第20話 メイド服と仏頂面②~俺の彼女になってよ~
文字数 1,977文字
「先輩、オープンキャンパスのときはありがとうございました」
あ、また敬語になっちゃった。
何故か先輩はムスッとして機嫌悪そう。
「あの、これ化学部と合同で作ったんです。ハーブ入り石鹸と入浴剤、ラベンダーと、ミントとローズマリー……」
「どうも」
先輩は紙袋を受け取る際に私のメイド服をチラッと見て、すぐ目を反らした。
私は急にまた恥ずかしくなって、胸元に手を置いた。
「これまた随分と男子部員の皆様方と和気あいあい楽しそうにやっていらっしゃるので安心しましたよ」
先輩の言葉と表情が一致していない。
「……おまえさ、俺だけじゃ無くて、誰にでも好き好きオーラを出しているだろ。男性恐怖症なんて嘘だろ。あのサラサラ茶髪男と、眼鏡の天パーは絶対おまえに気があるっていうか、勘違いしているぞ。気がついていないのかよ。おまえホントに天然かよ」
茶髪は日比野君で眼鏡の天パーは松岡君のことかな。
確かに日比野君は大人しいし松岡君は真面目で、2人とも威圧感が無くて話しやすい。でも、ただの友達なのに。
「それとももう俺なんかに興味無い? 前みたいに教室に来ないしさ」
どう返答してよいのかわからず、あまりのことに茫然と突っ立っていた。
久し振りに会えたのに、どうして?
「だいたいさっきだって看板を茶髪と一緒に運んだりして、おまえならあんな板一人で軽く持てるだろ。そんな服着て、みんなイヤらしい目で見ていたぞ」
「どうして、どうしてそんなことを言うの? 先輩いじわるだよ」
呻 くように言い、下を向いて手で口元を押さえているとケイラ先輩が走ってきた。
「ちょっと、小関! 様子が変だと思ったら! なに校庭のど真ん中で真奈ちゃんを泣かせているのよ、この童貞がっ」
ケイラ先輩が肩を抱いてくれた。
「はい童貞ですよ、悪いですか? 迷惑かけていますか? ……迷惑かけているわ、ごめん、裏庭行こう高山、謝る、俺が悪い」
「小関、なんか日本語変だよ。もう泣かせるんじゃないわよ」
先輩は私にだけ聞こえるような小声で「ごめん」「ごめんな」と繰り返し、裏庭へ向かった。
やはり何度も振り返った。
物置小屋のいつものベンチに座った。
先輩は苦笑しながら、
「新学期になったら、また放課後来てくれるのかと、勝手に思っていた。俺が返事保留にしている癖にな」
「私は……先輩の受験勉強の邪魔をしちゃいけないと思って」
「そっか」
「本当は、一番の理由は、恥ずかしくて……今もそう」
「俺の方が恥ずかしい。おまえが他の男と、その、仲良くしているの見ただけで、さっきムカついてイライラしちゃって、俺すげー嫉妬深いんだわ、初めて知ったわ」
先輩の意外な返答に驚いてしまう。
「みんな、友達ですよ」
「おまえはそう思っても、相手は違うんだよ。おまえとワンチャン期待しているからな! 俺にはわかる」
実はさっきから、ちょっとした違和感を感じている。
「あの……」
「なに?」
「私、彼女でもないのに “おまえ” って呼ばれている」
「おっと、鋭い返しきたな。俺はクラスメイトにも男女かまわず、おまえって呼んでいるけど? 嫌?」
ほんの少し父親を思い出してしまうのだ。
「ちょっと」
「おまえ、おっとごめん。高山はさ、あの、まだ、彼女に、なりたいとかさ、思っている?」
「先輩はどうですか?」
「どうって、なにが」
「先輩の気持ち」
「なんか高山、前見たく単純じゃなくなったな、手強 い」
「だってもう自分からなんて言えない……誰かさんが好き好きオーラ出しているとか言うし。私そんなつもり無いし、そんな女の子じゃないのに。好きだけど、もう好きって言いません」
「……言ってよ。俺も言うから。オーキャンのときから変なんだ。誰にも取られたくない。俺の彼女になってよ」
私は一瞬先輩と見つめ合った。
先輩がフッと本音を漏らしたのはその時だけで、すぐにまた照れ隠しのように真っ赤な仏頂面に。
「今さらヤダとか無理とか認めないからな! つき合うってことでいいね!」
私は勢いに飲まれて頷いた。
「はぁー、これでやっと勉強に集中できるわ。受験終わるまではデートとか出来ないけど、合格したらお祝いしてもらうからな、覚悟しとけ」
お祝いって何をするんだろう。
ふと、中原さんの漫画が脳裏をよぎった。
まさかいきなりそれは無いだろうけど。
けれどどうしよう、その先のことを考えていなかった。
「先輩、ちょっと言い方怖い」
「ごめん。……今日のそのカッコ、可愛いよ」
先輩はぶっきらぼうに言ったあと、左手を私の肩に回し、少し乱暴に自分の肩に引き寄せた。
私は身を固くして先輩に寄り添い、ドキドキが止まらなかった。
受験が終わったら、こんな風に体の接触が少しずつ始まるんだろうか。
あのときのことがフラッシュバックするかもしれない。
胸を触られたりでもしたら。
私の過去を話した方がいいのかな。先輩は引いてしまうだろうな。
あ、また敬語になっちゃった。
何故か先輩はムスッとして機嫌悪そう。
「あの、これ化学部と合同で作ったんです。ハーブ入り石鹸と入浴剤、ラベンダーと、ミントとローズマリー……」
「どうも」
先輩は紙袋を受け取る際に私のメイド服をチラッと見て、すぐ目を反らした。
私は急にまた恥ずかしくなって、胸元に手を置いた。
「これまた随分と男子部員の皆様方と和気あいあい楽しそうにやっていらっしゃるので安心しましたよ」
先輩の言葉と表情が一致していない。
「……おまえさ、俺だけじゃ無くて、誰にでも好き好きオーラを出しているだろ。男性恐怖症なんて嘘だろ。あのサラサラ茶髪男と、眼鏡の天パーは絶対おまえに気があるっていうか、勘違いしているぞ。気がついていないのかよ。おまえホントに天然かよ」
茶髪は日比野君で眼鏡の天パーは松岡君のことかな。
確かに日比野君は大人しいし松岡君は真面目で、2人とも威圧感が無くて話しやすい。でも、ただの友達なのに。
「それとももう俺なんかに興味無い? 前みたいに教室に来ないしさ」
どう返答してよいのかわからず、あまりのことに茫然と突っ立っていた。
久し振りに会えたのに、どうして?
