緋桜 (1)
文字数 1,325文字
「九段」地区の地下鉄の駅から地上に出て一〇分後には……明らかに、この「町」の従業員達がボクを監視し始めた。そもそも、地下鉄の駅を出た瞬間……「気」「呪力」の「壁」のようなモノを感じた。
噂には聞いてたけど、「町」のあちこちに有る神道の祠っぽいモノにも……ボクと同じように俗に言う「魔法」を使えるヤツらの手下らしき「何か」が居る。
日本語で言うと「式神」ってヤツだっけ? 気配からすると……多分、「人間の死霊」を生きた人間が支配下に置いたものだろう。
少し前に死んだボクのお
十年前……まだ、ボクが小学校に入る前、日本の関東……最近の日本の呼び方では「本当の関東」が……火山の噴火で壊滅した。
そして、「本当の関東」からの避難者が住む為の「人工の島」が日本各地の海上に作られた。
その際に、どうやら、百年ぐらい前に、「大日本帝国」を名乗っていた頃の日本が、ボク達の先祖から奪ったあるモノが、ここに移されたらしい。
「贋物の東京」の中で最初に出来た「島」。その「島」を構成する4つの
それにしても、とんでもない場所だ。
ここは……約2㎞×2㎞の「町」そのものがセレブ向けの巨大なテーマパーク風の観光地だ。言うなれば、海の上に有るラスベガス。……いや、ラスベガスがどんな所か、映画やドラマでしか知らないけど。
日本人じゃないボクからしても、「日本人以外がイメージする『勘違いされた日本』」をわざと再現しているようにしか思えない。それも……何か……明らかな
そして、どう云う仕組みかは判んないけど……この季節なのに、通りには花が咲いた桜の木が並んている。
その桜の木に、手を当てて調べてみたら……漢人の道士なんかの言葉で言うなら「気」が明らかにおかしい。
ボクが探しているものは……大地を流れる生命の「気」……漢人の言う「龍脈」に関するモノなのに……この町の至る所から感じるのは……死霊の「気」と歪んだ生命の「気」ばかりだ。
観光客だらけの町……。しかし、そこに溢れているのは……「死」と「腐敗」の気配。
何なんだ……ここは……。
吐き気がしてくる。
見掛けは立派だけど、汚染された材料を使ってる上に腐っている料理を出す「高級レストラン」。客は、自分達が食べているのが、そんなモノだと気付いていない……。
「何か……お探しですか?」
まずは、日本語……続いて、北京語・広東語・英語・韓国語(多分)で同じ事を聞かれる。
そこそこ程度には強い……それも……自分の「気」を意図的にコントロール出来る者に特有の「気」。
ボクは、声と「気」の主も見ずに逃げ出した。