第13話 符丁神社のお仕事~宮司の見立て~
文字数 1,931文字
「宮司、お疲れでしょうから、またあとでも構いませんが」
私がそう言うと、
「僕が構うの!」
私は正座して、宮司から榊の葉の露を受けた。
それから宮司は、お祓いの倍の時間をかけ立ったまま考え事をしていた。
「うーん」
再度控え室に戻り、宮司から
「今後の方針を立てる上で、簡単な聞き取りをします」
「はい」
「父親の仕事は?」
「税務署の職員です」
「ああ……休んだりはしてない?」
「定期的に病院には通っていました」
「心療内科かな」
「そうかもしれません。いつも怠 いと言っていました。薬を処方されても、飲まないで捨てていました」
「なんかさー……すごいパワーがあるわけじゃないのよ、でもとにかくねちっこいの……祓っても祓っても、ちょっとずつ生霊を飛ばすし……そんなのがウロウロすると、町の結界がグダグダだよ……困ったなー……少し様子見だなー」
宮司はブツブツ言いながらスマホを私に見せた。
【埒があかないからお祓いはいったん休止。この町に近づいた生霊を自然消滅させるシステムを作る。それまで悪夢が続くけど我慢して。ここは安全だからバイトには来てね】
私は宮司の目を見て頷くと、宮司はすぐに削除した。
「そういえば、内藤女史は?」
「棒持ったオバサン? そんなのもうとっくに消したよ。もう誰か別の後継者でも見つけているんじゃない」
そんなものなんだと、少しだけ拍子抜けした。
お昼を過ぎ、帰り際、田中さんが黄色いお財布を持ってきた。
「バイト代、取 っ払 いがいいわよね」
「とっぱらい? ってなんですか」
「死語だったかしら。当日現金払いってことよ。初日は3千円でどうかしら。これを基準にお仕事内容で上げていくわね」
「田中さん、私、お祓いをしていただいているので、バイト代までいただけません」
「子どもが遠慮するものじゃないわ。学費の足しになさい」
すったもんだの挙げ句、条件付きの3千円となった。
「高山さん、あなた少し痩せすぎだから、帰りにたんぽぽ食堂でお昼ご飯を食べて帰りなさい。3千円のうち、500円を使うこと。いいわね」
そして、大きく見事な梨も3個いただいた。
「お客さんからのいただき物なんだけど、2人じゃ食べきれないのよ。高山さん、持って帰って」
私は梨の袋を抱え、少し緊張しながらたんぽぽ食堂の戸を開けた。
たんぽぽ食堂の戸を少し開け「こんにちは」と目立たないように入った。
今日は昼時なので昨日より混んでいる。おじさんが多い。
20代から50代くらいの男の人は苦手なので、なるべく見ないようにした。大山さんや用務員さんくらいになれば大丈夫なのだ。
「女子高生?」「今はJKって言うんだよ」「JK?」「JK」「JK……」おじさん達のささやきが聞こえてくる。
窓際に村瀬さんを見つけた。大家さんと田所さんもいたので、ホッとした。
「昨日はありがとうございました。さっそく今日から神社でお仕事をさせていただいています」
「バイト帰りなの?」
今日の大家さんは青い小花柄のブラウス。
「はい。これ、田中さんからのいただき物ですが、どうぞ」
「ありがとう。あらまあ見事な梨だこと、これ高いわよ。さすが田中家ね、いただき物のグレードが違うわ。畑中さーん、冷やしておいて」
「はーい。高山さん、昨日いただいたナスとピーマン、オクラとインゲン、今日のメニューに使っているの。お昼ご飯まだでしょ? 食べていったら」
「はい」
私は村瀬さんの隣に座った。向かいに私より髪の短い無愛想な女子中学生がいた。
ナスと挽肉たっぷりの味噌炒め、ピーマンと塩昆布の和え物、インゲンの味噌汁、冷や奴に乗ったオクラ納豆。
私は静かに感動していた。部活のみんなと一緒に食べたいな。
みんな「美味しい」って喜んで、きっと賑やかで楽しいに決まっている。
……小関先輩にご馳走したかったな。
先輩は父子家庭で、先輩がご飯を作るって言っていたっけ。
ごちそうさまでしたと手を合わせて、先輩のことを思い出し切なくなった。
私は先輩の受験が終わるまでに、生霊と縁を切ってまっさらになるんだ。
バイト代で支払いしようとしたら、大家さんが言った。
「ここは子ども食堂だから、高山さんは無料よ」
「私は子どもですか?」
「当たり前でしょ」
結局500円は受け取ってもらえなかった。
帰ろうとする私に村瀬さんが、
「午後はね、準備中の看板が出たらここ自習室として使ってもいいの。クーラー効いていて快適なの。私と天宮開 ちゃんは常連さん。勉強道具、持ってきたら?」
「はい、ありがとうございます」
村瀬さんの声はいつも少し遠慮がち。だけど心地よく落ち着く。
