41. 強敵
文字数 2,122文字
「ふさげ !」
あわてて舞い戻ってきたレッドは、カイルに向かって命令した。
「ふさげ ⁉」
カイルがすっとんきょうな声で聞き返す。
「早く、毛穴だ、毛穴 ! あいつめ体中から出してやがる !」
「毛穴の塞 ぎ方なんて知らないよ !」
「何か方法があるだろ、あの不思議な力で ! とにかく、これを何とかしてくれ ! 近付けやしない !」
カイルは後ろへ下がると、大急ぎで戦闘術の体勢をとった。
ところが、何てことだ !
呪文を唱え、いくら呼びかけても精霊たちが応 えてくれない。いつものように速 やかにやってきてくれないのである。最悪の事態だ。
カイルは焦 った。こいつは僕の敵 う相手じゃない・・・。
精霊たちが圧倒的な力の差に辟易 している。恐れている。戦闘用の強い精霊がいうことを聞いてくれない。戦うための命令は下せない。
お願い、僕らを助けて !
カイルは声にせず叫んだ。
だが、べそをかきながらも諦 めなかった。何とかしようと懸命に呪文を唱え続けた。そうする間にも、急速に焦りともどかしさは募 ってゆく。気が気ではなかった。
もはや無防備でいるカイルを、グイッ ! と伸びた魔物のひと振りが襲いかかる。
「カイル!」
気付いたエミリオが飛び出して間一髪でたたき斬ると、それは大きく宙をうねり、波打ちながら引いていった。
危うく体をもっていかれるところだったが、カイルは依然 、精神統一を乱さず座りこんでいる。ほかへ気を回している余裕などなかった。もちろん、エミリオがそばにきてくれたと分かってからは、先ほど成功した裏技もやっている。だが足りない。何も応じない。けれど、これ以上の力を引き込もうとすれば、応 える精霊がいたとしても、また暴走させてしまうことになる。
エミリオは、カイルのそばにひかえて剣をしっかりと握り締めた。リューイや、それを助けようと奮闘しているギルやレッドを目の当たりにして居ても立ってもいられない思いだが、このあいだ逃げることもできないこの少年を放っておくわけにはいかなかった。
リューイの体はじりじりと引き寄せられていた。本来、怪力のリューイであっても、迫力負けして思うように力が入らない。意識はかろうじて保っていたが、気力も体力も瞬く間に奪われてゆく。
リューイはみるみる弱っていった。
「リューイ!」
レッドが無我夢中で呼びたてた。行く手を茶色い縄のようなもので塞 がれ、たったの一歩さえも思うように進むことができない。一人ではどうにもならない。いらだってほかへ目を向けると、すぐそばで、同じように無数のそれを手当たり次第に斬りつけているギルの姿を確認できた。背中に負っていた弓は、すでに、魔物の攻撃が届いていない安全な場所に置いてきたようだ。
リューイには、返事をする気力などもはや残ってはいない。凄 まじい威力で締 め上げられて頭がくらくらし、すでに手足の感覚もほとんどない。もう意識も五分ともちそうになかった。
レッドとギルは、共同で突破口を切り開こうと奮闘していた。そしてようやく、魔物が怯 んだと見えた一瞬、右からも左からも視界を塞ごうとするものの隙間 を、レッドが飛び込んで抜ける。レッドはそのまま廊下を転がり、蛇行 して向かってくるものを突き刺して、続けざまにリューイの縛 めを解いてやった。
「しっかりしろ!」
崩れるように膝を折ったリューイは、そのまま廊下に両手も付いて体を支えた。急に楽になったがホッとするのも束の間、気付けば二本の魔の手が這 うように向かってくる ―― !
