久米銀河
文字数 1,733文字
フェリーから「島」に上陸した時に、俺が乗っているトラックにやって来た警備員は、既に
「おい、姐さん。俺は正当防衛以外では女は殺さない主義なんで、とっとと逃げな」
「んぎゃっ♥」
運転席に居る「組員」は、おどけた鳴声を出す。こいつも既に「河童」形態に変身済みだ。
熊本の連中みたいな虎縞も無ければ、広島の連中みたいに手足を伸ばす能力も無い、オーソドックスな、子供向けの「妖怪図鑑」にでも出て来そうな「河童」だ。
「本部、応援をお願いしますっ‼」
警備員の姐さんは運転席に拳銃を向ける。この「島」で最も「平和」な地区のヤツにしては、中々、腹が座ってるようだ。
「みぎゃ〜っ」
運転席の「組員」が、またしても、ふざけ半分に怯えたフリをする。
「えっ?」
警備員の姐さんは運転手の予想外の様子に一瞬戸惑ったようだ。だが、警備員の姐さんの表情が厳しいものに変った瞬間……。
次々と、自動小銃や散弾銃を手にした「組員」がトラックのコンテナの中から出て来る。もちろん、変身能力持ちは、変身済みだ。
だが、応援の警備員も次々と駆け付ける。一応は防弾用のボディアーマーを
俺は、トラックの助手席から飛び降りる。
「抵抗するなら撃つっ‼」
警備員のリーダー格らしいのが、そう叫ぶ。
1秒経たない内に、俺が抵抗したと判断したようだ。その判断は正しい。銃弾が飛んで来る。
とは言え、奴らは、決定的な判断ミスを犯している。
並の人間なら一瞬で穴だらけになる銃弾も、俺には通じない。俺を殺したければ、対物ライフルかバスーカ砲か……さもなくば化学兵器でも使用すべきだった。
俺は変身した時の体毛の特性を一時的に変える事が出来る。
相手が殴ってきた時は打撃のダメージを防ぐのに適したものに。相手が刃物を持ってる時は……斬り付ける構えなら斬撃を防ぐのに、突いてくる構えなら刺突を防ぐのに適したものに……。そして、銃を持ってる時には、銃撃を防ぐのに適したものに。
既に、俺は、体毛の特性を「銃弾用」に変えていた。
俺の爪や牙は、易々と奴らのボディアーマーを貫き斬り割いていく。
わざと、防御力が弱い部分は
最終的には、この「島」を、ウチの「組」が仕切らせてもらう以上、こいつらの死に様こそが良いデモンストレーションになる。
「おい、堅気の皆さんの避難誘導を頼むぜ」
「了解」
これも将来の為のデモンストレーションだ。警察や……「自警団」を称する事実上の同業者よりも、俺達の方が遥かに頼りになる上に「堅気」の事を気にかけてる、と云う事の。
気付いた時にはサイレンの音。
地元警察、対組織犯罪広域警察、
次々と雑魚の皆さんがご到着だ。
堅気の皆さんが逃げてる最中に催涙弾をブッ放つなんて真似をしてくれたら、こっちの宣伝になるんだが……まぁ、いくらなんでも、奴らも、そこまで阿呆じゃあるまい。
「堅気の皆さんの避難が大体終ったら、狙撃手が居そうな所との間に煙幕を張れ」
「了解」
さて、宣伝の続きだ。俺は、
黄色いのは、背中に有る機械仕掛けの腕を展開。
俺の両手と、黄色いのの機械仕掛けの腕が組み合う……。言わゆる「手四つ」の状態だ。
「ええっ?」
次の瞬間、機械仕掛けの腕が両方とも折れる。もちろん、純粋な力なら、機械仕掛けの腕の方が上だろう。しかし、残念ながら、デカ過ぎる。要は梃子の原理を利用した手品だが、これも、俺達が、この「島」を仕切るようになった後を見越した宣伝だ。
「恨むなら……安物の装備しか支給しなかった、あんたらの『上』を恨みな」
俺は木偶の坊どもに死刑宣告を行なった。
罪状が何かって?
遥か太古から、多くの悲劇の原因となりながら、良識ある堅気の皆さんが何故か処罰の対象から外してきたものだ。
何で、とっとと逃げねぇんだ?「馬鹿」だった事を死をもって償え。