百瀬 キヅナ (2)
文字数 2,295文字
涙と鼻水が止まらなくなる。
どうやら、弾頭は催涙弾だったらしい。
目が霞む……いや……待て、何が起きている?
グレネードランチャーをブッ放ったヤツが、そいつの背後から現われた……バイクらしき乗り物に跳ね飛ばされる。
かなりの速度なのに、ほぼ無音……おそらくは電動式だろう。
そのバイクに乗っていた小柄な人物……もし男なら中学生ぐらい、女だとしても、かなり小柄な方だろう……が「秋葉原」のヤツの1人を棒のようなモノで突く。
スタンロッドか……さもなくば、「魔法」の効果を持つモノらしい。あっさりと、棒を当てられたヤツは倒れる。
次のヤツは、そのチビに殴りかかるが……攻撃を片手で捌かれると同時にバランスを崩し、更に足払いを食らって転倒。
多分……「秋葉原」の連中が全員倒されるまで、2分かからなかっただろう。
そいつは、次に私の所にやって来て……。
「目は大丈夫か?」
気付いた時には、どうやら、その何者かが、私の手当をしてくれたらしい。
「あ……えっと、ありがとう……」
声からすると若い女。おそらく、まだ十代。
プロテクター付のライダースジャケットにカーゴパンツに妙にゴツいブーツにフルヘルメット。「秋葉原」の連中が着ているモノと似ているが、色やデザインが違う。
「ちくしょう……まさか……1日で2回も催涙ガスを食らう羽目になるとは……」
別の女の声。このライダースーツの女……と云うより少女より少し齢上のようだ。
「よかったな……。あと何ヶ月かは、馬鹿話のネタに使える」
「おい……ところで、お前、何で平気なんだよ?」
そう言われた少女はヘルメットを取った。
「これで疑問は解決したか?」
「お……お前、そんなモノが有るなら、私にも寄越せ」
その少女は、ヘルメットの下に、更に、簡易式とは言え、防毒マスクと防御ゴーグルを付けていた。
「悪いな。予備が有る場所が『秋葉原』の連中にバレるとややこしくなる。あんたの体の中のGPSを摘出するのが先だ」
「えっ?」
「ところで……このゴキブリは何だ?」
「その女……私の同業だ。多分、そいつが呪術で操ったんだろ」
ようやく私も気付いた。
小柄な方は、鍛えてはいるが「魔法使い」「呪術師」ではない。
私達は、人間が持つ「気」「霊力」「呪力」と呼ばれる力の「量」だけではなく「質」や「
かなりの自制心の持ち主で、何かの身体操作術を身に付けている上に、魔法・呪術に対する抵抗力は常人以上であろう事は「気」から判るが……「気」を武器として使う者特有の「質」や「
だが、もう1人は……明らかに同業だ。
梵字が描かれた襟元の破れたスカジャンに、ニット帽。靴は丈夫さと走り易さ重視のスニーカー。手には呪具らしい大型ハンマ。
おそらくは、「
そう言えば、今日、「
「『英霊顕彰会嘱託・百瀬キヅナ』さんか……。名刺はもらってていいかな?」
「えっ……あ……いつの間に?」
ふと、服のポケットを探る……。無い……。財布、
「可愛いお友達は……今の所無事だ……。ちょっと、獣医を探して診せた方が良さそうだが……」
そう言って、そのチビは、私の「相棒」が入っているポーチを見せた。
「ま……待て……」
「ああ、応急治療として、抗生物質を飲ませたんだが……問題無いかな?」
「おい、何で、抗生物質なんだ? あれ?」
どうやら、私は唖然とした表情になっているらしい。だが、「入谷七福神」のヤツは、何故、私が泡を食っているか判らないようだ……。
どう云う事だ? このチビは……私の得意な術の正体を知っているのか?
「ふ……ふ……ふざけ……」
「クレームの前に、答えて欲しい事が有る。あのゴキブリより大きい動物を操る事は出来るか? そうだな……二〜三〇〇gぐらいのモノを百個ぐらい、ある場所に仕掛けたいんだが出来るか?」
「はぁ?」
次の瞬間、銃声。
チビの方が……おそらくは、私を脅す為に……地面に向けて拳銃を撃った。
「正直に答えてくれ。出来る。出来ない。出来るがやりたくない。答は三択だ」
どうやら、「秋葉原」の狂犬どもを退治したのは……もっとタチの悪い狂犬だったようだ。
「ちょっと待て、何も聞いてないけど……どうなってる?」
そう聞いたのは、私ではなく、チビの連れ。
「この『島』に、ある兵器を運んでいる船が近付きつつある。その船を占拠しないと、マズい事になる」
「な……何の話だ?」
「その船は、単なる兵器の輸送船じゃない。本土の警察も『御当地ヒーロー』も、その船を沈められない理由が有ったんだ。……その船自体が……
「い……いや、ちょっと待て……まさか……」
「何となく判ったようだな。この『島』で、その船を制圧出来そうな連中は……ついさっき、一気に数を減らした」
「ちょっと待って……何が起きたの?『有楽町』の警察には特殊部隊が居るんじゃないの?」
話に付いていけなくなった私は、そう質問した。
「もう『有楽町』の警察組織全てには、殴り込み専門部隊は居ない。地元警察も広域警察も全部ひっくるめて」
「そ……そんな馬鹿な……。何が起きたの?」
「知らないのか? まぁ、大した事じゃない……。狼男が暴れただけだ……たった1人の狼男がな……。そいつが、警察の特殊部隊をまとめて病院送りにした」