第30話 3月4月 分岐の季節②~2人で毛布にくるまって~
文字数 1,670文字
園芸部に1年生が4人入部した。男子2人に女子2人。
女子の羽石 さん以外は、園芸部の緩い雰囲気に惹かれて入部した様子だった。
中原さんがニコニコして言った。
「羽石さんはガチ。ガチでシダや苔が好きなんだよ。種原山は自分の庭だって言ってた。素材はいいのに髪の毛引っ詰めてさ。もう目が離せないったら!」
自分は人とはズレていると思っていたけど、変わっている子って意外といるものなんだな、と私も嬉しくてニコニコした。
中原さんは美術部をいつの間にか辞めていて、園芸部一本になってくれた。
小さくて表情がクルクル変わって、趣味が広く面白くて好奇心旺盛、人の悪口を言わない中原さん。
中原さんがいると園芸部が明るくなった。
土曜日、バイトを終えてからたんぽぽ食堂に行ったら、大家さんが待ち構えていた。
「高山さん、昨日の晩来たのよ、多分彼氏のお父さん」
「どんな人でしたか?」
「同じタレ目でね、似ているからすぐわかったわ。なんて言うか、彼氏を湯通しして油分を落としてサッパリして乾燥させた感じ。いい感じのおじさまよ。消化試合とはよく言ったわ」
田所さんは思い出し笑いをしながら、
「お調子者風の若手社員2人連れて、すっかりご隠居の雰囲気なのさ。おかしくて笑い堪えるの大変だったよ」
「あのご隠居さん、また来てくれるといいわね」
私もこっそり見てみたい。順君のお父さん。
順君のお父さんは月に1回ほど出張があって、そのときお互いに試験がなければ順君のおうちにお泊まりするようになった。
私が4組から3組に昇格したときは、
「真奈、すげーじゃん、偉い偉い」
順君は私の頭をポンポンしてくれた。
大学入学後、順君は
「おかしい、こんな大変だなんて聞いていない」
と課題やレポートに追われた。
「真奈―、俺もうダメ、慰めてー」
と甘えてくるので、背中を撫でながら、
「順君なら大丈夫だよ、アピールしないけど実はとても頭いいって、私知っているもん。社会に出て絶対成功するタイプだと思う」
と言うと膝の上で
「そうかなー、真奈が言うんじゃそうなのかなー」
と安心した表情を浮かべた。
私は私で、あんなに妹扱いされたくなかったのに、順君の肩にもたれて「お兄ちゃん」と甘えたりした。
「よしよし、真奈は甘えん坊だな」
甘えたり甘えられたり、こんな姿誰にも見せられないよねと二人で笑った。
順君の部屋でカーテンの隙間から漏れる外灯が、ベッドの上を淡く照らす。
二人で一緒に毛布にくるまる。
雨が激しく降る夜は、この町にたどり着いた日を思い出してしまう。
奇跡のような確率で私はここにいるのだ。
眠れない夜は、隣を見ると順君も起きていて私を見ている。
「雨音で眠れない?」
順君がささやく。私は、
「ここにたどりついた頃、ずっと雨が降っていたの。雨の日はそれを思い出す」
順君は笑って、
「俺、真奈が見学に来たときのこと、今でもたまに思い出すよ。綺麗なのになんか影があって暗くてさ、気になったんだ。それが文化祭のとき、すっきり可愛らしくキラキラしていて……ドキッとしたな」
「夏休みに父親の生霊をお祓いしたんだよ」
「あっダメ! 俺怖い話超苦手、霊とかの話NGだから」
「ここにたどりつけなくて、順君と会えないパラレルワールドの方が怖いよ」
「そうか、そうだな。俺の場合は親の離婚が成立して、泉水工場に転勤できて、野菜が収穫できるっていうから食費の足しにしようと園芸部に入って、いろんな分岐があったな。真奈と出会ってこうしているのって、すごい確率」
「うん、ちょっとでも間違ったら大変だ」
夢だったらどうしようと、私は順君の左手を握りしめる。
「真奈、たまに昔のこと思い出してさ、辛くなったら無理するなよ、泣いていいんだから」
「順君も、二人きりのときは泣いていいし、その、私にもっと甘えたりして欲しい」
「妹と思っていたらお姉さんだな。俺、今すごい幸せでさ、昔の恨みみたいなものは捨てようって思うんだ」
