51. 太陽神アルスランサーの力
文字数 1,756文字
急に眩暈 を起こし、倒れかけたエミリオの肩がギルにぶつかる。
ギルは驚いてその肩を支えた。
「シャナイア・・・。」
エミリオが何やらつぶやいた。
「今・・・シャナイアって言ったか。」
ギルがきき返す。
エミリオは両目を押さえてうなずいた。
「ああ、一瞬・・・見えた気がしたんだ・・・彼女が。何だかよくは・・・説明できないが・・・それから、こう突き上げるものが・・・。」
「シャナイアの・・・太陽神の力を感じて、エミリオの中で何かが起こったんだ。」そう言いだしたカイルは、興奮気味に言葉を続けた。「あ、そうだ、ミーアは? ミーアは光の神の石を持ってる。」
「おい、待て・・・。」
ギルは見据 えるような眼差 しをカイルに向けていた。
「感じた・・・って、どうしてだ。」
以前、大地の神の力が少し引き出された原因は、それを秘めているレッドが、窮地 で感情をむき出しに神に助けを求めた ―― 思いきり文句を言った ―― ことだった。
そのことを思い出して、カイルも眉をひそめた。
「何かあったんだ・・・。」
サッと青くなったレッドは数秒、石像のように固まってしまった。
「それって・・・まずくないか。」と、レッドはつぶやいた。そして突然、カイルの胸倉をつかんだ。「まずくないか、なあっ⁉」
「あだだ、お、落ち着いてよおっ!」
「落ち着けレッド、言ってる場合じゃないぞ!」
いきなり、リューイが声を張り上げた。
エミリオもギルも既 に身構えている。
我に返ったレッドは、あわてて通路に目を向け直した。
見ると、行く手にまたも現れた魔物の群れ。全身は墨 をかぶったように黒く、獣のように四つ足を付き、やはり炭火のような目玉を持っている化け物どもがいる。それらが餌 にありつこうと、両手両足をつきながら飛び跳ねてくる。締まりのない口からどす黒い液体を垂らして、辺りに粘 り気のあるものを遠慮なく撒 き散らしていた。
「ええい、くそったれ。」
レッドは舌打ちした。
それらは地下で相手にしたのとそう変わらなかったが、今は虫けら同然に思えた。
「ヤロウッ!」
豪快に鉄棒を振り回したリューイは、勢いよく進行方向へ駆けだした。
「どけっ、お前らに構っている暇などない!」
ギルが怒鳴る。
「来やがれ、ケダモノッ!」
レッドは血迷いかけている。
「急ごう。」
エミリオの静かな声にもカイルは焦 った。これ以上熱くなられると、確実に付いて行けなくなってしまう。
晴れるかと思われた天気は急にまた崩れ、外では雷鳴がとどろき、雨音 がしていた。おかげで館内はいっきに暗く不気味さが増したが、もはやそれを気にする者はいなかった。今や神経や感覚は極限まで研 ぎ澄まされ、暗がりではいっそう見分けにくい闇の生物でも、瞬時にとらえることができた。
襲いかかる敵を手当たり次第に排除しながら、五人は一心不乱に突き進んだ。カイルなどはひいひい言いながらの全力疾走。
そうして、一階の長い広廊を走り抜けた。
「見えた、入り口だ!」
カイルが奥にある両開きの扉を指差して叫んだ。
「突っ切っていいか!」
リューイも大声で言った。
「だが油断するな。」と、ここは冷静にギルが応じた。慎重になれる隙 も時間もないため、仕方ない。
リューイも気持だけは用心しながら、ほとんど運に任せてひと思いに扉を蹴破 る。
舞踏会場の華麗で重厚な扉は、あっさりと一行 を迎え入れた。
有り余る勢いのまま、全員がその大広間へ駆け込んだ。
すると・・・。
魔物の大群による襲撃が、不意に途絶えた。何か命令がくだったように、それらは次々とこの真っ暗な会場の中へと身を引いていったのである。
真っ暗な会場・・・視界の先はさらに暗くて、ほとんど闇だ。異様に暗く、危険をはらんでいる。
