第18話 マジ・カン第1期再放送~スリーパースイーパー~
文字数 3,211文字
最近父親の夢を見なくなった。
田中宮司は休憩時間、座椅子に寝転びギシギシさせながら、お煎餅を食べ、
「敵が川に接近したら、下流に流されて振り出しに戻るピタゴラスイッチシステムを作ろうとしたのよ。住田 君にも布石 を手伝ってもらってさ。布石って……オセロみたいなもんだよ。土地のツボ要所要所に配置してパタパタって白くするんだ。ヤツらはそれを黒くひっくり返すから厄介なんだよ。それなんだけど、何か途中で相手が勝手に自滅していったような感触なんだよね。仮病が、ガチなやつになったみたいな。もう君に執着していないから安心して。君も背中が軽くなった感触あるでしょ?」
「はい」
「まあ、よかったじゃん。お煎餅食べなよ」
「はい、でもバイトは続けてもいいですか?」
「いいよー」
宮司は「マジマジマジカルカンファ~レ~ンス、保健室のソルジャーあ~」
鼻歌まじりでテレビをつけた。
『マジカル・カンファレンス第1期 第3話 “男子は引っ込んでいなさいよ!” 』
宮司は深夜アニメを録画している。
「これ、高山さん見たことある?」
「見たことはないです、中学生のときクラスの子達が話しているのを聞いたことはありますけど。私が誰かに似ているとか」
「あーわかった、ナツメグだ」
*****
~私、シナモン、16歳。男性恐怖症の劣等生。
何故かって? 中学校の卒業式の帰りに通りすがりのサラリーマンから羽交い締めにされ資材置き場に連れ込まれ、レイプされそうに!
たまたま近くを犬を散歩させていたおじさんが通りかかり、エース君が吠えかかって助けられたの。
エース君っていうのは、秋田犬の名前。
だから私は断固、犬派!
でもね、そのときの衝撃がフラッシュバックするようになり、無気力になっちゃった。
高校入学してからどんどんどんどん成績が下がっていった。
心配した親に脳機能研究センターに連れて行かれカンファレンスを受けたらね、なんと『清掃屋 』の能力が認められて特待生に認定されたの。
びっくりよね。
今は保健室登校して、眠りながら仲間と潜在する悪の芽を清掃する日々。
コードネームは ”スリーパースイーパー”
けっこう疲れるし大変だけど勉強するよりはマシかな?
さあ国債奨学金ゲットよ!
卒業したら防災技術開発大学校、通称 “防開大 ” に進学してレベルアップして、私を襲ったサラリーマンを見つけ出すの。
私の手で死骸化調整区域 送りにしてやる。
バカだけどアイツのことは忘れないんだから! ~
*****
田舎から出て来た純朴な女の子を騙すヤリサーのメンバー3人。
3人がクラブにいるのを確認し、懲らしめようとナツメグとカルダモンとで駆けつけたら、男子チームが先回りしていた。
男子チームはいつもゲーム感覚。
ボーガンを使っているのは弓道部の副部長ゴマ、ライフルはサバゲー部のコウジ、ドローンを飛ばし偵察して指示を出しているのは俺様気質のサンショウ。
3人で相手の退路を断ちながら追い詰めて遊んでいる。
カルダモン〈ちょっとー男子! 遊んでいないでさっさと仕留めなさいよ〉
コウジ〈うるせーブス、今いいところなんだよ、しゃしゃるな〉
カルダモン〈へえ、アタシの鬼女 発動して炎上させるわよ?〉
サンショウ〈俺たちのストレス解消を邪魔すんな、女は引っ込んでいろ〉
ナツメグ〈あんなの去勢 すれば一発だろう 薬で泥酔させてマワして動画撮るなんて情状酌量 の余地無し〉
ゴマ〈なんでもかんでも去勢するなよ、女は短絡的だよな〉
シナモン〈コウジ、サンキュ! ゴマ、任せた! サンショウ、ナイスカバー? 戦隊ゴッコなの? ウケる、早く続き見せて〉
