関口 陽(ひなた) (1)

文字数 3,275文字

 「歴史の目撃者」なんてのは、言葉だけならロマンチックに聞こえるが、その「目撃者」にとっては、多分、とんでもない大騒動に巻き込まれただけの話だ。
 早い話が、どうも、私は、望んでもいないのに、歴史の目撃者になろうとしているようだ。
 この「決闘」も、「Neo Tokyo」の「自警団」の勢力地図が大きく書き変わり、下手をしたら「自警団」の在り方や「自警団」の間の色々な「不文律」が変ろうとしている事の「余波」の1つかも知れない。
 もし、何十年か後に、「Neo Tokyo」の「自警団」の「歴史」を調べようとする物好きが居たら……この近くに有る街頭監視カメラの映像の中の1コマぐらいは、後世に伝わったりするんだろうか?
 もっとも、私のような下っ端には、何が起きてるのか詳しい事は知らされていない。
 ただ、噂では「本当の関東」で「何か」が起きた。どう云う訳か、その「何か」を知った「千代田区(Site01)」の「九段」の自警団「英霊顕彰会」……通称「靖国神社」が、「本当の関東」や4つの「Neo Tokyo」、そして「本土」各地に有る様々な「呪具」を集め出したらしい。なお、ここで言う「集める」ってのは「力づくで奪う場合も有る」って意味だ。
 更に、それが回り回って、この喧嘩になった。
 風が吹いたら桶屋が儲かり、「本当の関東」の騷ぎが、遠く離れた「紛物の(Neo) 東京(Tokyo)」に飛び火する。
 「本当の関東」で「靖国神社」にとって注目に値する「何か」が起き、それを知った「靖国神社」が、何故か、あっちこっちの神社・寺・呪術者から様々な「呪具」を集め……と言うより強奪し始め、その「被害者」の中に「台東区(Site04)」の「自警団」の1つ「入谷七福神」の幹部の1人の師匠が居て、面子を潰された私達(正確には私達の幹部)は報復に動き出し、ところが、先に「千代田区(Site01)」に「事務所」を作っていた「台東区(Site04)」のもう1つの「自警団」である「寛永寺僧伽」が私達のやってる事を「所場(ショバ)荒し」と勘違いし、そして、ここ「秋葉原」地区で、「入谷七福神」の中でも「千代田区(Site01)」に「出張」中の連中と、「寛永寺僧伽」の「有楽町」事務所の連中が「決闘」をする事になった。
 本土のお行儀がいい「御当地ヒーロー」達は話が違うみたいだけど、私達「Neo Tokyo」の「自警団」の行動原理は、基本的には「ヤクザ」だ。自分達の組織が他の組織や……甚しい場合には「素人」「堅気」に面子を潰されたら、今後の「組員」の生活に影響が出る。つまり、悪気は無くても他の「自警団」の面子を潰す事は、その「自警団」への宣戦布告を意味し、面子を潰された「自警団」が相手に有効な報復が出来なかったら、繁華街でチンドン屋の格好をして鐘や太鼓を鳴らしながら「自分達は『自警団』として無能です」と宣伝するに等しい。
 そして、私達の与り知らぬ所で、話はややこしくなっていた。
 数ヶ月前に「Neo Tokyo」のほぼ全ての「自警団」にとって「ここでは騷ぎを起こさない」が「不文律」になっている「千代田区(Site01)」の「有楽町」地区の「寛永寺僧伽」事務所を、そんな「不文律」を知らなかったらしい「本土」の「御当地ヒーロー」と思われる正体不明の連中が襲撃、更に同じ日の夜に「靖国神社」の所場(ショバ)で、とんでもない騷ぎが起きた。どうも、「靖国神社」の連中が慌てて駆け付けた時には、「靖国神社」関係者二〇名近くの死体が転がっており、新品だと一台で私の年間収入を超えるような金額の遠隔操作型の人間サイズの戦闘用ロボット一〇台近くがゴミと化し、4m級の戦闘用パワーローダー2機が中破した上に操縦者は行方不明。そして、その日の夜の事件と思われる「パワードスーツを着た何者かと、『白い狼男』風の外見の変身能力者の戦い」「どうやら、パワードスーツの人物の仲間と思われる者達が、どこかに『売られ』ようとしていたらしい子供達を救出する」映像が複数の動画サイトにUPされた。
