第7話 園芸部 野外活動~敬語禁止!~
文字数 1,935文字
部長のギプスはやっと外れ、松葉杖無しで右足に装具のみで歩けるようになった。
そしてゴールデンウィークには、園芸部で蓬莱 川土手の中腹にイングリッシュガーデン作りをした。
ケイラ先輩の真似して川の斜面を滑り降りてから、私は部長が降りられるか心配で振り返った。ところがそんな強引な降り方をしたのは私とケイラ先輩だけで、男子はのんびり談笑しながらなだらかな道を迂回 して来るのが見えた。
ケイラ先輩はそれを見て、
「真奈ちゃんもアタシと同じね。周りを見ないでとりあえず進んじゃうタイプ」
そして、
「小関君のこと好きって追いかけるだけじゃなく、少し距離をとったり駆け引きをした方が効果があるかもよ。男の子って単純ですぐうぬぼれちゃうから。なーんて、私もそういうの苦手だけどね」
私は驚き、
「どうして私が部長を好きって知っているんですか」
と小声で言うと、ケイラ先輩は笑い出した。
「知らない人なんていないわよ」
男子達は到着するなり、私とケイラ先輩を「遠目で猿だった」と笑った。
中古車販売をしているというケイラ先輩のお父さんが軽トラックを出して、道具や肥料を運んでくれた。雑草を抜いて、土を慣らして肥料を蒔く。
「高山さん、なかなか重労働でしょ。水分補給した方がいいよォ」
青木先輩が汗を拭きながら、息を弾ませ言った。
「はい、青木先輩、お気遣いありがとうございます」
タオルを頭に巻いた深田先輩が、
「高山さんは古風というか礼儀正しすぎるというか、ブチョーみたいにもっと雑な対応してくれてもいいすよ」
「あ……年長者は敬わなければいけないと思って」
小関部長が離れた場所から「高山って、体育会系なんだよ」と口を挟む。
ケイラ先輩が手を止めて言った。
「わかった。今日から園芸部は敬語禁止ね。真奈ちゃん、今からもっとフレンドリーに対応して?」
フレンドリーに対応、それってどうやればいいのだろう。
「できるかどうか心配ですが、頑張り……頑張る、ね? こういう感じでしょうか?」
「真奈ちゃん、顔が泥だらけよ!」
私は緊張のあまり無意識に鼻の頭をこすっていたらしい。慌ててタオルで拭いた。
「今のぎこちない口調、なかなかいいっすよ。高山さん、『国債奨学金ゲット! あなたの思い出更地 にしちゃうぞ?』って言ってみて」
深田先輩の言葉の意味がわからなくてポカンとしていると、足を引きずりながら小関部長が急いでやって来て、
「おい、高山に変な深夜アニメやらせるなよ」
「過保護なお兄ちゃん来たァ」
「マジ・カンは変なアニメじゃないっす。ブチョー、侮辱罪で刑期ミレニアム! 死骸化調整区域送りだぞ?」
「深田って見た目も中身もちゃんとした立派なオタクなのね」
ケイラ先輩が笑った。私はまだまだ世俗に疎い。
みんなは学校で秋に種を蒔いて、発芽させた苗を持ってきた。
「アタシのデルフィニウムちゃんはこのエリアよ。部長のタチアオイは後ろ」
「OK」
いつのまにか深田先輩は尻もちをついていたらしく、ジャージのお尻が泥だらけ。
「俺推しのシュウメイギクはここ、青やんの苗は手前だよね」
「俺のスイートアリッサム、陽当たりいいから増えるぞォ」
移植が済むと、深田先輩と青木先輩は「ちょっとだけ秋の先取り」と、ほんの少しだけコスモスの種を土手の高いところに蒔いていた。
部長に、少し気になっていたことを尋ねた。
「イングリッシュガーデンって、この土手にイギリスの庭を造るってことですか?」
すると部長は「また敬語」と笑いながら、
「雰囲気だよ、雰囲気」
と言いながら、花の種の袋を渡してくれた。
「これが俺が選んだ高山の種。矢車草。高山の雰囲気」
私にだけ聞こえるような小さい声で言った。私は細長いその種を、エリアの端に指で均等に土に押し込んでいった。
「活動報告の写真を撮るよー」
と深田先輩が言ったので、私は、
「実は父親のDVで逃げてきたので、見つかるといけないから写真はダメ、なの。そしてこれは内緒にして、ね」
と早口で伝えた。青木先輩と深田先輩は、
「今、カジュアルにサラッとすごいこと言ったねェ」「話の内容と口調が合わなすぎて、脳がバグったっす」
「そうか。写真から見つかる可能性あるもんね。じゃあ高山さんだけ外れて作業風景だけ撮ろうよ。男子メンバーの正面撮影はキツいから、横か後ろ姿ね」
ケイラ先輩がまとめてくれた。私にとってケイラ先輩の存在は大きい。
部長は驚いた顔で、
「……なんだよ、おまえ苦労しているんだな。とんちんかんで天然だから、世間知らずのお嬢さまか帰国子女なのかと思っていたよ」