「私も。ここに来るまでいろいろあったけど、恨みはもう手放したい」
私達はいつの間にか少し泣いていて、二人抱き合って雨音を聞いた。
女子の
中原さんがニコニコして言った。
「羽石さんはガチ。ガチでシダや苔が好きなんだよ。種原山は自分の庭だって言ってた。素材はいいのに髪の毛引っ詰めてさ。もう目が離せないったら!」
自分は人とはズレていると思っていたけど、変わっている子って意外といるものなんだな、と私も嬉しくてニコニコした。
中原さんは美術部をいつの間にか辞めていて、園芸部一本になってくれた。
小さくて表情がクルクル変わって、趣味が広く面白くて好奇心旺盛、人の悪口を言わない中原さん。
中原さんがいると園芸部が明るくなった。
土曜日、バイトを終えてからたんぽぽ食堂に行ったら、大家さんが待ち構えていた。
「高山さん、昨日の晩来たのよ、多分彼氏のお父さん」
「どんな人でしたか?」
「同じタレ目でね、似ているからすぐわかったわ。なんて言うか、彼氏を湯通しして油分を落としてサッパリして乾燥させた感じ。いい感じのおじさまよ。消化試合とはよく言ったわ」
田所さんは思い出し笑いをしながら、
「お調子者風の若手社員2人連れて、すっかりご隠居の雰囲気なのさ。おかしくて笑い堪えるの大変だったよ」
「あのご隠居さん、また来てくれるといいわね」
私もこっそり見てみたい。順君のお父さん。
順君のお父さんは月に1回ほど出張があって、そのときお互いに試験がなければ順君のおうちにお泊まりするようになった。
私が4組から3組に昇格したときは、
「真奈、すげーじゃん、偉い偉い」
順君は私の頭をポンポンしてくれた。
大学入学後、順君は
「おかしい、こんな大変だなんて聞いていない」
と課題やレポートに追われた。
「真奈―、俺もうダメ、慰めてー」
と甘えてくるので、背中を撫でながら、
「順君なら大丈夫だよ、アピールしないけど実はとても頭いいって、私知っているもん。社会に出て絶対成功するタイプだと思う」
と言うと膝の上で
「そうかなー、真奈が言うんじゃそうなのかなー」
と安心した表情を浮かべた。
私は私で、あんなに妹扱いされたくなかったのに、順君の肩にもたれて「お兄ちゃん」と甘えたりした。
「よしよし、真奈は甘えん坊だな」
甘えたり甘えられたり、こんな姿誰にも見せられないよねと二人で笑った。
順君の部屋でカーテンの隙間から漏れる外灯が、ベッドの上を淡く照らす。
二人で一緒に毛布にくるまる。
雨が激しく降る夜は、この町にたどり着いた日を思い出してしまう。
奇跡のような確率で私はここにいるのだ。
眠れない夜は、隣を見ると順君も起きていて私を見ている。
「雨音で眠れない?」
順君がささやく。私は、
「ここにたどりついた頃、ずっと雨が降っていたの。雨の日はそれを思い出す」
順君は笑って、
「俺、真奈が見学に来たときのこと、今でもたまに思い出すよ。綺麗なのになんか影があって暗くてさ、気になったんだ。それが文化祭のとき、すっきり可愛らしくキラキラしていて……ドキッとしたな」
「夏休みに父親の生霊をお祓いしたんだよ」
「あっダメ! 俺怖い話超苦手、霊とかの話NGだから」
「ここにたどりつけなくて、順君と会えないパラレルワールドの方が怖いよ」
「そうか、そうだな。俺の場合は親の離婚が成立して、泉水工場に転勤できて、野菜が収穫できるっていうから食費の足しにしようと園芸部に入って、いろんな分岐があったな。真奈と出会ってこうしているのって、すごい確率」
「うん、ちょっとでも間違ったら大変だ」
夢だったらどうしようと、私は順君の左手を握りしめる。
「真奈、たまに昔のこと思い出してさ、辛くなったら無理するなよ、泣いていいんだから」
「順君も、二人きりのときは泣いていいし、その、私にもっと甘えたりして欲しい」
「妹と思っていたらお姉さんだな。俺、今すごい幸せでさ、昔の恨みみたいなものは捨てようって思うんだ」
「私も。ここに来るまでいろいろあったけど、恨みはもう手放したい」
私達はいつの間にか少し泣いていて、二人抱き合って雨音を聞いた。