緋桜 (3)
文字数 1,150文字
神社の奥、本殿に近付くと、まず聞こえてきたのは……六十か七十ぐらいの男の怒鳴り声だった。
「滅んでいない……。この町は滅ぶかも知れんがな……」
「ふざけるな……国連に占拠された『本土』は、最早、『日本』とは呼べぬ。こここそが、日本列島に残された最後の
「それは目出度い。俺は……日本に住む人間を護る事は有っても、国としてのかつての日本には憎しみしか感じていなかった。そして、今の日本は好ましく思わんでは無いが……戦前の日本には怨みしか無い。その残滓さえも、いよいよ滅んだか。帰ったら祝杯を上げるとしよう」
「な……何を……言っている?」
「イカれた
あれ? ボクは自分で思ってたほど、日本語を良く判ってないのか?
六十以上らしい男を「若造」と呼んだもう1人の男の声は……五十より上には思えなかった。
「おい、そこで盗み聴きしているのは……この島に居るもう1人の『護国軍鬼』の仲間か?」
ボクは山刀を……日本の魔法使いの女の子はハンマーを構えながら3つ目の鳥居をくぐり、2人の男の前に姿を見せた。
「あのさ……あいつと戦う気? 勝目無い相手だよ……」
「なぜ……我が一族の者がここに居る?」
鳥居の先に居た2人の男の内、大昔の日本の子供向け特撮に出て来てもおかしくない格好をした、その男は……意外な事を言い出した。それも、日本語ではなく、ボク達の言葉で。
「その刀は、我が一族のモノに似ている。お前は、我々の一族の者なのだろう?」
「誰……? 誰だよ、お前は?」
ボクは、わざと日本語で、そう問いかける。
「お前の先祖……少なくとも、その親類だ。百年近く前の戦いの後、故郷を出て満洲に渡り……そこで日本軍に捕えられ、改造された」
「ちょ……ちょっと待って……どうなってんの? あの……ひょっとして、その、この町の人達を殺したのは……」
「その時の怨み故では無い」
「ふざけるな……理由が何であれ、こんな真似をするヤツが、ボクの一族の筈は無い」
「……そうか……。何もかも変ってしまったか……。俺も……俺の一族も……世界も……」
「では……目的は何だ? どうやら、私は、お前が仕組んだ茶番に巻き込まれたらしいが……出演依頼は来てないし、脚本は届いてないし、出演料の交渉もやった覚えは無いぞ。とんだ、三流プロデューサーだ」
「主演俳優の御登場か……。拍手ぐらいはした方がいいかな?」