サンショウ〈なんだと、数学4点女〉
シナモン〈勉強ができなくても私達はね、国債奨学金ポイントで防開大に進学できちゃうの。雑魚は引っ込んでいなさいよ〉
*****
「シナモン、可愛い声だけど口悪いですね」
「全員やべーよな」
また別の日に見た第9話 “ショッピングモールの宇宙人”
*****
1階の多目的トイレを使い、14歳中学生男子が女児にいたずらを繰り返していた。
被害者家族は自分たちを責めていた。親は子どもから目を離してしまったことに、女の子は両親を悲しませてしまったことに。
呼び出しランプを見て心配してドアを開け、中に連れ込まれた小学生女子もいた。困っている人を見ると放っておけない子だったのに。
シナモン、ナツメグ、サンショウ、コウジで出動。
ナツメグが剪定鋏 で男を不能にしようとしたが、まごついていて様子がおかしい。コウジが麻酔銃で援護する。
サンショウ〈あっ撤退! 対象はサイコパスの宇宙人みたいなヤツだ、一旦撤退して!〉
コウジ〈了解 深追いは禁物か〉
シナモン〈今から多目的トイレの解体作業に入る、ヤツごと他次元へ吹っ飛ばす〉
ナツメグ〈ヤツは消えたよ。私の剪定鋏がボロボロ。剪定が不完全だった〉
コウジ〈これからの人生、不完全に興奮するようになるのかなアイツ、それはそれで同情するね〉
サンショウ〈バカ、お前も危なかったぞ。ヤツの外見は中坊だけど、中身はモンスターだ〉
コウジ〈離脱するときヤツの首に赤いインクを付けた、現実世界でも見つけられるように。首に大きな赤い痣 のある男に注意だ〉
シナモン〈コウジにしてはでかしたわ〉
コウジ〈なんだよ偉そうに、本当は男が怖いくせに。ホラホラ、泣かせるぞ……でもマジで疲れた。サフラン先生~〉
ナツメグ〈私もしんどいよ……サフラン先生、蜂蜜たっぷりのホットミルクが飲みたい〉
サフラン先生〈いいわよ、その前に全員手を洗って薬湯を飲みなさい〉
グリズリー君〈はい、先生、厄落としスペシャルブレンド出来た〉
サフラン先生〈ありがとう。グリ君にもホットミルク作ってあげるわね〉
コウジ〈げー、これ、最凶最悪に苦いヤツ〉
シナモン〈先生はいっつもグリ君ばっかり甘いんだから〉
*****
「この話さー、現実にどこかで起こっているような気がするんだよ。けっこう現実とシンクロしているときがあってさ。2期なんてヤバイよ」
すると2期の予告編が始まった。
*****
「ご当地アイドルバジルちゃん登場よ。反射鏡 ! 報復 カウントダウン」
「アレは無理、上位校に任せようよ、ローズマリーやクローブ達に」
「再起動できなければ死骸化調整区域送りだよ」
「バジルが言っていた。工作員の声に聞き覚えがあるって」
「身を削ってよく働いてくれたね、でも君も使い捨て、スペアの一部なんだよ。自分だけは特別だって思っていたのかい?」
「上級州国民? おまえ達が? クローブやローズマリーだってまだまださ、上には上がいる」
「彼女は知りすぎた、好奇心は命取り。あなた達もね」
*****
宮司はリモコンの停止をブチッと押した。
「ね、高山さんは2期は見ない方がいいよ。洗脳されていたってオチなんだよ」
「わかりました。あっさりオチを言ってしまいましたね」
「ごめーん」
「わたしも剪定鋏欲しいな。ちょん切りたい奴がいる」
すると宮司は斜め上を見て渋い顔をした。
「うーん……報復の類いはアチラ側の管轄なのよ」
「アチラ側? 」
「アチラ側としか言いようがないけど。そういうのはアチラ側に任せておけばいいのよ。いつかは帳尻 を合わせてくれるから。……気持ちはわかるけど、アイツなんか落ちぶれてしまえっていう気持ちは手放しなさい。特定の人間を呪っちゃダメ、魔物が来るよ」
