19.  深夜の外出

文字数 1,340文字


 夜はどっぷりと更けた。暗い森の中から、フクロウの鳴き声が聞こえる。

 事を決めてからというもの、ずっとこの時を楽しみにしていた三人。

 彼らが静かに廊下へ出ると、二階の明かりは暗くなっており、寝静まった様子でシン・・・としていた。大きな音をたてないよう気をつけながら、忍び足でシャナイアとミーアがいる部屋の前を通り、エミリオとカイルの部屋も横切って、下の階へ向かう。

 度々、足元も気にした。廊下が(きし)む音は、完全に消すのは不可能だ。不自然でないよう、むしろ普通に、静かに歩き過ぎる方がいいんじゃないか・・・。ギルやレッドはそうも考えたが、踊り場がある階段も、結局、祈りながら抜き足差し足で下りた。

 管理人の夫婦はまだ起きているらしく、玄関の灯りのほかに、食堂からも光が漏れている。幸い、玄関までは、開放的なその食堂の前を通らずに行ける。階段を下りると、そこと玄関とは真っ直ぐな廊下でつながっているが。

 そのため、今度は管理人夫婦の方を気にしながら、三人は徐々に玄関へ。無事にたどり着けたら、あとはドアノブを静かに押し開けて、閉めるだけ。

「どこへ行く気かな、こんな夜更けに。」

 まさに無断外出の直前で、不審(ふしん)者たちはそろって肩を飛び上がらせた。おずおずと肩越しに振り向いてみれば、食堂の前にいる男女は管理人の夫婦ではなく、エミリオとシャナイアだ。二人とも(あき)れた様子で立っている。エミリオのその穏やかな口調は、こういう場面ではずいぶん皮肉たっぷりに聞こえる。

「ぜんぜん分からなかった・・・。」と、ギル。

「一時間くらい前からかな・・・ずっと下にいたのでね。」エミリオが言った。「部屋に興味深い本が置かれていたので、お借りして読書をしていた。カイルがいつでも眠りに()けるように、灯りがある食堂で。」

「私も目が冴えちゃって、食堂にいたのよ。奥さんに刺繍(ししゅう)を教えてもらっていたわ。」
 続けてそう答えたシャナイアは、眠気が差してこないのは、そもそもあなたのせいよ・・・と、一瞬、ギルを見た。
「それより何なの、お(そろ)いで。どんなに音をたてなくたって、下にいれば、真上を歩く気配は分かるわよ。」

「いや、ちょっとリューイのために社会見学を。」
 レッドが(あせ)って言った。
「すぐ帰るから、なっ。」と、リューイ。

 そしてギルは、後ろのレッドに()かされてドアを開けた。

 三人はそうして、逃げるようにしながら出掛けてしまった。問い詰められる前に。

「きっと酒場へ行ったのよ、レッドも好きなんだから。」

 やれやれと手を振って、シャナイアは食堂へ戻ろうと(きびす)を返した。別に(しか)るつもりなんて無かったのに。
 それはエミリオも同じだ。行き先や、いつ帰るのかをきいておきたかっただけ。だがふと、エミリオは自分の言葉を思い返した。きき方が悪かったかな。

 そこへ、主人が様子を気にして出てきた。

「おや、こんな時間に出掛けたんですか・・・何も起こらなければいいですが。」
 
 彼は温和で気さくで、いつもにこやかだが、この時、そんな彼が異様に顔を曇らせたのを、二人は初めて見たと思った。

 エミリオとシャナイアは、思わず顔を見合った。今日の出来事が脳裏に浮かぶ。怪しく、不可解で・・・凶暴な・・・。
 出て行った三人のことが、急にひどく気になり始めた。



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