 ……その半月後、ここ「秋葉原」地区に「Armored Geeks」を名乗るパワードスーツを着た「何者か」をリーダーとする新しい「自警団」が誕生した。
 その新しい「自警団」のリーダーが着ているパワードスーツは……結構な値段の高級モデルでは有るが、あくまで民生用の機種で、動画サイトにUPされた映像に映っていたパワードスーツと製造元は同じだが、より新しい型式のモノだった。
 とは言え、パワードスーツを着た自警団のリーダー……その「絵面」から、十年前の富士の噴火で沢山の人命を救い、ここ「秋葉原」で「自警団」を率いていた今は亡き「英雄」を連想する者も少なくなかった。
 もちろん、動画サイトにUPされた映像に映っていた「パワードスーツの人物」と、新しい「自警団」を率いる「パワードスーツの人物」は背格好こそ似ていたが、同一人物である保証は無い。でも、いつしか「秋葉原」の多くの住民は、新しい「自警団」のリーダーを「子供達を人身売買組織から救った『新しい英雄』」と考えるようになっていた。
 だが、「入谷七福神」と「寛永寺僧伽」のゴタゴタの決着を付ける為の場所は、目出度く新なる「町の護り手」が出現した筈のここ「秋葉原」地区の一画になってしまった。
 本拠地である「台東区(Site04)」では大っぴらにやる訳にはいかない。両方の「エラいさん」としては、話がややこしくなった時に「末端が暴走しただけ」と云う言い訳が立つ方が良い。あくまで双方の下っ端が「本拠地」から遠く(と言ってもフェリーで1時間ほどだが)離れた場所でやる事になった。
 でも、この「千代田区(Site01)」の中でも「有楽町」地区は無理だ。4つの「Neo Tokyo」の計一六個の「地区」の内、「地元警察」が機能している数少ない地区は、どこの自警団にとっても貴重な「中立地帯」「非武装地帯」だ。「自警団」同士の「交渉」や「手打ち」に使われる場所は「安全」なままにしておく……それが「自警団」の「不文律」だ。
 一方、「靖国神社」の「所場(ショバ)」である「九段」地区は、私達がこれからやろうとしている事に大いに関係が有るからこそ、今、下手にそんな場所で「決闘」なんて出来ない。
 そして、残る2つの地区の内、「神保町」地区の自警団「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」は、今回の件に今の所関係無さそうだからこそ……奴らの「所場(ショバ)」で騒ぎを起こせば話がややこしくなる。
 残る1つの地区……2つの弱小「自警団」が争っている「秋葉原」地区であれば……「サラマンダーズ」と「Armored Geeks」がイチャモンを付けてきても……力で黙らせるなら2つまとめても、どっちかの「2次団体」か……下手したら「3次団体」でも人数が多いか「武闘派」のチームを1つ投入すれば話は終り、金で黙らせるなら……連中にとっての「大金」は私達の組織にとっては「端金(はしたがね)」なので……これまた話は簡単に終るだろう。
 そして、「秋葉原」の「堅気」「素人」にとっては傍迷惑な「決闘」が始まった。
 恨むなら、情けない自分達の「自警団」を恨んでくれ。
 とは言え、4つの「Neo Tokyo」の中でも最大・最強で最も金も人材も豊富な「自警団」の「所場(ショバ)」で何者かが騒ぎを起し、その騒ぎの関係者……もしくは、その騒ぎの関係者を装った何者かが、隣の地区で新しい「自警団」を立ち上げる……。そんな事態は、今まで考えられなかった。
 日本各地に散らばる4つの「紛物の東京」の「治安」を巡る情勢が、今、大きく変わろうとしているのは確かだ。
 まさか……全ては……「本土」の「御当地ヒーロー」達が、「紛物の東京」も自分達の「所場(ショバ)」にしようとして、裏で糸を……いや、流石に考え過ぎかも知れない……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