と呟いたあと口をキュッと結んで、その日は口数が少なかった。
堀先生は作業が一通り片付いた頃、日傘をさし「みんなお疲れー」と冷えた飲み物を持ってやって来た。
そしてゴールデンウィークには、園芸部で
ケイラ先輩の真似して川の斜面を滑り降りてから、私は部長が降りられるか心配で振り返った。ところがそんな強引な降り方をしたのは私とケイラ先輩だけで、男子はのんびり談笑しながらなだらかな道を
ケイラ先輩はそれを見て、
「真奈ちゃんもアタシと同じね。周りを見ないでとりあえず進んじゃうタイプ」
そして、
「小関君のこと好きって追いかけるだけじゃなく、少し距離をとったり駆け引きをした方が効果があるかもよ。男の子って単純ですぐうぬぼれちゃうから。なーんて、私もそういうの苦手だけどね」
私は驚き、
「どうして私が部長を好きって知っているんですか」
と小声で言うと、ケイラ先輩は笑い出した。
「知らない人なんていないわよ」
男子達は到着するなり、私とケイラ先輩を「遠目で猿だった」と笑った。
中古車販売をしているというケイラ先輩のお父さんが軽トラックを出して、道具や肥料を運んでくれた。雑草を抜いて、土を慣らして肥料を蒔く。
「高山さん、なかなか重労働でしょ。水分補給した方がいいよォ」
青木先輩が汗を拭きながら、息を弾ませ言った。
「はい、青木先輩、お気遣いありがとうございます」
タオルを頭に巻いた深田先輩が、
「高山さんは古風というか礼儀正しすぎるというか、ブチョーみたいにもっと雑な対応してくれてもいいすよ」
「あ……年長者は敬わなければいけないと思って」
小関部長が離れた場所から「高山って、体育会系なんだよ」と口を挟む。
ケイラ先輩が手を止めて言った。
「わかった。今日から園芸部は敬語禁止ね。真奈ちゃん、今からもっとフレンドリーに対応して?」
フレンドリーに対応、それってどうやればいいのだろう。
「できるかどうか心配ですが、頑張り……頑張る、ね? こういう感じでしょうか?」
「真奈ちゃん、顔が泥だらけよ!」
私は緊張のあまり無意識に鼻の頭をこすっていたらしい。慌ててタオルで拭いた。
「今のぎこちない口調、なかなかいいっすよ。高山さん、『国債奨学金ゲット! あなたの思い出
深田先輩の言葉の意味がわからなくてポカンとしていると、足を引きずりながら小関部長が急いでやって来て、
「おい、高山に変な深夜アニメやらせるなよ」
「過保護なお兄ちゃん来たァ」
「マジ・カンは変なアニメじゃないっす。ブチョー、侮辱罪で刑期ミレニアム! 死骸化調整区域送りだぞ?」
「深田って見た目も中身もちゃんとした立派なオタクなのね」
ケイラ先輩が笑った。私はまだまだ世俗に疎い。
みんなは学校で秋に種を蒔いて、発芽させた苗を持ってきた。
「アタシのデルフィニウムちゃんはこのエリアよ。部長のタチアオイは後ろ」
「OK」
いつのまにか深田先輩は尻もちをついていたらしく、ジャージのお尻が泥だらけ。
「俺推しのシュウメイギクはここ、青やんの苗は手前だよね」
「俺のスイートアリッサム、陽当たりいいから増えるぞォ」
移植が済むと、深田先輩と青木先輩は「ちょっとだけ秋の先取り」と、ほんの少しだけコスモスの種を土手の高いところに蒔いていた。
部長に、少し気になっていたことを尋ねた。
「イングリッシュガーデンって、この土手にイギリスの庭を造るってことですか?」
すると部長は「また敬語」と笑いながら、
「雰囲気だよ、雰囲気」
と言いながら、花の種の袋を渡してくれた。
「これが俺が選んだ高山の種。矢車草。高山の雰囲気」
私にだけ聞こえるような小さい声で言った。私は細長いその種を、エリアの端に指で均等に土に押し込んでいった。
「活動報告の写真を撮るよー」
と深田先輩が言ったので、私は、
「実は父親のDVで逃げてきたので、見つかるといけないから写真はダメ、なの。そしてこれは内緒にして、ね」
と早口で伝えた。青木先輩と深田先輩は、
「今、カジュアルにサラッとすごいこと言ったねェ」「話の内容と口調が合わなすぎて、脳がバグったっす」
「そうか。写真から見つかる可能性あるもんね。じゃあ高山さんだけ外れて作業風景だけ撮ろうよ。男子メンバーの正面撮影はキツいから、横か後ろ姿ね」
ケイラ先輩がまとめてくれた。私にとってケイラ先輩の存在は大きい。
部長は驚いた顔で、
「……なんだよ、おまえ苦労しているんだな。とんちんかんで天然だから、世間知らずのお嬢さまか帰国子女なのかと思っていたよ」
と呟いたあと口をキュッと結んで、その日は口数が少なかった。
堀先生は作業が一通り片付いた頃、日傘をさし「みんなお疲れー」と冷えた飲み物を持ってやって来た。