百瀬 キヅナ (4)
文字数 1,584文字
「後方支援チーム」とやらのリーダーらしい小太りの男は、そう言った。
ドラム缶に仕掛けられた爆弾は……フェリーの外壁や船底を破る事は出来ず……いくつものドラム缶の中の放射性物質は……フェリーの中に封じ込められた。
爆弾処理チームは、フェリー内の重機を使って、放射性物質が詰め込まれ、爆弾を取り付けられたドラム缶を引っくり返した状態で持ち上げた。
そして、そのまま、フェリーを脱出。
「放射性物質を撒き散らす」為の1つ目の爆弾では……フェリーの外壁や船底には大きな損傷は与える事は出来ず、「船底をブチ抜く」為の2つ目の指向性爆弾は……想定外の方向に向けられた上……船の甲板に、あまりにも想定外な「補強」がされたせいで……船に穴を空ける事に失敗した。
ただし……犯罪組織の一員とは言え、下っ端ではあろう何人もの人間もフェリーの中だ……。
助ける手段は無い。明らかに危険なレベルで放射能汚染された空気の中で……ゆっくりと……苦しい死を迎えるだろう。
そして……このフェリーそのものが「中に放射性物質が撒き散らかされた海に浮ぶ巨大な鉄の箱」と化した。
どんな産業廃棄物処理業者であっても、どれだけ金を積まれようと門前払いするのは確実だ。
そんなモノが、この「島」最大の港に停泊している。……多分「銀座港」そのものが、当分使えなくなるだろう。
だが……私にとっての問題は別に有った。
「あ……あの……さっきのアレは……何なんですか?」
「えっと……説明しづらい……。とりあえず、あんな能力を持ってる人が居るって事以外は……」
「そ……そんな馬鹿な……。あれは……『魔法』や『呪術』の
爆弾処理チームがフェリーから脱出した後に起きた事……それは……まず、巨大な海水の柱が出現し……続いて海水がフェリーに降り注ぎ……その海水が氷となって、フェリーの外壁や船底を「補強」した。
魔法や呪術の多くは「対生物」「対霊体」に特化している。
あのような「大量の生きていない物質を操る」ような真似は……ほぼ不可能だ。
でも……現実に起きた……。
更に事情を聞こうとした時……。
「どうしたの?」
「今の職場から……至急、九段に戻れって連絡なんですが……」
ただし、私への個別連絡ではなく、「職場」の人間全員に
画面の中に居るのは六十過ぎの白い和服の男。「英霊顕彰会」のトップだ。
腕を振り上げ、何かに取り憑かれたように……「死霊使い」が本当に「何かに取り憑かれた」のなら笑い話にはなるが、あくまで下っ端を鼓舞する演技をやってる内に、本人もノリノリになっただけだろう……いかにもな演説を続けている。
『もはや……「本土」は外国勢力に占拠されたも同じだ。「本土」の者達は……やがて……日本の伝統を捨て去るだろう。だが……我々が居る……。この「九段」地区を護る事こそが……日本を護る事に他ならない』
「なんか……昔のアニメの……悪役の演説シーンのパクリにしか見えないなぁ。……あ……この爺さん、丁度、『ガンダム』をリアルタムで観た世代なのか?」
「まぁ……私は……言ってみれば『契約社員』なんで……こんな雇い主の為に死ぬ義理なんて無いんですけどね」
画面の中では、「死霊使い」そして「企業経営者」としては一流だが、それ以外の点では色々と人間性に問題が有る御老体が……今の時代、六〇代を「御老体」と云うのは違和感が有るが、考えが古い人なのは確かなので……「日本の伝統の最後の砦たるこの街に危機が迫っている‼ この街が滅ぶ事は日本が滅ぶも同じ。祖国の為に今こそ命を捨てよ」と絶叫していた。