「だいたいさっきだって看板を茶髪と一緒に運んだりして、おまえならあんな板一人で軽く持てるだろ。そんな服着て、みんなイヤらしい目で見ていたぞ」
「どうして、どうしてそんなことを言うの? 先輩いじわるだよ」
「ちょっと、小関! 様子が変だと思ったら! なに校庭のど真ん中で真奈ちゃんを泣かせているのよ、この童貞がっ」
ケイラ先輩が肩を抱いてくれた。
「はい童貞ですよ、悪いですか? 迷惑かけていますか? ……迷惑かけているわ、ごめん、裏庭行こう高山、謝る、俺が悪い」
「小関、なんか日本語変だよ。もう泣かせるんじゃないわよ」
先輩は私にだけ聞こえるような小声で「ごめん」「ごめんな」と繰り返し、裏庭へ向かった。
やはり何度も振り返った。
物置小屋のいつものベンチに座った。
先輩は苦笑しながら、
「新学期になったら、また放課後来てくれるのかと、勝手に思っていた。俺が返事保留にしている癖にな」
「私は……先輩の受験勉強の邪魔をしちゃいけないと思って」
「そっか」
「本当は、一番の理由は、恥ずかしくて……今もそう」
「俺の方が恥ずかしい。おまえが他の男と、その、仲良くしているの見ただけで、さっきムカついてイライラしちゃって、俺すげー嫉妬深いんだわ、初めて知ったわ」
先輩の意外な返答に驚いてしまう。
「みんな、友達ですよ」
「おまえはそう思っても、相手は違うんだよ。おまえとワンチャン期待しているからな! 俺にはわかる」
実はさっきから、ちょっとした違和感を感じている。
「あの……」
「なに?」
「私、彼女でもないのに “おまえ” って呼ばれている」
「おっと、鋭い返しきたな。俺はクラスメイトにも男女かまわず、おまえって呼んでいるけど? 嫌?」
ほんの少し父親を思い出してしまうのだ。
「ちょっと」
「おまえ、おっとごめん。高山はさ、あの、まだ、彼女に、なりたいとかさ、思っている?」
「先輩はどうですか?」
「どうって、なにが」
「先輩の気持ち」
「なんか高山、前見たく単純じゃなくなったな、
「だってもう自分からなんて言えない……誰かさんが好き好きオーラ出しているとか言うし。私そんなつもり無いし、そんな女の子じゃないのに。好きだけど、もう好きって言いません」
「……言ってよ。俺も言うから。オーキャンのときから変なんだ。誰にも取られたくない。俺の彼女になってよ」
私は一瞬先輩と見つめ合った。
先輩がフッと本音を漏らしたのはその時だけで、すぐにまた照れ隠しのように真っ赤な仏頂面に。
「今さらヤダとか無理とか認めないからな! つき合うってことでいいね!」
私は勢いに飲まれて頷いた。
「はぁー、これでやっと勉強に集中できるわ。受験終わるまではデートとか出来ないけど、合格したらお祝いしてもらうからな、覚悟しとけ」
お祝いって何をするんだろう。
ふと、中原さんの漫画が脳裏をよぎった。
まさかいきなりそれは無いだろうけど。
けれどどうしよう、その先のことを考えていなかった。
「先輩、ちょっと言い方怖い」
「ごめん。……今日のそのカッコ、可愛いよ」
先輩はぶっきらぼうに言ったあと、左手を私の肩に回し、少し乱暴に自分の肩に引き寄せた。
私は身を固くして先輩に寄り添い、ドキドキが止まらなかった。
受験が終わったら、こんな風に体の接触が少しずつ始まるんだろうか。
あのときのことがフラッシュバックするかもしれない。
胸を触られたりでもしたら。
私の過去を話した方がいいのかな。先輩は引いてしまうだろうな。