17. 気になる関係
文字数 2,676文字
「有り得ないと言えば・・・どうしてエミリオと一緒だったの?ヘルクトロイの戦いのことは、噂で聞いたわ。なのに、あんなに仲良さそうに一緒にいたのは、どういうわけなの。」
「仲良さそうに見えた? あいつは未だに心を開いてくれないよ。俺の方が一方的に馴れ馴れしくしてるだけさ。」
「彼のような物静かすぎる人には、あなたくらい馴れ馴れしい人がついて、ちょうどいいのよ。」
シャナイアは、女性の扱いに手馴れていそうな彼に皮肉を込めて言ったが、ギルの方は声をたてて笑った。
「あいつとは、旅路でたまたま出会ったんだ。カイルが言うには、運命の出会いってヤツらしいけどな。もっとも、一度その戦争で顔を合わせているわけだが。それどころか、本気で殺し合いをした仲だ。だから、俺が一緒に旅をしようって誘った時は、ひどく困惑していたよ。だが、俺は互いに互いが必要だと思った。俺は本物の親友が欲しかったし、あいつとなら、そうなれるような気がした。喜びも悲しみも分かち合える存在に憧れていた。けど・・・あいつの心の傷は、思った以上に深そうだ。」
声のトーンが落ちていくギルを見つめながら、シャナイアも顔を曇らせた。
ギルには、エミリオにはまだ何かあるような気がした。毎晩のように、あんなふうに苦しめる、もっと根深い何かが・・・。
ギルは、エミリオの思い悩む姿を密かに何度か見ているが、その中で、エミリオが悲痛に顔をしかめたのを、一度目にしたことがあった。
あの表情には、ギルにも覚えがある。衝撃的な出来事を思い出した時だ。それは自分の過失や、自分がしたことによって、人を不幸にしたり、死に追いやった時。それが鮮烈に目に浮かんだ瞬間、耐え切れずにハッと息を呑み込み、目をつむる。
この時、また自分のそんな過去を思い出したギルは、どっと襲ってくる やるせなさで、黙り込んだ。
しんみりしてしまった空気を察して、シャナイアは彼にほほ笑みかけた。そして空になったグラスを振ってみせながら、「ねえ、もう一杯いただいてもいいかしら。」と、愛嬌たっぷりに言った。
ギルは顔を上げ、シャナイアを見て
「加減しろよ。俺に襲われないように。」
「ほんとに皇子様らしくないわね。面白い人・・・いたっ⁉」
いきなりシャナイアが悲鳴をあげた。彼の方を向きながら手を伸ばしたせいで、うっかりボトルの鋭い飾りを握ってしまったようだ。
「切ったのか⁉ ごめん、俺がつまらない冗談 ―― 。」
「違うわ、私が ―― 。」
シャナイアが言っている間に腰を上げていたギルは、気付いた時には彼女の手首を引っつかんで、血が
「あ・・・ごめん、つい・・・。」
あわててハンカチを取ったギルは、それで傷口を押さえ直した。だが次の瞬間、胸をぐっと縛りつけられた気がして、呆然とした。急に何も聞こえなくなった。早くなる胸の
シャナイアの眼差しは見つめていた。それが今、目が合ったとたんに、食い入るように飛び込んできたのだ。とりわけ、その瞳が素敵だった。目尻の長いまつげがひときわ目立つ、大きくて
実際、先に夢見心地になってしまったシャナイアもまた、流されるままに身を
するとギルの視線は、今度はその唇にいった。形もよく綺麗で柔らかそうな唇。たちまち味わいたいという衝動に駆られる。意識は完全にあやふやだ。
さらに困ったことに、彼女はゆっくりと瞳を閉じて・・・いや、ダメだ落ち着け!
唇が触れ合うかという
ギルは理性を呼び戻して顔を上げ、シャナイアの
「早く傷が治るように。ちゃんと眠っておかないと・・・。さあ、もう部屋へお帰り、綺麗なお嬢さん。そこのドアからね。」
そう言って、ギルは部屋の出入り口を指差してみせる。
シャナイアも、はにかむようにほほ笑み返した。
「分かったわ、ハンサムなお兄さん。今夜はおとなしく戻ります。お邪魔しました。」
シャナイアは可愛らしくぺこりと頭を下げて、ドアへ向かった。そしてノブを引き開けると、そこで振り返って微笑した。
「おやすみなさい。」
「ああ・・・おやすみ。」
ギルは、静かにドアを閉めて部屋を離れて行く彼女の足音を、頬に笑みを残したまま追っていた。が、次第に妙な脱力感に襲われて、ストンとベッドに腰を落とした。
そして、いよいよ呆然とした。こんなの初めてだ・・・と。
「俺・・・さっき・・・自分から・・・。」
これまで義務的に、高貴な
ギルは深呼吸をし、そして結局は、「今夜は
一方、狭い廊下をのろのろと歩いて戻りながら、シャナイアはふと窓の外に目を向けた。
雲に覆われていて星の見えない夜空のもと、強風に
シャナイアは立ち止まって、窓辺に歩み寄った。
「やだもう・・・どうしよう・・・。」
窓辺に