高木 瀾(らん) (5)
文字数 1,735文字
前世紀の安っぽくて古臭いSFに出て来る「それは非論理的です」が口癖のAIを今の技術で作れるか?
その答は、YesにしてNoだ。
二〇世紀から……AI研究には2つの流れが有った。
1つは人間の「理性」「合理性」を再現しようとするもの。
もう1つは、比喩的な表現だが……人間で云うなら経験に基く「直感」を再現しようとするもの。
AIと云う言葉で雑に一緒くたにされている2つのモノは……実は全然別物で、後者はかなり高度なモノが作れるようになったが……前者は……死屍累々だ。
つまり、誰かが書いた文章を本当に論理的に分析して「その文章は論理的か?」を判断するAIは……夢のまた夢だ。
だが、内部処理に論理性など無く、単に過去の統計データを元に「その文章は論理的か?」をパターン分けするだけのAIなら……「文章の意味」をAIに「理解」させずとも可能だ。ただ、これは「相手の言っている事が論理的かを論理性ではなく直感により判断する」と云う何とも奇妙な代物である事に変りは無い。一歩間違わなければ、用途にも依るが「実用上十分」なモノが作れても不思議では無いが、一歩間違えば、SNSに良く居る「気に入らない相手を『感情的になって非論理的な事を言ってる阿呆』だと決め付ける自分が阿呆である可能性から目を逸らしてる本物の阿呆」のAI版が誕生しかねない。
そして……もう1つの重大な誤解。
理性的・合理的な判断は処理に負荷がかかり、結論が出るまでの時間は長くなるが、柔軟な判断が可能になり、全く新しい何かを生み出せる可能性が有り……直感に基く判断は処理は軽く、結論が出るまでの時間は短かくなる代りに、硬直した判断になり、経験した事の範囲内でしか答を出せない危険性が有る。
逆ではない。
ましてや、自分の意志や、人生における様々な不確定要素により、多様な経験や学習を行う人間ではなく、学習データそのものが何らかの選別をされているAIの場合は、その傾向がより強まる。
ではそこに「国防戦機は、いわば、世界最初の軍用パワーローダーの1つ」だと云う事実を組合せると、どんな結論が出るか?
それより以前には「軍用パワーローダーの操縦者」など存在せず……その後、ある程度時が過ぎても「ベテランの操縦者」はほとんど居なかった。
「操縦者の多くは素人。少なくともベテランではない」事の対策として行なわれたのがAIによる至れり尽くせりの支援・補助だ。
操縦者の動きを完全にトレースするのではなく、操縦者とは体型も関節の位置・可動範囲も結構違うパワーローダーの動きに……それも機械的にではなく最適化された形で変換する。
銃撃をする時もAIが補正してくれる。それにより、操縦者の手が震え、標的が動き回っていたとしても……「実用上十分」な程度には弾は命中する。
そして……あの「国防戦機・特号機」の操縦者が、どこの誰かは知らないが……あれを所有している犯罪組織のこれまでのやり口からして……操縦者は「使い捨ての素人」だ。
戦い方はAI頼みになるが……そのAIは十年前に製造元が富士山の火山灰に埋まって以降、更新されていない。
つまり……「『ひとむかし』と云う振り仮名を振りたくなる時代に想定された任務の内、九十何%かでは有るが一〇〇%ではないモノを、素人でも卒なくこなせるように支援・補助する」……それが、特号機・通常型を問わず「国防戦機」のAIに出来る事であり……同時に限界だ。
そして……私は……。
特号機がバランスを取る為に足を大きく開いた時を狙って、その股グラを潜り、相手のAIの予想外の位置に移動。
特殊素材「不均一非結晶合金」製の軍刀でヤツの脚部装甲を斬り裂き……。
銃口を向けられれば、射線が通らない地点の内、なるべく
「護国軍鬼4号鬼と私の組合せなら可能、かつ、相手への有効な攻撃になるか、相手の攻撃を回避出来る」が「普通のヤツなら絶対にやらない」ような真似を