53. マンパワー/マシンパワー
文字数 2,068文字
駐車場のモニターを見ていた傭兵が「ボス、駐車場を見に行った二人がやられました」と叫んだ時、リケルメはまだミツキに心を奪われていた。
別の傭兵が「駐車場の監視カメラの映像が消えていきます!」と叫び、リケルメは我に返った。頭の中に稲妻が走る。
「駐車場の火災は、我々にエレベーターを使わせるための陽動作戦だ。敵が降りてくるぞ。地下2階でエレベーターを強制停止させろ」
リケルメが設備オペレーターの傭兵に指示する。
リケルメは警備チームのリーダーを呼び寄せた。
「警備チーム全員で降りてくる敵を迎え撃つんだ。当番警備員30名のうち20名を地下2階のエレベーター前に、10名をここ地下3階の廊下各所に配置しろ。そのあと非番の連中をたたき起こして、地下2階とこの階に15名ずつ配置するのだ。この製造施設にネズミ一匹通すな、地下からネズミ一匹逃すな」
リーダーが「アイ・サー」と答え、部下の傭兵たちを引き連れて廊下に出て行った。全員がマシンピストルを手にしている。
「誰が何を仕掛けてこようと、ここの守りは鉄壁だ」リケルメは自分に言い聞かせた。
「M」は、倒れている傭兵に寄せてワンボックスカーを停めた。アオイと幸田がクルマを降りて傭兵をワンボックスカーに押し込み、自分たちも乗り込む。幸田が傭兵のホルスターに納められた予備の拳銃を取り上げ、防弾ベストのポケットから銃弾の詰まった替え弾倉を抜き取って上着のポケットに押し込んだ。
「M」がクルマを発進させ、エレベーターを通り過ぎ、駐車場の奥にある非常階段の扉まで突っ走る。
幸田とアオイが傭兵をクルマから引きずり出し、その指を非常階段の扉の指紋認証画面に押し付けた。ガチッと音がして、扉が開いた。緑色の非常灯で水底のように照らされた階段が現われる。
アオイ達が非常階段の扉をあけている背後で、「M」はクルマの荷台の中央を占拠している樹脂製ボックスのふたを開けた。中にはミツバチにそっくりな超小型のドローンがびっしり並んでいた。
スマホを取り出してタッチパネルを操作すると、ドローンの半分が羽音を立ててボックスから飛び立ち、クルマの荷台から出て行く。
駐車場のスプリンクラーからは、相変わらず、泡状の化学消化液が降り注いでいるが、ドローンは、その泡をものともせず、非常階段の前で密集隊形を組んだ。
幸田が「預かっていてくれ」とアオイに拳銃を渡し、傭兵を背中に背負う。
「ドローンに前方を守らせるわよ」と「M」が言い、アオイが扉を全開にすると、密集隊形のドローンが、非常階段に突入していった。幸田から預かった銃を手にしたアオイ、傭兵を背負った幸田が後につづく。。
「M」はクルマをエレベーター前まで後退させた。ここで、残り半分のドローンを発進させ、エレベーター前で密集隊形を組ませる。
「M」は荷台から簡易型のパワーアシストスーツを取り出して腰のまわりに装着した。倒れているもう一人の傭兵を見つけるのに手間はかからなかった。パワーアシストツーツの助けを借りて、傭兵をエレベーター前までひきずっていく。
傭兵の指で地下三階のボタンを押させ、開いた扉の中にミツバチ型ロボットの一群を送り込む。ドローンを満載したエレベーターが地下へと降りていった。
前日この建物を偵察ロボットで調べた結果、地下三階が生体兵器改造工場だということを突き止めてあった。地下二階は未調査だが、警備の傭兵達が詰めている可能性がある。だとしたら、このエレベーターは地下二階で傭兵たちの待ち伏せを受けるだろう。それならそれでいい。傭兵達をドローンとの戦闘で足止めすることができる。
アオイ達が地下一階と二階の間の踊り場に達したとき、地下二階の扉が開いて、傭兵がひとり現われたが、たちまち顔をドローンに取り巻かれて廊下に逃げ戻った。後を追って全体の三分の一ほどのドローンが扉と壁の間をすり抜けて廊下に侵入したところで、扉がしまった。
ドローンは、アオイ、幸田、「M」、ミツキの四人以外の人間を認知すると、五機一グループで顔のまわりに群がり、筋弛緩剤を注射するようプログラムされている。一機でも注射を終えたグループは、次の標的を探して移動する。
非常階段でアオイ達を先導していたドローンは五〇機。そのうちの一五機程度が地下二階に進入できたとしても、計算上は最小で三人、最大で一五人の敵を行動不能にできる。それ以前に傭兵達を混乱させることが出来るから、地下三階に突入するまでの時間稼ぎには十分だろうと幸田は計算した。
幸田は傭兵を背負い直し、アオイに、「いよいよ敵の本丸に突入だぞ」と声をかけた。