第59話 付録:美岬の素材ノート②植物編

文字数 2,174文字


(あし)

《美岬のコメント》
 水辺に群生しているススキを大きくしたようなイネ科植物で3㍍ぐらいまで成長するっす。冬枯れしたものを刈り取って(すだれ)にしたものが葦簾(よしず)っす。アシは悪しに繋がるってんで縁起を担ぐ江戸っ子は葦を『よし』と呼ぶっすけど、あまり気にしない関西以西では今でもアシと呼ぶっすね。
 太い根を掘り出して乾燥させれば漢方薬の蘆根(ろこん)になるっす。煎じ薬にして利尿、消炎、止渇、鎮吐に処方されるっすね。


(くず)

《美岬のコメント》
 めちゃくちゃ繁殖力の高いマメ科植物で1日で50㌢ぐらい成長することもあるっす。荒廃した土地に真っ先に育つパイオニア植物の代表格っす。根からは葛粉、蔓からは布にできる植物繊維が採れて、根と花は薬になって、豆と若い蔓は美味しく食べられるすごい植物っすけど、利用しない人たちからはグリーンモンスターと嫌われてるっすね。
 根のデンプンの多い部分を乾燥させれば漢方薬の葛根(かっこん)でこれは風邪薬っす。花を乾燥させれば漢方薬の葛花(かっか)で二日酔いの薬になるっす。


・ジュズダマ

 水辺に生えるイネ科植物でハトムギの野生種なので普通に食べられるっす。ただ、野生種は殻が硬いので殻剥きに苦労するっす。受粉出来なかった実は黄色くなって、受粉出来た実は黒くなってそのあと灰色を経て白くなるのですぐ分かるっす。剥いた殻を煎って煮ればハトムギ茶になるっすね。
 実を乾燥させれば漢方薬の薏苡仁(ヨクイニン)として使えるっす。利尿、消炎、関節痛や筋肉痛の痛み止めとして昔から使われてるっすよ。


・スダジイ

《美岬のコメント》
 日本中にたくさん生えてるブナ科の常緑樹っす。椎の木ってよく聞くっすけど、実はシイノキという木は無くて基本的にこのスダジイのことを指すっす。ドングリの木は色んな種類があるっすけど、スダジイのドングリはアク抜きせずにそのまま食べれるので縄文時代からよく食べられてたっす。ドングリは樹皮みたいな皮に包まれていて、その皮が筏がわりになって海に浮かんで移動してたどり着いた浜で芽吹くことがよくあるので浜の後背地の植物としてメジャーな存在っす。
 長生きな木としても有名で、国内にも樹齢500歳を越える古木がまだまだたくさん残ってるっすよ。
 ちなみに椎茸(しいたけ)は、自然状態ではスダジイの枯れ木に生えるから椎茸という名前がついてるっす。


・ハマゴウ

《美岬のコメント》
 関東以西の海岸によく生えてるシソ科の海浜植物っす。リラックス効果と防虫効果のある強い香りがあるので昔は蚊取り線香の材料にも使われてたらしいっす。名前の由来は浜の香っすね。
 実を乾燥させれば漢方薬の万荊子(まんけいし)っす。鎮静、鎮痛、消炎効果があるっす。入浴剤として使えば筋肉痛や関節痛によく効くらしいっす。
 ガクさんは何やらスパイスとしての可能性を見いだしてるらしいっすけど、このまま食べるとエグくて苦いっすよ。


・ハマエンドウ

《美岬のコメント》
 日本だけじゃなくて世界中の海岸に生えてるマメ科の海浜植物っす。見た目もサイズも雑草のカラスノエンドウによく似てるっすけど、豆のサイズがもう少し大きいっす。
 一応食用になるっすけど、微毒があって食べすぎると下半身に麻痺症状が出ることがあるっす。なので主食じゃなくて、味噌や醤油なんかの調味料の材料にしてみようと思ってるっす。


・ハマダイコン

《美岬のコメント》
 砂浜に自生している野生種の大根っす。元々は畑の園芸品種が野生化したものと思われてたっすけど、DNAを調べるともっと原始的な、原種に近い種だと判明したっす。根はあまり大きくはならないっす。
 種を乾燥させたものは漢方薬の莢服子(らいふくし)っす。これは胃腸薬っすね。そもそも大根そのものに殺菌、整腸作用があるんで、昔から“大根おろしの医者要らず”なんて言葉もあるぐらいっす。


・ハマナス

《美岬のコメント》
 主に関東以北の浜によく生えてる寒さに強い野生種のバラっす。花は香りが強いので精油を採って香水の原料にしたりするっすね。この精油には血流改善や血管拡張の効果があるっす。
 秋に生る実は生食できる甘酸っぱいフルーツっす。
 咲いた花を乾燥させれば漢方薬の玫瑰(まいかい)っす。これは気分をリラックスさせる効果があって、ストレス性の胃炎や生理不順なんかの改善に使われるっす。


・ハマヒルガオ

《美岬のコメント》
 わりとどこの浜でも見かけるヒルガオ科の海浜植物っす。ヒルガオの葉っぱがスペード型なのに対してハマヒルガオは丸っこいハート型っす。
 アサガオやヒルガオには毒があるっすけど、ハマヒルガオには無いっす。とはいえ生薬としての使い途も無いのでただの人畜無害植物と思ってたっすけど、ガクさん曰く美味しいらしいっす。


・ハマボウフウ

《美岬のコメント》
 食用の海浜植物としては一番メジャーな存在じゃないっすかね。セリ科の香味山菜として有名で、場所によっては採り尽くされて問題になってるっす。春先の柔らかいものは生でも食べれるっすけど、夏の固くなったものは薬味程度の利用がおすすめっす。


・モチノキ

《美岬のコメント》
 塩害に強いのでスダジイと同じく後背地によく生えてる樹木っす。赤い実は小鳥が好んで食べるんで、渡りをするツグミなんかの小鳥の糞に混じって棲息域を広げるっす。
 樹皮からは鳥黐(とりもち)が採れるのでそれが名前の由来っす。あたしはやり方は知らないっすけど、ガクさんは知ってるらしいっす。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

■名前/谷川 岳人(たにがわ がくと)

■年齢/36歳

■職業/調理師、ジビエレストラン経営者、バックパッカー、コラムニスト、山岳ガイド、遭難者捜索ボランティア

■別名/シェルパ谷川、サバイバルマスター

■人物紹介/僻地の別荘地でジビエレストランを経営する傍ら、山岳ガイドや遭難者捜索ボランティアをしている。以前はバックパッカーとして世界中を旅してシェルパ谷川というペンネームでアウトドア雑誌に紀行文を連載していた。サバイバルマスターという呼び名はその頃についたもの。家族や親しい人たちを全員亡くし、失意の中で一人旅をしている時に美岬と出会う。



■名前/浜崎 美岬(はまざき みさき)

■年齢/17歳

■職業/高校生、農大附属高校2年、コンビニ店員、有用植物研究会所属

■人物紹介/離島出身で本土の農大附属高校に一人暮らしで下宿しながら通っている。仕送りが少ないのでコンビニでバイトしている。過疎化、高齢化が進む故郷の島の村おこしのために名物になりうる作物を研究するために農大附属高校に入った。大学生メインのサークル『有用植物研究会』に所属しており、パイオニア植物が専門。中学までは歳の近い子供がいない島の分校で学んだため、同級生との接し方が分からず、クラスでは孤立しており、ややコミュ障。盆休みに実家の島に帰省する途中の船で岳人と出会う。岳人のコラムは昔から愛読していた。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み