私もできることなら泉工医大に入りたい。先輩と同じ大学に行きたい。そのためにはもっと勉強しないと。
そんな風に夏休みはスタートした。
私がそう言うと、
「僕が構うの!」
私は正座して、宮司から榊の葉の露を受けた。
それから宮司は、お祓いの倍の時間をかけ立ったまま考え事をしていた。
「うーん」
再度控え室に戻り、宮司から
「今後の方針を立てる上で、簡単な聞き取りをします」
「はい」
「父親の仕事は?」
「税務署の職員です」
「ああ……休んだりはしてない?」
「定期的に病院には通っていました」
「心療内科かな」
「そうかもしれません。いつも
「なんかさー……すごいパワーがあるわけじゃないのよ、でもとにかくねちっこいの……祓っても祓っても、ちょっとずつ生霊を飛ばすし……そんなのがウロウロすると、町の結界がグダグダだよ……困ったなー……少し様子見だなー」
宮司はブツブツ言いながらスマホを私に見せた。
【埒があかないからお祓いはいったん休止。この町に近づいた生霊を自然消滅させるシステムを作る。それまで悪夢が続くけど我慢して。ここは安全だからバイトには来てね】
私は宮司の目を見て頷くと、宮司はすぐに削除した。
「そういえば、内藤女史は?」
「棒持ったオバサン? そんなのもうとっくに消したよ。もう誰か別の後継者でも見つけているんじゃない」
そんなものなんだと、少しだけ拍子抜けした。
お昼を過ぎ、帰り際、田中さんが黄色いお財布を持ってきた。
「バイト代、
「とっぱらい? ってなんですか」
「死語だったかしら。当日現金払いってことよ。初日は3千円でどうかしら。これを基準にお仕事内容で上げていくわね」
「田中さん、私、お祓いをしていただいているので、バイト代までいただけません」
「子どもが遠慮するものじゃないわ。学費の足しになさい」
すったもんだの挙げ句、条件付きの3千円となった。
「高山さん、あなた少し痩せすぎだから、帰りにたんぽぽ食堂でお昼ご飯を食べて帰りなさい。3千円のうち、500円を使うこと。いいわね」
そして、大きく見事な梨も3個いただいた。
「お客さんからのいただき物なんだけど、2人じゃ食べきれないのよ。高山さん、持って帰って」
私は梨の袋を抱え、少し緊張しながらたんぽぽ食堂の戸を開けた。
たんぽぽ食堂の戸を少し開け「こんにちは」と目立たないように入った。
今日は昼時なので昨日より混んでいる。おじさんが多い。
20代から50代くらいの男の人は苦手なので、なるべく見ないようにした。大山さんや用務員さんくらいになれば大丈夫なのだ。
「女子高生?」「今はJKって言うんだよ」「JK?」「JK」「JK……」おじさん達のささやきが聞こえてくる。
窓際に村瀬さんを見つけた。大家さんと田所さんもいたので、ホッとした。
「昨日はありがとうございました。さっそく今日から神社でお仕事をさせていただいています」
「バイト帰りなの?」
今日の大家さんは青い小花柄のブラウス。
「はい。これ、田中さんからのいただき物ですが、どうぞ」
「ありがとう。あらまあ見事な梨だこと、これ高いわよ。さすが田中家ね、いただき物のグレードが違うわ。畑中さーん、冷やしておいて」
「はーい。高山さん、昨日いただいたナスとピーマン、オクラとインゲン、今日のメニューに使っているの。お昼ご飯まだでしょ? 食べていったら」
「はい」
私は村瀬さんの隣に座った。向かいに私より髪の短い無愛想な女子中学生がいた。
ナスと挽肉たっぷりの味噌炒め、ピーマンと塩昆布の和え物、インゲンの味噌汁、冷や奴に乗ったオクラ納豆。
私は静かに感動していた。部活のみんなと一緒に食べたいな。
みんな「美味しい」って喜んで、きっと賑やかで楽しいに決まっている。
……小関先輩にご馳走したかったな。
先輩は父子家庭で、先輩がご飯を作るって言っていたっけ。
ごちそうさまでしたと手を合わせて、先輩のことを思い出し切なくなった。
私は先輩の受験が終わるまでに、生霊と縁を切ってまっさらになるんだ。
バイト代で支払いしようとしたら、大家さんが言った。
「ここは子ども食堂だから、高山さんは無料よ」
「私は子どもですか?」
「当たり前でしょ」
結局500円は受け取ってもらえなかった。
帰ろうとする私に村瀬さんが、
「午後はね、準備中の看板が出たらここ自習室として使ってもいいの。クーラー効いていて快適なの。私と
「はい、ありがとうございます」
村瀬さんの声はいつも少し遠慮がち。だけど心地よく落ち着く。
私もできることなら泉工医大に入りたい。先輩と同じ大学に行きたい。そのためにはもっと勉強しないと。
そんな風に夏休みはスタートした。