38.  石像の罠と棒術の達人

文字数 1,383文字

「このまま・・・進もう。」
 カイルは一つ深呼吸をし、(つら)そうなため息をついて、仲間たちを(うなが)した。

 ギルやレッドは目を見合ったものの、こういう場合にカイルはリーダー的存在となるので、何も言わずに従うことにした。

 後戻(あともど)りはせず、再びリューイを先頭に新たな道へと足を進める。

 初めの分かれ道を通り過ぎると、リューイはまたカイルに指示されるままに次の角を曲がった。時々、部屋のようながらんとした場所に出ることもあった。そこは何もない殺風景(さっぷうけい)な空間ばかりだったが、そこでは必ず道がいくつかに分岐(ぶんき)した。リューイはまた、そんな部屋がありそうな入口の方へ曲がった。

 とたんに何か踏みつけた、と気づいた瞬間 ―― !

「伏せろ!」

 あわててリューイは叫んだ。同時に、胸の前で鉄棒を風車(かざぐるま)のごとく振り回し始めたのである。そこにあるものを見るより、先に。ほとんど(かん)と条件反射だ。 

 エミリオとギルは咄嗟(とっさ)に寝そべり、レッドもカイルの頭を押さえつけながらそうした。

 たちまち、耳をつんざく甲高(かんだか)い音が立て続けに鳴り響いた。リューイの描く大車輪にかかって、何かが(はじ)き飛ばされているようだ。

 背後で見守る者たちは、その見事な手さばきと恐ろしいほどの回転速度に目をみはった。改めて、リューイのすることは何もかも人間(わざ)ではない。

 しばらくして、鉄棒が風をきる(うな)り声だけとなった。

 リューイは一度手を止めたが、その目つきは依然(いぜん)として険しい。

 静まり返った辺りの様子に、カイルが頭を起こそうとする。

「まだだ。」
 レッドが鋭くささやいて、カイルのその頭をまた押さえつけた。

 かすかな音がした・・・!

 リューイは、鉄棒を力一杯きり上げる。

 そのひと振りにかかってキラリと光るものが(なな)め上へ向かい、壁に当たって落ちた。手のひらサイズの細長い(はり)だ。そしてリューイの背後・・・つまり、ほかの者たちが伏せている場所以外の床には、おびただしい数のそれが無造作(むぞうさ)に散らばっている。

 リューイは背中を向けたまま、「無事か。」と、言った。その時、リューイは真正面にあるものをじっとねめつけていた。

「ああ、おかげでな。」
 カイルの脇を抱え起こしてやりながら答えたレッドは、それから、リューイが(にら)みつけている方へ向かって(あご)をしゃくった。
「これは全部、あの(かべ)から吐き出されたものか。」

 進行方向、真正面のそこには、壁に浮き彫りの女性がいた。優しそうな顔をしている。だが右手で牛の頭骸骨(ずがいこつ)を持ち上げ、左手には鳥の大きな翼。そして、その周りの壁のいたるところには、無数の穴が。

「絶対何か出してくると思ったんだよ。」
 リューイは答えながら鉄棒を脇に挟んで、指の関節をポキポキと鳴らしていた。

「牛の頭と鳥の翼は、昔の邪術を行う際の(そな)え物だよ。ほかにも獣の舌とか肝とか心臓とか、いろいろあるよ。」
 カイルが言った。

「なんて不気味で・・・皮肉な。挑発だろうな。」
 ギルは顔をしかめた。

「牛は中間的なものでね、雨乞(あまご)いをする時とかにも供えられるけど、その場合はたいてい仔牛(こうし)一頭の姿(すがた)丸々。特に内臓を用いるのは決まって邪術なんだ。それと何らかの関係があるんじゃないかな。」

 あれこれと(しゃべ)りながら、カイルは壁の女性に近寄っていく。

「カイル、今の見てたろ ? 知らねえぞ。」と、リューイは目の下の傷を指さしてみせた。「これだって、それと似たようなのにやられたんだぜ。」





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