眼鏡っ娘
系統:近代西欧オカルティズム系

特に苦手な術は無いが、得意な術も無く、基本的な術は一通り使えるが、独自能力的なモノも無い器用貧乏。
所属組織は「神保町」地区の自警団「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」だが、「秋葉原」地区の新興自警団「Armored Geeks」に「出向」中。
歴史ある流派の残り3人からは「ぽっと出の怪しい流派のしかも半人前」と軽く見られている傾向有り。
「真の名前」の掟のせいで「一般人としての名前」は明かせない。
魔術師としての名前は「紫の女司祭」。
なお、トレードマークの「眼鏡」の正体は小型情報端末のモニタ兼カメラ。

関口 陽(せきぐち ひなた)
系統:修験道系(守護神:金剛蔵王権現)

浄化系の術と自分の身体能力を上げる術を得意とする。
所属組織は、Site04(通称「台東区」)の自警団「入谷七福神」。
「焦点具」を兼ねたハンマーを振り回すパワーファイターでもある。
彼女の流派にも「真の名前」の掟は有るが「眼鏡っ娘」とは逆に、彼女の流派では「呪術者としての名」が「真の名」と見做されているので、一般人としての名は明かしているが、呪術者としての名は明かしていない。

緋桜
系統:
台湾先住民の巫術

台湾から来た少女。「地脈」から力を取り込む術を得意とする為、「人工の島」である「Neo Tokyo」では、かなり不利。
普段名乗っている名前はあくまでも本来の名前を漢字に「翻訳」したもの。

百瀬 キヅナ
「九段」地区の自警団「英霊顕彰会」に雇われた「くだぎつね」使い。
「魔法使い」の盲点を突く特異な「魔法」による暗殺を得意とする。

玉置レナ
本作のジョーカーその1。
幼い頃に、「ある火山を司る女神」から一方的に「巫女」に選ばれた、通常の「魔法」を超えた「神の力」の使い手。
取り憑いている「女神」が司っている「山」から遠く離れた場所であっても、自分に害を及ぼそうとする大半の魔法を無意識の内に無効化し、百人近い人間を一瞬で焼き殺せるほどの熱を発生させる事が可能。しかも、魔法使い/呪術師/気功師にとっての「魔力/呪力/気力切れ」に相当するものが事実上存在しない。
ただし、あまりに強過ぎる為に、強い敵を倒すのは得意でも、弱い者を護るのは不得手。(自分には危険が無いが、一般人には致命的なモノを見落す傾向あり)
また、あくまでの「通常の魔法・呪術と表面上似ているだけの原理が異なる能力」なので、通常の魔力・呪力・気・霊的存在を検知出来ない。
なお、「魔法使い」から見れば「魔法に似て非なる謎のチート能力の持ち主」だが、肉体的には普通の人間なので「遠くからの狙撃」「毒ガスなどの魔法由来ではない有害化学物質」「魔法由来ではない細菌/ウイルス兵器」などの手段を使われれば普通に死ぬ。

高木瀾
本作のジョーカーその2。
常人が「神の力」の使い手に対抗する為の「鎧」である「対神鬼動外殻・護国軍鬼4号鬼」の継承者。
魔法的な能力は一切無く、常人でも後天的または訓練や学習のみで身に付け得る能力・技能しか持っていないが、6名の主要キャラの中でも、最も「場数」を踏んでいる。
近接戦闘を主体とした戦い方をするが、実は、「鍛えても体が大きくなったり筋肉が付いたりしにくい」体質で、全体的な戦闘能力・戦績の割には、純粋な身体能力は低く、戦闘能力の大半は、あくまで、「機転」「経験」や訓練で身に付けた「技術」によるもの。
「『死にたくない』と云う意識が希薄」と云う、ある意味で危ない性格であるが故に、逆に、自分の生命が危険に晒されている状態でも冷静な判断を行なう事が可能。
「どこの世界に、折れたら困る家宝の刀を担いで、のこのこ戦場に行く阿呆が居る?」が口癖であり、「道具や兵器は、何らかの『目的』を果たす為にこそ有り、道具や兵器のせいで『果たすべき目的・目標は何か?』が制約されるのは本末転倒」と云う考えを持っている為、「代りが無いワンオフ品のチート兵器」の筈の「護国軍鬼」さえも、平気で、ブッ壊しかねない荒っぽい使い方をする傾向が有る。

石川勇気
「Neo Tokyo Site01」の「秋葉原」地区の新興自警団「Armored Geeks」のリーダー。数ヶ月前にかけられたある魔法の副作用により、いわば「擬似的なサイコパス」と化しており、「眼鏡っ娘」が抱いているある罪悪感を利用して彼女を支配している。

「ワイズマン」
「本当の関東」の犯罪組織のリーダー。富士の噴火の前に作られた伝説の兵器「国防戦機・特号機」と、そのパイロットを「作る」のに必要な「あるもの」を所有している。

「護国軍鬼・零号鬼」
高木瀾の先祖が生み出した「対神人間兵鬼」と呼ばれる「改造人間」の唯一の成功例。
生きてるとしても100歳以上の筈なのだが……。

秋光清二
「本土」の「異能力者犯罪」専門の警察機構「レコンキスタ」の中でも「異能力者」から成る特殊部隊「ゾンダーコマンド」の一員。
「エンコウ」と呼ばれる「水妖(≒河童)」の血を引く中年男。

