緋桜 (2)
文字数 780文字
向うは追って来る。
変だ……。山道で鍛えてる筈のボクに、あっさり追い付いてくる。
ボクを追っているのは、黒一色の服を着た女の子。どこかのデザイナーズ・ブランドの服かも知れない。
香港や上海や台北やソウルの繁華街に居ても、お洒落な方に見えるだろう服だ。
でも……何か違和感が……あ……靴だけはウォーキングシューズ系のスニーカー。ちょっとした山歩きの時に履いてても、おかしくなさそうなヤツ。
ホームに入り、あわてて電車に乗り込み……。
「あの……大丈夫ですか?」
電車の中に居た見ず知らずの中年の女の人がボクにそう聞いてきた。
「えっ?」
「足から……血が出てますよ……」
見ると、右の脹脛に……いつの間にか小さな傷が出来てる。
「あ……すいません……」
ボクは傷を覆うようにハンカチを巻いた。
ちょっと待て……この傷は……まるで……小さな……多分、猫なんかより更に小さい動物に噛まれたような……。でも……いつだ?
しかし……これから、どうするか?
ボクがあわてて乗ったのは、この「島」を周る環状線だ。その中でも島を反時計回りに周回する路線らしい。
「九段」地区から、「神保町」を通り、「本当の東京」に有った電気街・オタク街の名を持つ「秋葉原」、そして、この「島」と「外」を結ぶ港が有り、ついでにこの「島」で唯一マトモな「警察」が有るらしい「有楽町」を経て「九段」に戻る路線。
さて、どこで降りて、これからどうしよう、と考えてる内に……段々と変な感じがしてきた。
「神保町」地区を通り過ぎて「秋葉原」に入る頃……何故か、寒けがしてきて、体が震え出した。
「何か、お困りですか?」
「うわあああああ………っっっっっ‼」
目の前には、「九段」でボクを追い掛けてた女の子が居た。