第22話 先輩とたんぽぽ食堂デート

文字数 1,149文字

 12月に入った最初の土曜日、午前中は符丁神社でバイトをして、1時に小関先輩と蓬莱橋で待ち合わせした。

 先輩の私服を見るのは2回目。今日は紺色のネルシャツにグレイのダウンを着て、やっぱり制服より幼く可愛く見える。
私は田中さんからもらった黒のセーターに、村瀬さんからもらった千鳥格子の巻きスカートとコート。
「高山、髪伸びたな。女みたい」
「先輩、失礼だ」

 先輩と一緒に食堂に入ると、いつもこの時間はいないはずのおじさん達が、いた。店長さんと種原病院の事務局長さんだ。
「なんだよ姫、男嫌いじゃなかったのかよ」
「姫のあんな顔、初めて見る。いいねぇ」
 コソコソ話が聞こえてくる。
おじさん達は1時半までにはいなくなるけど、今日も大家さん、田所さん、村瀬さんの食堂の主が揃っていた。

「先輩、好き嫌いは無い?」
「魚の骨が面倒くさいってぐらいかな」
 今日の定食は、キノコの餡かけチャーハン、鶏の黒酢煮、蕪の漬け物、チンゲン菜の中華スープだった。
「トレイを持って、自分で配膳するの」
「給食みたいだな」

 2人で窓際のテーブルについて「いただきます」
「うまいな、これ手が込んでる、鶏も柔らかい」
「うん、美味しいね。ここ子ども食堂もしていてね、学校で収穫した野菜を寄付したんだよ」
「へえ、園芸部も社会貢献できるんだ。中華スープも美味いな、オヤジにもここ教えてあげよう」

「お父さん、この近くで仕事しているの?」
「ここからちょっと北に入ったネクスト製紙工場に勤めている。俺、そこの社宅に住んでいるんだ」
 そういえば、道路沿いのだだっ広い敷地に工場があった。紙オムツの製造工場だったと思う。

「先輩、父子家庭なんだよね。合格してお父さんも喜んだね」
「うん、オヤジにはあんまり負担かけたくないから、国立受かってよかったよ。発表あるまで、実はドキドキだった」

「あの……両親は離婚したの? ごめん、先輩のことをもっと知りたいの」
「俺の話なんてあんまり面白くないよ」
「今日は先輩が話をする日。先輩は主役なんだから」
「ハハッ、俺なんて脇役もいいとこだけど」
 先輩はそう言って笑ったけど、その笑い顔が妙に悲しくて私はじっと先輩を見つめた。
先輩は私の顔を見ると、一呼吸置いて話し出した。

「……うん、そう。離婚してさ、俺が中1の時ここに引っ越して来たんだ。オヤジは何にも言わないけど、母親と一緒にいる弟の養育費の支払いがあるから大変な筈なんだ」
先輩は立ち上がって、中華スープのお替わりをもらいに行った。
そのとき大家さんがクルッと振り向き、不意打ちのように先輩に話しかけたのだ。

「ちょっと待って、タレ目の僕ちゃん。兄弟2人いて、お父さんとお母さん、バラバラに親権とっているの?」

 先輩はテーブルに戻り大家さんをジロッと見て、
「それ、聞いちゃいます?」

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登場人物紹介

高山 真奈


カルト宗教『原理神州鍵宮梯子の会』と信者の父親から、母親と二人で逃亡。中学3年生の夏休みに泉水市へ移り住んだ。美少女だが極力目立たないよう、男の子っぽく装っている。

高山 悟


高山真奈の父親。真奈を梯子の会に入れ、洗脳していた。偏執症。

小関 順


園芸部の部長。気さくな性格。父子家庭。

石川 ケイラ


園芸部の先輩。パキスタン人と日本人のハーフ。

田中 秀一


符丁神社の宮司。無邪気で明るく子どもっぽいが、お祓いスキルは抜群。霊能力者。独身。

中原 美弥


真奈の友達。ナツメグオタ。レンコン信者。

大山 仁市


真奈の母親が頼りにしている民生委員。

村瀬 芽依


泉工医大理工学部の学生 たんぽぽ食堂で学習補助をしている。

二宮 治子


たんぽぽ食堂のオーナー。資産家。

天宮 開(第3部の主人公)


女子中学生 たんぽぽ食堂の常連で勉強仲間 父親が経営していた会社が倒産して貧困となったが、ポテンシャルが高く逆境をものともしない 優秀で数学が好き バイセクシャル 

成田 宗也(第4部の主人公)


高専生 たんぽぽ食堂の常連で勉強仲間 父親が失踪しているため母子家庭状態 


アイドルのような甘い顔立ちだが、父親に似ているため自分の顔が嫌い 真面目でやや不器用な性格

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