第20話 シンプル・プラン

文字数 1,268文字

「あたし、シンプルプランにしようと思うんだよね」
「えー、ミサなんて必要なさそうだけど。成績だって、結構いいし」

「成績とか関係ないよー。やっぱりさ、安全なのがいいから。解約もすぐできるし」
「えー、でも一旦契約したら解約しない人が多いっていうじゃん?」

「らしいねえー。でも、それってやっぱ、便利ってことじゃん?」
「ミサまで契約したら、契約していないの、私だけになっちゃう」

「いいじゃん、それも。我が道を行くって感じで、格好良くて」
「えー……」

 シンプル・プランは、大手インターネット系企業が提供するサービスだ。
 AIが情報の取捨選択を勝手にやってくれて、人生における様々な

、二択にしてくれる。使うほどに、ユーザーの頭脳にとっての選択の難易度を学習していき、最適な

が提示される。

 ――お昼ご飯は、ラーメンかヘルシー系サンドイッチか。
 ――買う服は、青いパンツかピンクのスカートか。
 ――夜、夕食のあとはネット動画を見るか、本を読むか。

 脳に埋め込んだチップにより、視界に浮かぶ各選択肢を選ぶと、メリット・デメリットも表示され、自分に最適な選択を、十分に納得した上で選ぶことができる。

 さらに、あらかじめ人生が転落しそうな選択肢は排除してある。違法行為、怪しい人との交流、あまり評判がよくない場所へ行くこと、その他将来的に自分に害悪となりそうな行為は、最初から選択肢から排除されているのだ。
こうやって、安全でありながら本人の満足度がそこそこ高い選択肢だけを候補に入れることで、大きな失敗のない、幸福な人生を送ることができる。
 広告でこのように謳われて、私の周りもほとんどの人が契約している。でも――

「どうしよっかなぁ。私も契約しようかなぁ」
「トモダチ割になるから、やるなら一緒にやろうよ」
「そーだねー」

 もともとこのサービスは、愚行権を制限することで社会から零れおちる人、ひいてはそこから生まれる犯罪を無くす意図で作られた。

 ただ、誤算だったのは、本当に必要な人ほど、シンプルプランを選ばないということだった。
 ヤンキー崩れや半グレ。そういった人たちは本質的に自分の人生も他人の人生も価値を置いていないので、人生の失敗なんて気にしない。

 さらに、もっと少ない、イノベーティブな成功を収める人まで激減し、今では皆無になった。そういう人は、一見無謀な選択をすることで成功を摑んだからだ。

 ただ、政府の発表によると、中間層は増えた。海外から見て、自分達を脅かすほどの革新的な発明をすることもなく、適度に買い物をしてくれる、程よいマーケットが醸成されたそうで、それは好ましいことなのだそうだ。

 でも、それって何かに支配されているように感じるのは、私だけだろうか?

「うーん、やっぱりもう少し考えてみる」
「うん、考えたらいいよ。シンプル・プランにしちゃったら、たぶん、あんま、考えることとかなくなっちゃうし」
「……そうだね、今のうちに考えられること、考えておくよ」

 そうしてあたしとミサの会話は、次の話題へと移った。

(終わり)
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