7.2佐伯と歩田の試み

文字数 766文字

 新しい角度からの視点に会議はいつもより長丁場となった。
 会議がお開きになった後も僕は宴会場に残り、ケーキを食べていた。横には隅々まで埋められたホワイトボードを一生懸命消している佐伯さんがいる。
「歩田くん、少しいいですか……?」
 そうさりげなく聞いてくる。
「なんでしょう」
「もし、私たちがもう二度と会えないとするとどう思いますか?」
 唐突な質問にケーキを食べる手が止まった。
 それから僕はそういえばと、佐伯さんが九について調べている最中であったことを思い出す。
 もし、その話が正しいとするなら、間もなく僕たちは館から出ることとなる。それは別れを意味していることでもあった。
 僕はその質問を考える。
「この時間が一生続くといいなとは思うときもあります。ただ、会えなくなるということは、この場所から解放されたとも言えます。本来はそっちが正しいことで、だから現実を受け入れるんではないでしょうか」
「そうですよね。おかしいのは今の状況のほうです」
 そう言って、佐伯さんは「でも」と続けた。
「やっぱり別れは寂しいですものですよ。もしかすると、ここを出ると私たちはもう二度と会えなくなるかもしれません」
「そうなると館に残っているのは僕たちが最後かもしれませんね」
 佐伯さんは「そういえば」と本気で驚いていた。
「通話でもかけてみますか?」
「いいえ、やめておきます」
 僕は話しながら目の前のケーキを食べきる。
 甘くなった口をコーヒーで直した。
 それを見ていたのだろう。佐伯さんは「それでは行きましょうか」と言う。
「そうですね」
 僕は立ち上がった。
 そして宴会場を後にする。
 さて、僕たちはここから出られるのだろうか。
 目の前に広がった景色はいつもの館内の廊下だった。
 僕は佐伯さんの様子を窺う。
「これで竜宮城の可能性も消えましたね」そう微笑んでいた。
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登場人物紹介

歩田悟。館を徘徊する人。

嬉野祐介。館に閉じ込められた大学生。歩田と同じ歳。

猫飼可優。執事。いつも何かしている。

屋敷光明。引きこもり。特に何もしていない。

大川ひすい。マッサージチェアが好き。

佐伯叶枝。大川によく捕まる。

椎名盟里。藤堂にメガネを壊され、コンタクトに変えさせられた。

藤堂律。夕飯が楽しみ。

流田桂花。暇つぶし。

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