久米銀河
「本土」のある暴力団の幹部で、獣化能力・高速再生能力などの複数の「異能力」を持つ。
前作の終盤で「Neo Tokyo Site01」のある「自警団」が行なった事により「風評被害」を被り、報復の為に「Neo Tokyo Site01」に乗り込む。
警察機構の一員である秋光清二と何故か旧知の間柄で、それほど年齢が変らない秋光の事を「大オジキ」と呼んでいるが、同時にお互いに良く思っていない模様。
水妖(≒河童)の血筋の者が幹部の大半を占めている組織に所属している「別系統の異能力者」である為、実力は評価されているが、同時に「外様」扱いされている。

「Armored Geeks」
「Neo Tokyo Site01」(通称「千代田区」)の「秋葉原」地区の新興「自警団」。
「九段地区」での児童誘拐・人身売買を阻止した動画がインターネット上の動画サイトにUPされた事が切っ掛けで勢力を拡大する。
2〜3ヶ月前に活動を始めたばかりの弱小勢力だが、「自警団」の不文律を無視する事が多く、「自警団」の中での「台風の目」と成りつつ有る。

「サラマンダーズ」
「秋葉原」地区の、もう1つの「自警団」。
最初の「自警団」とされるが、初代リーダーにして石川勇気の父親である石川智志の死後、内紛が発生し、勢力を弱める。
現在では機能不全気味。

「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」
「Neo Tokyo Site01」(通称「千代田区」)の「神保町」地区の「自警団」。
近代西洋オカルティズム系の「魔導師」が中心メンバー。
今回および前回の騒動では局外中立を保っているように見えるが……。

「英霊顕彰会」
「Neo Tokyo Site01」(通称「千代田区」)の「九段」地区の「自警団」。
通称は「靖国神社」だが、社会的に「本物の靖国神社」の後継組織と見做されているかは別問題。
幹部クラスは神道系の「死霊使い」だが、金・人・機材が最も豊富な「自警団」であり、様々な流派の「魔法使い」や先天的または「魔法」由来ではない異能力者、魔法ではない科学技術由来の機材・兵器も多数擁する。
「Neo Tokyo」の「自警団」の中では「2位以下に大差を付けた最強」であり、他の「自警団」からは良く思われていないと同時に、「英霊顕彰会が対抗出来ない勢力がNeo Tokyoに進出する≒『自警団』による治安維持システムの危機」と見做されている。

「寛永寺僧伽」
「Neo Tokyo Site04」(通称「台東区」)の「自警団」2強の片方。
戦闘要員の大半は天台密教系の呪術師であり、「男女問わずスキンヘッド」と「首からかけた数珠」が「制服」代り。

「入谷七福神」
「Neo Tokyo Site04」(通称「台東区」)の「自警団」2強のもう片方。
「寛永寺僧伽」と同じく呪術師/魔法使いが主力の「自警団」だが、流派は多様(ただし大半が日本の伝統的な流派)。
背中に「宝船に乗った七福神」の絵が描かれたスカジャンが「制服」代り。
なお、「入谷七福神」は組織の名であると同時に、最上位幹部7人の通称でもある。

「ローカパーラ」
「本土」の「御当地ヒーロー」「正義の味方」の組織。
ただし、「横のつながり」「支部同士のつながり」をわざと疎にしている「組織」と云うより「ネットワーク」と呼ぶべき集団。
特に「制服」に相当するものはなく、各自が「好きな格好」「能力に応じた格好」をする事が多い(とは言え、「正体が露見しかねない格好」「動きにくい格好」「安全性に問題が有る格好」をする者は0で、「防具・通信機器・センサを兼ねたフルヘルメット」に「丈夫かつ動き易い素材で出来た肌の露出が少ない服」が基本)が、通信機器の規格などは厳密に決められている。
組織名の本来の意味は「世界を護る神々」を意味するサンスクリット語で、7人の創設者は仏教の「護世八天」にちなんだコードネームで呼ばれている。(ただし、組織内では「8人目の創設者が居たが戦闘能力の無い『裏方』だった為に、他の7人より正体に関する情報が厳重に秘匿された」「そもそも8人目など居ないが、何かの理由で初期に『もう1人のメンバーが居る』ように偽装しなければいけな事情が有り、7人しか居ないのに8神1組の神々に由来するコードネームを使った」の両方の噂が有る)
明確な「リーダー」「中枢」が存在しない為、敵対者からすれば「潰しにくい」と同時に、内部の者から見れば「解散する事が事実上不可能」な、言わばゲリラ的な組織。
組織の性質上、メンバーの数は不明だが、後方支援要員も入れれば、九州だけでも4桁は確実と見られており、「Neo Tokyo」の自警団には、ほぼ見られない「医療専門チーム」「工房」「後方支援用の大規模な分散型コンピュータ・システム」などを擁する。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み