硬い物とか無いか?」
「持ってないけど」
「なら少々手荒にやるか」
その一言で何をしようとしているのかに察しが付く。
「手伝うよ」
僕たちは筐体へと戻り、「下から行くぞ」と嬉野が言ったので協力して持ち上げた。後のことはもう破壊行動だ。叩きつけるように筐体を落としてみる。案外、頑丈らしい。これだけでは壊れない。最終的には鍵さえ取れればいいのだから、鍵の入ったケースの部分を蹴って、飛び跳ねてと繰り返していく。
どうにか壊せた。最初からこうしていれば良かったのだ。そうすれば早くすべての鍵が手に入った。僕たちは全部のカプセルを開け、鍵を手に入れる。一個一個どれが正解の鍵なのかは見るまでもない。一度に全部の鍵を刺しこんで結果を待った。
すると……。
「ん、どうなってんだ?」
「ここもか」
すべてのあみだくじが×マークで埋められた。その瞬間、思考が開始される。クレーンゲームがある。鍵を取る。あみだくじをする。結果、〇は得られなかった。となれば、別のアプローチをしなければならない。
ヒントはどこに?
その取っ掛かりを得るために、ベルトコンベアから下りてからの今までのことも振り返る。規則性は無いだろうか。何かのルールのもと現象が起きていないだろうか。
「……ああ」
まもなく僕はある結論にたどり着いた。
「嬉野、たぶんモニターの〇を押すんだ」
「そんなことで……って反則でもないのか。この部屋もやっぱり子どもだましってことだな?なるほどな、なるほど」
「そういうこと」
僕たちはモニターへと向かった。そして嬉野が〇を押す。その瞬間、モニター奥の壁が割れ、通路が現れた。やはりそうだった。この部屋は最初にすべてを語っていたのだ。目の前に〇があるのに〇を他の場所に探そうとする。そうなると一生見つからない。そんな子ども騙し。
僕たちは現れた通路を行った。疲労も溜まってきたのでこの辺で終わって欲しいところだけれど。
「これは……」
現れたのは下へ降りる階段だった。といってもあるのは数段だけだ。その先に独特の空気感を醸す扉が現れる。古いようで、怪しいようで、魅惑的な扉だ。
それにいち早く反応したのは嬉野だった。
「ライブハウスだな」
見れば苦い顔をしている。入りたくないとでも言っているかのようだった。けれど、ここから出るにはこの先を行くしかない。それは嬉野も分かっているだろう。
嬉野は「行こうぜ」と言って先陣を切る。
ライブハウスの空気感というのは異国のようで不思議な感じがする。その特殊さが人を揺れやすい心理状態にさせるのだろう。
皮のソファがあり、ガラスのテーブルがある。冷蔵庫もあって、ゴミ箱も置いてあった。嬉野は冷蔵庫を開け「お、」と言い、二つのグラスとオレンジジュースを取り出してくる。そして「少し休憩しようぜ」と言って、グラスにオレンジジュースを注ぎ、ソファでくつろぎ出した。
僕もそうしようかと思ったけれど、ひとまず状況を把握しておきたくて部屋を歩き回ることにする。
最初に向かったのはクレーンゲーム機。一番目を引いた。中を覗けばカプセルに鍵が入っており、クレーンでこれを取るようだ。
硬貨を入れる場所を探してみる。けれどそれらしい穴はなく、ボタンを連打してみたら、その場でアームが下りていった。お金は必要ないらしい。こうして何度でもできるのだろう。
鍵があるということは鍵穴があるということだ。それはどこだろうかと探す。反対側の壁にすぐ見つかった。
あみだくじだった。スタート地点に番号と鍵穴があり、そこに鍵を刺すと抽選されるのだろう。何が抽選されるのか。恐らく、別の壁のモニターに書いてあることが行われるのだ。
『この部屋にある〇を押せ』
だいたいのことは理解できた。この部屋ではクレーンゲーム機でカプセルを取り、その鍵であみだくじをするらしい。抽選の結果、丸が得られてそれを押すのだろう。
僕はそう結論付けると嬉野と向かい合うようにして座った。グラスにオレンジジュースを注ぎ、一口だけ飲んでテーブルへ置く。嬉野と目があった。嬉野は肩を大げさに竦める仕草をする。
「どう考えてもこの先に出口があるとは思えないよな」
「この先に出口があるとしたら、相当趣味が悪い。秘密主義の態度を一変させたっていうよりも、何かトラップに引っかかったって考えるほうがしっくりくる」
「歩田の中では脱出できる確率は何パーセントぐらいだ?」
「一かな」
