51. ドローンの侵攻/お膳立て
文字数 1,773文字
「ショーの始まりよ」
「M」が落ち着いた明るい声で言い、アオイと幸田は安全ベルトを締めなおした。「M」が三人が乗ったワンボックスカーを急発進させた。「BMI応用医療研究所」の正門前の歩道に乗り上げ、クルマのフロントグリルが正門の鉄扉にぶつかるギリギリ手前で停止する。
正門脇にある警備員詰め所から二人の警備員が飛び出し、駆け寄ってきた。
アオイはクルマを降り、「急患を乗せて聖命会総合病院に来たんです。入り口、ここじゃないんですか?」と尋ねながら警備員に駆け寄り、腕をつかむ。そして、接触放電。警備員が身震いして崩れ落ちた。驚いて固まっているもう一人の警備員にも電流を見舞って気絶させる。
幸田が鉄扉を軽々と乗り越えて警備員詰め所に駆け込み、鉄扉を開けた。「M」がワンボックスカーを敷地内に乗り入れ、アオイと幸田を迎える。
「M」がクルマを停めたまま、幸田に「モグラは出てきた?」と尋ねた。幸田が、カーナビ画面に目をやる。画面は、火災報知機に煙を吹きかけたスズメバチ型ドローンのカメラが捉えた駐車場内の状況を映している。
「モグラちゃんが二匹も出てきました」
火災警報を聞いて、傭兵が二人、エレベーターを使って状況確認に上がってきたのだ。
「では、モグラ狩りといきましょう」
「M」に言われて、幸田がカーナビ画面と連動したスマホを操作する。別のドローンのカメラ映像が現われた。カメラは、黒の戦闘服姿で拳銃を構えた傭兵が周囲に目を配りながら駐車場内を歩く姿を捉えている。
カメラがぐんぐん傭兵に近づき始めた。たちまち傭兵の首がアップになる。そこで、映像が乱れた。二秒後、カーナビ画面には、首筋を手で押さえてふらついている傭兵の姿が映っていた。スズメバチ型攻撃ドローンが警備員の首筋に強力な筋弛緩剤を注射したのだ。
幸田が「一丁上がり」と言い、「もう一匹のモグラちゃんは、どうかな?」と言ってスマホを操作する。画面にもう一人の傭兵が現われた。
ところが、こっちは、画面に銃を向けている。銃口から二筋の閃光が走った。「敵ながら、よく気づいたわね」と「M」が感心したように言う。
しかし、カメラは銃弾をものともせず傭兵に迫り、画像が一瞬乱れた後に、首筋に手を当てて倒れている傭兵の姿を送ってきた。
「幸田君、次、監視カメラお願い」と「M」が言い、幸田がスマホを操作する。カーナビ画面が多数のグリッドに分割され、一つひとつに駐車場内の監視カメラが映ったと思うと、次々と火花を上げて壊れていく。
ハチドリ型攻撃ドローンが監視カメラに肉薄して自爆し、カメラを吹き飛ばしているのだ。二、三秒で、監視カメラはすべて破壊された。
アオイは、「M」が「シェルター」から持ち出してきたドローンの見事な仕事ぶりに目を見張っていた。これらのドローンが、みな「M」が作ったものであることを、アオイは、今朝、聞かされた。
「M」は、ロボット工学の第一人者で、自然災害の被災地や人体に有害な環境で人間の目となり耳となって活動するロボットを製造する企業を経営していた。イスラエルのロボット製造企業から提携を持ちかけられた「M」は、裏にアメリカ国防総省の影を感じ、提携を断った。
すると、CIAが「M」を会社法違反の冤罪で経営の座から追い落とした。確固としたリーダーシップを失った会社は迷走し、結局、イスラエル企業に買収され、今では、アメリカ国防総省にロボット技術を提供している。
「M」は冤罪を晴らそうとしてCIAに命を狙われることになり、「シェルター」に身を寄せた。
それ以来、「M」は、「シェルター」の仲間に万一の事が起こった場合に備えて、以前は手がけたことのなかった攻撃用自律ロボット兵器を多種多数開発してきた。
「M」がCIA、国防総省と闘うために「シェルター」を離れる際、「シェルター」の仲間たちは、「M」が作ってきたロボット兵器をすべて「M」に返してくれたのだ。
ロボットたちの大活躍で、アオイ達が地下駐車場から地下三階の生体兵器改造工場に進入するお膳立てが整った。「M」はワンボックスを駐車場へと走らせた。