20. 居酒屋で・・・
文字数 2,902文字
三人は、石ころだらけの曲がりくねった下り坂をたどっていた。
「シャナイアはその・・・異性との関係っていうか、経験は豊富な方なのか。言い寄る男はごまんといるだろうが。」
やぶから棒にギルが言いだした。
思わぬ質問に、レッドは
「そういう話はしたことはないが、どんな男も、あいつの本性を知った
「何かしたか・・・と、きくとこだろう。」と、ギルは呆れた。
「いや、あいつのことだ。あんたの方が危険だ。」
この瞬間、レッドは過去を思い出していた。なんせ、あいつは、相性が悪そうな年下の俺でも誘ってきた女・・・あの時は酔っぱらっていたが。※
ギルは呆れ果てた。
「彼女は、お前が思っているほど男まさりじゃないよ。」
坂を下りきると、そこは昼間とはうって変わって荒々しい
帝都アルバドルの感じのよい居酒屋に馴染みのあるギルは、この不潔たらしさに少々面食らい、この町の本来あるべき姿と比べて驚いたリューイが目を丸くしたが、レッドにとっては何てことのない見慣れた光景だ。
三人は、そう
ギシギシと
ウェイトレスがおらず、セルフサービスのその店でレッドが酒を注文しにカウンターの方へ行ってしまったので、あとに残された、見た目こんな場所には似合わない顔の二人は、急に周りから浮いてしまった。どうしたってギルは皇族の気品がたたずまいに表れているし、そのうえ
「よお、綺麗な兄ちゃん。」
空いている席を探している途中、
正直、ギルは
「女を口説きにきたなら、場所、間違えてるぜ。」と、その男はやはり、しっかりと目を合わせて言ってきた。「ここで口説けるのは酒だけだ。」
ギルは
「それは残念。じゃあ、綺麗な男で我慢するか。」
そう言ってギルはリューイの肩を抱こうとしたが、その姿が
髭の男はかっかと笑った。
「顔に似合わず面白いことを言う。」
「ほら。愛しいお方は、あそこで
男と同じテーブルを囲む仲間の一人が、そちらを指差して教えてくれた。
見ると本当に、でっぷり太った男のむっくりした手を、リューイはがっちりと握り締めている。相手の男だけが顔を真っ赤にし、リューイはというと
「四人目だ、驚いたね。」
また別の男が言い、鶏のモモ肉にかじりついた。
「兄ちゃん気をつけな。あいつらはまだいいが、気性の荒い奴がごろごろ居るからな。怪我するぜ。」
髭の男はそう忠告しながら、使っていないグラスに焼酎を満たして差し出した。
ギルは二つの意味で礼を言い、それを受け取った。
六人全てを負かしたリューイは、酒や食べ物を機嫌よく勧めてくるその連中の誘いを断りながら、逃げるようにして戻ってきた。どういう
「あ、いたいた。」
そこへ、注文をしに離れていたレッドも、見失ったギルとリューイを見つけて戻ってきた。ビールを満たしたジョッキを三つ持っている。
ところが、ギルに向けられていたレッドの視線が不意にズレたかと思うと、さらにその目はみるみる大きく開かれていく。
髭の男がいきなり立ち上がった。
「レッド!」
「ライデル、やっぱりだ!」
卓上にジョッキを置いたレッドは、男たちにこつかれての少々荒っぽい歓迎を受けた。
「そうか、おめえの連れか。じゃあ傭兵だな。そのわりには、そっちの兄ちゃんには剣が見当たらんが。」
ライデルと呼ばれた髭の男は、そう言ってリューイの腰の辺りに目を凝らした。
「外れ。二人とも違う。」と、レッド。
「あんたは山賊だろう。」
男が、それでは何なのかと
「その通り。」ライデルはにやりと笑った。「兄ちゃん、こいつを見ちまったな。」
そう言って、ライデルがテーブルの下から拾い上げたものは、
「おっと、ぶっそうな想像しないでくれよ。俺たちゃ無闇に
「血祭りにあげたならず者なら数知れず。」
レッドが皮肉たっぷりに言った。
「どうせ救いようのない悪党ばかりさ、罰はあたらねえよ。ま、俺たちだってろくな死に方はできんだろうが。」
ライデルは残り少ないボトルに直接口を付け、がぶがぶと飲み干した。
「なんで山賊なんかと知り合いなんだ。」
リューイが問うた。体よく言葉を使いこなせないだけで、悪気は無い。
「俺たち無くしては、こいつは語れないぜ。なあ息子よ。」
ライデルは、レッドの
レッドは邪険にその手を払いのける。
「俺もういい歳なんだぜ。」
すると、ライデルの抜け目ない瞳に優しい
「俺たちにとっちゃあ、いつまで経っても十四のままだよ。」
「お前のおやじさんは山賊だったのか。」
リューイがびっくりして言った。
「実の父親を呼び捨てる奴がどこにいる。」
相変わらず何事も率直に受け止めるリューイに、ギルはやれやれという顔。
レッドは苦笑を浮かべた。
「ガキの頃に親と生き別れてな・・・。それから十四になるまで、このライデル一味に育てられたんだ。おかげで罪人という過去を引きずってる。」
「おかげで強く
そのあとライデルは、首を伸ばしてきょろきょろと周囲を見回した。
「ところでテリーはどうした。一緒なんだろう?」
急に弱々しくなったレッドの瞳に、暗い影が落ちた・・・。
「テリーは・・・死んだ。」
ライデルとその仲間たちは、
レッドのその声はとても聞き取りがたく、か細かったが、それが耳に入ったとたん、周りの豪快な笑い声も、野次も
※ 『アルタクティスzero』― 外伝3「レトラビアの傭兵」 9. 恋慕