「俺はゼロ」
この場合、一もゼロも変わらないだろう。どちらも期待していないという意味では同じだ。
「何が起きているのかは分からないがさっさとここから出るか」
そう言って嬉野は立ち上がった。きょろきょろと辺りを見回し、「なるほどな」と言ってクレーンゲーム機の方へ歩いていく。
同じようにして硬貨の投入口を探していた。そしてこれも同じようにして一ミリも動かさずアームを下ろしていた。
勝手が分かればあとはカプセルを取るだけだ。嬉野はレバーを操作して、クレーンを動かした。一回目の挑戦は何も掴むことはできなかったらしい。少しでも持ち上がったならカプセルの音が聞こえてくるはずだ。
嬉野が振り返ってくる。筐体を指さして吹き出した。
「なんで確率機なんだよ」
「え、そうなの」
「ああ。取らせる気が無いってほどアームがゆるい。何回かしないと絶対に取れないように設定されているな」
「長期戦になりそうだね」
「任せろ。作業ゲーは得意だ」
そう言って嬉野は何度もゲームに挑戦した。暇なのでその様子を見に行くことにする。何度目の挑戦だっただろう。ようやく一つが取れた。
「よっしゃ、一個目」
取ってからは速い。さっそく嬉野はカプセルから番号のついた鍵を取り出し、指定された鍵穴へと刺し込んだ。
鍵下から伸びている線がなぞるように光って行く。そして一番下まで到達すると光の進行は止まった。そこに表示されたのは×マークだった。
「ま、そう上手くはいかないか」
「次やるよ」
そう言い
そうしてやっていると明らかに掴みが強い瞬間がやってくる。何回やったかは数えるのはやめていた。ようやく二個目の鍵が取れた。
鍵穴に差し込むと一つ目と同じようにして光が線を辿って行った。そして終着点に辿り着く。結果は、×マーク。運が無いらしい。
「なあ、歩田。硬い物とか無いか?」
「持ってないけど」
「なら少々手荒にやるか」
その一言で何をしようとしているのかに察しが付く。
「手伝うよ」
僕たちは筐体へと戻り、「下から行くぞ」と嬉野が言ったので協力して持ち上げた。後のことはもう破壊行動だ。叩きつけるように筐体を落としてみる。案外、頑丈らしい。これだけでは壊れない。最終的には鍵さえ取れればいいのだから、鍵の入ったケースの部分を蹴って、飛び跳ねてと繰り返していく。
どうにか壊せた。最初からこうしていれば良かったのだ。そうすれば早くすべての鍵が手に入った。僕たちは全部のカプセルを開け、鍵を手に入れる。一個一個どれが正解の鍵なのかは見るまでもない。一度に全部の鍵を刺しこんで結果を待った。
すると……。
「ん、どうなってんだ?」
「ここもか」
すべてのあみだくじが×マークで埋められた。その瞬間、思考が開始される。クレーンゲームがある。鍵を取る。あみだくじをする。結果、〇は得られなかった。となれば、別のアプローチをしなければならない。
ヒントはどこに?
その取っ掛かりを得るために、ベルトコンベアから下りてからの今までのことも振り返る。規則性は無いだろうか。何かのルールのもと現象が起きていないだろうか。
「……ああ」
まもなく僕はある結論にたどり着いた。
「嬉野、たぶんモニターの〇を押すんだ」
「そんなことで……って反則でもないのか。この部屋もやっぱり子どもだましってことだな?なるほどな、なるほど」
「そういうこと」
僕たちはモニターへと向かった。そして嬉野が〇を押す。その瞬間、モニター奥の壁が割れ、通路が現れた。やはりそうだった。この部屋は最初にすべてを語っていたのだ。目の前に〇があるのに〇を他の場所に探そうとする。そうなると一生見つからない。そんな子ども騙し。
僕たちは現れた通路を行った。疲労も溜まってきたのでこの辺で終わって欲しいところだけれど。
「これは……」
現れたのは下へ降りる階段だった。といってもあるのは数段だけだ。その先に独特の空気感を醸す扉が現れる。古いようで、怪しいようで、魅惑的な扉だ。
それにいち早く反応したのは嬉野だった。
「ライブハウスだな」
見れば苦い顔をしている。入りたくないとでも言っているかのようだった。けれど、ここから出るにはこの先を行くしかない。それは嬉野も分かっているだろう。
嬉野は「行こうぜ」と言って先陣を切る。
ライブハウスの空気感というのは異国のようで不思議な感じがする。その特殊さが人を揺れやすい心理状態にさせるのだろう。