リューイはあわてて飛び上がった。
「下っ、避 けろ!」
わずかに逃げ遅れたレッドの左足に、長くて強いしなやかなものが巻き付いた。
足をすくわれたレッドは数メートル引き摺られ、凄まじい力で引き上げられた。抵抗したが反撃も虚 しく、死にもの狂いで振るった剣は、二本ともあっさりと手元から離れていった。そこで、最後の武器を右腕のベルトから引き抜き、くの字に体を起こして、足に巻きついているものを掻 き切ろうとしたが、またすぐに伸びてきたものに邪魔され、結局それも落としてしまった。
「レッド!」
今度はリューイが助ける番だ。息もできないほどの圧迫感から解放されると、体力や感覚は即効 戻ってきてくれた。だが、あらゆる角度から伸びてくるものが、複雑な攻撃を繰り出して邪魔をする。
それらは、実に様々な動きをみせた。波打ったり蛇行したり、かと思えば、そら恐ろしい速度で直進してきたりする。
横から襲いかかるそれをリューイは屈 んでかわしたが、息つく間もなく、今度は三本が一斉に足元を狙う。リューイは、そのままの姿勢から前方へ飛び込んで逃げ場を求めた。途中、視界の隅 に向かってくる嫌なものを見た。全身を落ち着かせている暇 はない。リューイは手だけを着くと廊下を力いっぱい押し上げて、回転しながら次は後ろ ―― つまり、先ほどいた場所 ―― へ飛び退 いた。着地すると同時に、両脇腹に複数の気配を感じた。反射的にまたも飛び上がり、仰 け反 ってさらに後退する。目の前で、獲物を捕らえそこなった六本が絡 み合った。
リューイは、ようやく自身を取り戻した。避 けることにかけては、何よりも得意だったはずだ。
あわてて舞い戻ってきたレッドは、カイルに向かって命令した。
「ふさげ ⁉」
カイルがすっとんきょうな声で聞き返す。
「早く、毛穴だ、毛穴 ! あいつめ体中から出してやがる !」
「毛穴の
「何か方法があるだろ、あの不思議な力で ! とにかく、これを何とかしてくれ ! 近付けやしない !」
カイルは後ろへ下がると、大急ぎで戦闘術の体勢をとった。
ところが、何てことだ !
呪文を唱え、いくら呼びかけても精霊たちが
カイルは
精霊たちが圧倒的な力の差に
お願い、僕らを助けて !
カイルは声にせず叫んだ。
だが、べそをかきながらも
もはや無防備でいるカイルを、グイッ ! と伸びた魔物のひと振りが襲いかかる。
「カイル!」
気付いたエミリオが飛び出して間一髪でたたき斬ると、それは大きく宙をうねり、波打ちながら引いていった。
危うく体をもっていかれるところだったが、カイルは
エミリオは、カイルのそばにひかえて剣をしっかりと握り締めた。リューイや、それを助けようと奮闘しているギルやレッドを目の当たりにして居ても立ってもいられない思いだが、このあいだ逃げることもできないこの少年を放っておくわけにはいかなかった。
リューイの体はじりじりと引き寄せられていた。本来、怪力のリューイであっても、迫力負けして思うように力が入らない。意識はかろうじて保っていたが、気力も体力も瞬く間に奪われてゆく。
リューイはみるみる弱っていった。
「リューイ!」
レッドが無我夢中で呼びたてた。行く手を茶色い縄のようなもので
リューイには、返事をする気力などもはや残ってはいない。
レッドとギルは、共同で突破口を切り開こうと奮闘していた。そしてようやく、魔物が
「しっかりしろ!」
崩れるように膝を折ったリューイは、そのまま廊下に両手も付いて体を支えた。急に楽になったがホッとするのも束の間、気付けば二本の魔の手が
リューイはあわてて飛び上がった。
「下っ、
わずかに逃げ遅れたレッドの左足に、長くて強いしなやかなものが巻き付いた。
足をすくわれたレッドは数メートル引き摺られ、凄まじい力で引き上げられた。抵抗したが反撃も
「レッド!」
今度はリューイが助ける番だ。息もできないほどの圧迫感から解放されると、体力や感覚は
それらは、実に様々な動きをみせた。波打ったり蛇行したり、かと思えば、そら恐ろしい速度で直進してきたりする。
横から襲いかかるそれをリューイは
リューイは、ようやく自身を取り戻した。