背後にある扉が開いているおかげで、すぐ左右に、緩やかにカーブしている上り階段があるのは、ぼんやりと見える。それで室内の幅は推測できるが、奥行きが分からない。
おかしい・・・。
今、襲撃には好条件のはず。なのに、異様にひっそりとしている。
だが、この血の凍るようなおぞましい感覚といったらどうだ。
まだ居る・・・確かに。
蠢 く気配と、そして・・・。
「そこからでは見えないでしょう?見えるようにして差し上げましょうか?」
奥から聞こえた、女のしわがれた声が反響した。
ギルは驚いてその肩を支えた。
「シャナイア・・・。」
エミリオが何やらつぶやいた。
「今・・・シャナイアって言ったか。」
ギルがきき返す。
エミリオは両目を押さえてうなずいた。
「ああ、一瞬・・・見えた気がしたんだ・・・彼女が。何だかよくは・・・説明できないが・・・それから、こう突き上げるものが・・・。」
「シャナイアの・・・太陽神の力を感じて、エミリオの中で何かが起こったんだ。」そう言いだしたカイルは、興奮気味に言葉を続けた。「あ、そうだ、ミーアは? ミーアは光の神の石を持ってる。」
「おい、待て・・・。」
ギルは
「感じた・・・って、どうしてだ。」
以前、大地の神の力が少し引き出された原因は、それを秘めているレッドが、
そのことを思い出して、カイルも眉をひそめた。
「何かあったんだ・・・。」
サッと青くなったレッドは数秒、石像のように固まってしまった。
「それって・・・まずくないか。」と、レッドはつぶやいた。そして突然、カイルの胸倉をつかんだ。「まずくないか、なあっ⁉」
「あだだ、お、落ち着いてよおっ!」
「落ち着けレッド、言ってる場合じゃないぞ!」
いきなり、リューイが声を張り上げた。
エミリオもギルも
我に返ったレッドは、あわてて通路に目を向け直した。
見ると、行く手にまたも現れた魔物の群れ。全身は
「ええい、くそったれ。」
レッドは舌打ちした。
それらは地下で相手にしたのとそう変わらなかったが、今は虫けら同然に思えた。
「ヤロウッ!」
豪快に鉄棒を振り回したリューイは、勢いよく進行方向へ駆けだした。
「どけっ、お前らに構っている暇などない!」
ギルが怒鳴る。
「来やがれ、ケダモノッ!」
レッドは血迷いかけている。
「急ごう。」
エミリオの静かな声にもカイルは
晴れるかと思われた天気は急にまた崩れ、外では雷鳴がとどろき、
襲いかかる敵を手当たり次第に排除しながら、五人は一心不乱に突き進んだ。カイルなどはひいひい言いながらの全力疾走。
そうして、一階の長い広廊を走り抜けた。
「見えた、入り口だ!」
カイルが奥にある両開きの扉を指差して叫んだ。
「突っ切っていいか!」
リューイも大声で言った。
「だが油断するな。」と、ここは冷静にギルが応じた。慎重になれる
リューイも気持だけは用心しながら、ほとんど運に任せてひと思いに扉を
舞踏会場の華麗で重厚な扉は、あっさりと
有り余る勢いのまま、全員がその大広間へ駆け込んだ。
すると・・・。
魔物の大群による襲撃が、不意に途絶えた。何か命令がくだったように、それらは次々とこの真っ暗な会場の中へと身を引いていったのである。
真っ暗な会場・・・視界の先はさらに暗くて、ほとんど闇だ。異様に暗く、危険をはらんでいる。
背後にある扉が開いているおかげで、すぐ左右に、緩やかにカーブしている上り階段があるのは、ぼんやりと見える。それで室内の幅は推測できるが、奥行きが分からない。
おかしい・・・。
今、襲撃には好条件のはず。なのに、異様にひっそりとしている。
だが、この血の凍るようなおぞましい感覚といったらどうだ。
まだ居る・・・確かに。
「そこからでは見えないでしょう?見えるようにして差し上げましょうか?」
奥から聞こえた、女のしわがれた声が反響した。