父親が自滅した今、私の脳裏に浮かぶ瀬下理事の姿が、宮司には見えているのだろうか。
「……はい、わかりました」
「君は素直でよろしい」
バイトを終え、たんぽぽ食堂に行く。
セカンドオピニオンじゃないけれど、大家さんと田所さんの言葉でさらに軽くなる。
「あら、邪魔な梯子が消えてすっきりしたわ、よく見るとあなた美人さんだったのね」
「よかったじゃないか、縁が切れて。太鼓の音も影も消えたよ」
蝉の声の輪郭を感じる。川のせせらぎも。蜻蛉や蝶の羽音までも、その気になれば聞こえそうだ。
田中宮司は休憩時間、座椅子に寝転びギシギシさせながら、お煎餅を食べ、
「敵が川に接近したら、下流に流されて振り出しに戻るピタゴラスイッチシステムを作ろうとしたのよ。
「はい」
「まあ、よかったじゃん。お煎餅食べなよ」
「はい、でもバイトは続けてもいいですか?」
「いいよー」
宮司は「マジマジマジカルカンファ~レ~ンス、保健室のソルジャーあ~」
鼻歌まじりでテレビをつけた。
『マジカル・カンファレンス第1期 第3話 “男子は引っ込んでいなさいよ!” 』
宮司は深夜アニメを録画している。
「これ、高山さん見たことある?」
「見たことはないです、中学生のときクラスの子達が話しているのを聞いたことはありますけど。私が誰かに似ているとか」
「あーわかった、ナツメグだ」
*****
~私、シナモン、16歳。男性恐怖症の劣等生。
何故かって? 中学校の卒業式の帰りに通りすがりのサラリーマンから羽交い締めにされ資材置き場に連れ込まれ、レイプされそうに!
たまたま近くを犬を散歩させていたおじさんが通りかかり、エース君が吠えかかって助けられたの。
エース君っていうのは、秋田犬の名前。
だから私は断固、犬派!
でもね、そのときの衝撃がフラッシュバックするようになり、無気力になっちゃった。
高校入学してからどんどんどんどん成績が下がっていった。
心配した親に脳機能研究センターに連れて行かれカンファレンスを受けたらね、なんと『
びっくりよね。
今は保健室登校して、眠りながら仲間と潜在する悪の芽を清掃する日々。
コードネームは ”スリーパースイーパー”
けっこう疲れるし大変だけど勉強するよりはマシかな?
さあ国債奨学金ゲットよ!
卒業したら防災技術開発大学校、通称 “
私の手で
バカだけどアイツのことは忘れないんだから! ~
*****
田舎から出て来た純朴な女の子を騙すヤリサーのメンバー3人。
3人がクラブにいるのを確認し、懲らしめようとナツメグとカルダモンとで駆けつけたら、男子チームが先回りしていた。
男子チームはいつもゲーム感覚。
ボーガンを使っているのは弓道部の副部長ゴマ、ライフルはサバゲー部のコウジ、ドローンを飛ばし偵察して指示を出しているのは俺様気質のサンショウ。
3人で相手の退路を断ちながら追い詰めて遊んでいる。
カルダモン〈ちょっとー男子! 遊んでいないでさっさと仕留めなさいよ〉
コウジ〈うるせーブス、今いいところなんだよ、しゃしゃるな〉
カルダモン〈へえ、アタシの
サンショウ〈俺たちのストレス解消を邪魔すんな、女は引っ込んでいろ〉
ナツメグ〈あんなの
ゴマ〈なんでもかんでも去勢するなよ、女は短絡的だよな〉
シナモン〈コウジ、サンキュ! ゴマ、任せた! サンショウ、ナイスカバー? 戦隊ゴッコなの? ウケる、早く続き見せて〉
サンショウ〈なんだと、数学4点女〉
シナモン〈勉強ができなくても私達はね、国債奨学金ポイントで防開大に進学できちゃうの。雑魚は引っ込んでいなさいよ〉
*****
「シナモン、可愛い声だけど口悪いですね」
