第47話 福田史子~ライブハウス潜入~
文字数 1,440文字
根津さんの説明では、
「バイブル・シャッフルというロックバンドがクリスタルギルド梯子の会の資料を無断使用しているらしいのです。まずは3人で実態把握と抗議の姿勢を示してきましょう」
「うす」服部は頭を
同年代だけど、この男は……無いな。
泉工医大生だから頭はいいのだろうが、無理。チリチリくせ毛にガリガリの体、アニメが大好きなキモオタ。
現地に行き私達は遠巻きにお客さんを見た。
ピアスを幾つも開けたり、ぼやけた色に髪を染めたりタトゥーを見せたり、イキっているヤツらが大勢いた。根津さんが彼らを見て微笑みながら言った。
「全員温室育ちですね」
バイブル・シャッフルなんてバンド、知らなかった。
狭いステージに、背が高く前髪で顔のよく見えない細身の男と、ちょっと背の低い丸顔の男が出てきた。後ろのドラムは見えない。
ファンがみんなキャーキャー騒いでいてあまりの人気振りに驚いてしまった。歌はなにが言いたいのかさっぱりわからないけど。
こんな男が彼氏だったらみんなから羨ましがられるかもしれない。ぼんやり見ていたら、不意に背後スクリーンに、
ひとりぼっちで戦って
自分を削っているキ~ミ
梯子の会に来れば
高次元へ梯子をかけられるニャ?
クリスタルビル2階『一歩スクール』のキャラクター猫が映し出された。
小馬鹿にしたナレーションに思わず笑ってしまったら、服部が「やめろー」と叫んで特攻していったので、あ、そうだった、サボったら根津さんに叱られると思って、私も慌ててわめき散らした。
お客が興奮状態で私達に向かってくる。手がつけられないので、私達は退散した。地上に出た根津さんは背伸びをし首を回しながら、ゆっくりと言った。
「私達が騒げば騒ぐほど、あのリーダーの子の術中に
服部はイライラしたように頭を掻きむしった。フードは引っ張られたみたいで伸びきっていてマヌケだった。
私は根津さんに気に入られようとして、こう提案した。
「私、あの男の周辺を探りますよ、なにか弱点が見つかるかもしれないし」
根津さんは黙って微笑んだ。
リーダーの男は
バイト先も調べた。私じゃなく、服部に調べさせたのだが。一応「ありがと」というと、服部はもじもじしながら、
「福田さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
なんだよ、早く言えよ。
「女の子は、どんなプレゼントをもらったら嬉しいかな」
やだ、キモ男に好かれちゃった? と思いニヤけたら、
「いや、福田さんのことじゃないんだけど」
なんて服部の分際で言うもんだからムカついて、
「花でもあげたら」と適当に吐き捨てた。
バイト先の雑貨屋に行き、西園寺に声をかけた。
「こんにちは、私のことわかります?」無視されたので追いかけて、
「ライブ、行ったんですよ!」
近くにいたゴスロリ女2人が「ウザいって」と声をそろえた。そして「デブ」
誰が言った? とばかりに私は振り返った。丁度大きな鏡が置いてあって、私の二重顎が目に飛び込んできた。ナチュカを辞めてから私は少し太ってしまった。でも大丈夫、痩せようと思えばすぐに痩せられる。
まだ人形は残っている。
西園寺の髪の毛を手に入れておけば、私に夢中にさせることができる。
無視しやがって。術を使って、あんたの方から私を抱きたくて抱きたくてたまらない気持ちにさせてやるからな。