関口 陽(ひなた) (2)
文字数 3,133文字
高倉健とか云う大昔の役者の主演映画みたいに、ついに堪忍袋の緒を切らした相対的に善良な「自警団」の最後の生き残りが、「自警団」同士の「不文律」すら平気で無視する悪辣極まりない別の「自警団」の親分の家に夜更けに斬り込みに行ったりしないし(あと「自警団」同士の「不文律」ってのは、デカくてロクデモない所に有利になってるので、悪辣な所ほど「不文律」をちゃんと遵守して、相対的に良心的な所ほど「不文律」を破りまくる、と云う事情を知らない人には説明困難な事態が、私達の「業界」では一般的だ)、一九八〇年代の有名な実際のヤクザの抗争みたいに、
ヤンキー映画の中のヤンキー同士の果たし合いよろしく、まるで、お互いで予め合意した場所・時間に、これまた、まるで、予め合意したかのように、双方、大体、同じ位の人数だけやって来て、正面から向き合い……。
「おらぁッ、行くぞぉッ‼」
「野郎どもぉッ‼ あのチンカスどもをぶっちめろッッッ‼」
実は、それは当然で、いざこざの決着を「決闘」で付ける場合は、あくまで、いつの間にか「業界」の「慣習」と化している……起源となった「決闘」の当事者の片方の名を取って「石川方式」と云う呼び名の
どんなロクでもない「自警団」でも、どんだけ相手の「自警団」より優位にある場合でも、どれほど話が抉れまくっていようと、この
もちろん、当事者の片方が、そんな
ついでに、「決闘」の際は、物陰や高い場所から銃なんかで狙撃したりもしない。それは、あくまで、本物の「犯罪者」対策だ。いや、「本土」の連中からすれば、私達も立派な「犯罪者を違法に取締ってリンチにかけてる風変わりな犯罪者」だろうが。「本土」の「御当地ヒーロー」の中には、最後は「犯罪者」を警察に引き渡す奴も居るらしいが、「Neo Tokyo」では一部の地区を除いて「マトモに機能してない警察」に「凶悪犯」を引き渡したりするような危険かつ無謀な真似をする訳にはいかない。
そして、こう云う「決闘」は自分達の「実力」を宣伝する場でも有るので、あくまで正々堂々が基本だ。「決闘」の筈なのに、こっそり、物陰から相手のリーダーを卑怯な手段で仕留めてる所を動画サイトにUPされたりしたら、「堅気」の皆さんの信用を失ない、同業者からは馬鹿にされる羽目になる。
と言っても、私達「入谷七福神」も相手の「寛永寺僧伽」も俗に言う「魔法使い」系の「自警団」なので、辺りには飛び道具が文字通り飛び交っている。
「気」「護法童子」「式神」その他色々……若干の問題は、この手の「決闘」は宣伝も兼ねてるのに、その手のモノはカメラに写らないと云う事だ。多分、この「決闘」の様子が動画サイトにUPされても、見てる人達には何が起きてるか判んないだろう。
「うげっ……」
今、敵の「護法童子」にやられた先輩も、突然、倒れたようにしか見えず、続いて私がやった事も、その「護法童子」を霊力を込めた大型ハンマーで叩きのめしたのではなく、頭のおかしい女が、無茶苦茶に大型ハンマーを振り回してるようにしか見えないだろう……。
ゴゴゴゴ……。
その時、大きな音がした。燃料がガソリンか軽油かまでは判らないが、内燃機関式のキャラピラ走行の車両がこちらに近付いて来る音。
この町の自警団の1つ「サラマンダーズ」のマークが入った土木工事用の重機。しかし、遠隔操作式じゃなくて、操縦席には人が居る。
こりゃいい。ちょっと派手な場面が撮れる。
「オン・バサラ・クシャ・アランジャ・ウン・ソワカ」
私は「守護尊」である金剛蔵王権現の真言を唱える。もっとも「守護尊」とは言っても、実在しているかどうかは知らないし、実在していても、私の「力」や私が使っている「護法童子」が、畏れ多くも金剛蔵王権現様より御下賜いただいたものかは不明だ。
私の流派で「守護尊」とは「専門」とする術の系統を示す「記号」に過ぎない。別に、大天使ウリエルと呼ぼうが、邪神クトゥグアと呼ぼうが、効果に違いはなく、単に、私の流派が修験道系だから「得意な術はどんな系統のものか」を一言で言い表すのに「金剛蔵王権現が守護尊」だとか「薬師如来が守護尊」「孔雀明王が守護尊」だとか言ってるだけだ。
呪文を唱え終ると同時に、私は走り出す。
重機のショベルが私を狙って振り降されるが……遅い……。
私は飛び上がり、操縦席を覆うガラス窓に大型ハンマーを叩き付ける。
ガラス窓は一発で割れる。とんだ安物だ。私が工事現場の人間なら、ちょっと恐くて使う気になれないだろう。
「うわああああ……」
驚いた操縦席の中年男は、ドアを開けて逃げ出していった。
火事場の馬鹿力を一時的に引き出している今の私でも、下手したら追い付けないほどの中々のスピードだ。
呪術者であれば、普通なら、こう云う場合は、操縦者を呪術で殺すなり意識を失なわせるなりするだろう。
だが、そんな光景は「画」としては地味だ。私は「どうだ、見たか」とばかりに大型ハンマーを振り上げる。
「ん?」
その時、この場にバイクに乗った2人連れが居る事に気付いた。明らかに、「入谷七福神」「寛永寺僧伽」のどちらの関係者でもない者が2人。
前の座席には、プロテクター付のライダースーツの男。後の座席には……ヘルメットもしていない、ストリートファッション風の臍出しルックに青いデニム地のコートに眼鏡の……私より少し齢下らしい女の子。
待て……運転席の男は……単に何かの「護符」を持ってるだけのようだが……女の子の方は……。
本人からは、そこそこ程度の……しかし明らかに一般人よりは上の「力」を感じる。そして、コートは……本人の「一般人では有り得ないが、同時に、あくまでも、そこそこ程度」の力とは不釣り合いな、かなり強力な防護魔法がかけられているようだ。もう1つ。何か強力な「力」を持つ「武器」……と言っても、何かの「術」を使う為の道具だと思うが……の気配も感じる。
何者だ? こいつは……私達と同じ……「呪術者」「魔法使い」だ。
ところが、次の瞬間……その眼鏡の「魔女っ子」の顔に驚いたような表情が浮かんだ。
その視線の先には……。
また別の女の子が1人。
明る目の色の作業着。
染めてるのか地毛なのか判断が付かないライトブラウンの髪。
こっちは何の力も感じない。最近は一般人でも入手出来るようになった「呪術」や「悪霊」から身を護る為の「護符」すら持ってないようだ。
「おいおい、危ねぇ真似やってんじゃないよ……」
それも二重の意味で。
1つは、一般人が呪術者が集団で「決闘」をしてる場所に、その手の「護符」すら持たずにノコノコやって来た為。
もう1つは……そいつは、自転車に乗ったまま、