「全員やべーよな」
また別の日に見た第9話 “ショッピングモールの宇宙人”
*****
1階の多目的トイレを使い、14歳中学生男子が女児にいたずらを繰り返していた。
被害者家族は自分たちを責めていた。親は子どもから目を離してしまったことに、女の子は両親を悲しませてしまったことに。
呼び出しランプを見て心配してドアを開け、中に連れ込まれた小学生女子もいた。困っている人を見ると放っておけない子だったのに。
シナモン、ナツメグ、サンショウ、コウジで出動。
ナツメグが
サンショウ〈あっ撤退! 対象はサイコパスの宇宙人みたいなヤツだ、一旦撤退して!〉
コウジ〈了解 深追いは禁物か〉
シナモン〈今から多目的トイレの解体作業に入る、ヤツごと他次元へ吹っ飛ばす〉
ナツメグ〈ヤツは消えたよ。私の剪定鋏がボロボロ。剪定が不完全だった〉
コウジ〈これからの人生、不完全に興奮するようになるのかなアイツ、それはそれで同情するね〉
サンショウ〈バカ、お前も危なかったぞ。ヤツの外見は中坊だけど、中身はモンスターだ〉
コウジ〈離脱するときヤツの首に赤いインクを付けた、現実世界でも見つけられるように。首に大きな赤い
シナモン〈コウジにしてはでかしたわ〉
コウジ〈なんだよ偉そうに、本当は男が怖いくせに。ホラホラ、泣かせるぞ……でもマジで疲れた。サフラン先生~〉
ナツメグ〈私もしんどいよ……サフラン先生、蜂蜜たっぷりのホットミルクが飲みたい〉
サフラン先生〈いいわよ、その前に全員手を洗って薬湯を飲みなさい〉
グリズリー君〈はい、先生、厄落としスペシャルブレンド出来た〉
サフラン先生〈ありがとう。グリ君にもホットミルク作ってあげるわね〉
コウジ〈げー、これ、最凶最悪に苦いヤツ〉
シナモン〈先生はいっつもグリ君ばっかり甘いんだから〉
*****
「この話さー、現実にどこかで起こっているような気がするんだよ。けっこう現実とシンクロしているときがあってさ。2期なんてヤバイよ」
すると2期の予告編が始まった。
*****
「ご当地アイドルバジルちゃん登場よ。
「アレは無理、上位校に任せようよ、ローズマリーやクローブ達に」
「再起動できなければ死骸化調整区域送りだよ」
「バジルが言っていた。工作員の声に聞き覚えがあるって」
「身を削ってよく働いてくれたね、でも君も使い捨て、スペアの一部なんだよ。自分だけは特別だって思っていたのかい?」
「上級州国民? おまえ達が? クローブやローズマリーだってまだまださ、上には上がいる」
「彼女は知りすぎた、好奇心は命取り。あなた達もね」
*****
宮司はリモコンの停止をブチッと押した。
「ね、高山さんは2期は見ない方がいいよ。洗脳されていたってオチなんだよ」
「わかりました。あっさりオチを言ってしまいましたね」
「ごめーん」
「わたしも剪定鋏欲しいな。ちょん切りたい奴がいる」
すると宮司は斜め上を見て渋い顔をした。
「うーん……報復の類いはアチラ側の管轄なのよ」
「アチラ側? 」
「アチラ側としか言いようがないけど。そういうのはアチラ側に任せておけばいいのよ。いつかは
父親が自滅した今、私の脳裏に浮かぶ瀬下理事の姿が、宮司には見えているのだろうか。
「……はい、わかりました」
「君は素直でよろしい」
バイトを終え、たんぽぽ食堂に行く。
セカンドオピニオンじゃないけれど、大家さんと田所さんの言葉でさらに軽くなる。
「あら、邪魔な梯子が消えてすっきりしたわ、よく見るとあなた美人さんだったのね」
「よかったじゃないか、縁が切れて。太鼓の音も影も消えたよ」
蝉の声の輪郭を感じる。川のせせらぎも。蜻蛉や蝶の羽音までも、その気になれば聞こえそうだ。