23.  凱旋門に現れる亡霊

文字数 1,463文字


 酒場の喧噪(けんそう)から離れた三人は、すっかり寝静まった、どこか物寂しい感じさえする表通りを歩いていた。凱旋門(がいせんもん)もあり、周りには高い住宅も連なっている広い通りだが、ほかに人気は全く無かった。そういえば、とっくに真夜中だ。

「結局、奴らの金は全部修理代になっちまったな。」
 レッドは言いながら夜空を(あお)いだ。
「黙って夜遊びしようとしたから、罰が当たったのかなあ・・・。」
 ギルもレッドも、そう言うわりには楽しんでおきながら・・・という目をリューイに向ける。
「それにしても妙な町だ。かたや死人のように生活している住民がいるかと思えば、その一方で、あんな浮かれたごろつきの(たま)り場があるとはな。」
 ギルが言った。

「妙な儀式はあるし。」と、リューイ。
「悪霊はいるし。」と、レッド。

 結局楽しむことができなかったせいで、三人はのんびりと帰り道を歩いていた。

 すると、突然リューイが立ち止ったのである。

「驚いた・・・俺にも見えるぜ。」

 いったい何が。ギルもレッドも、リューイの視線をたどってみた。

 一目瞭然(いちもくりょうぜん)

 古い凱旋門の下に、大勢の兵士たちがいる。馬の背にまたがり、剣や槍などを持ち、勇ましい姿で整然と、かつ(おごそ)かに行進している。だが、はっきりしていない。リューイが驚いてそう口にしたのは、だからだ。つまり、ぼうっと見えているそれらは、聞いたことくらいはある、恐らくあの・・・亡霊(ぼうれい)というもの。 

 そうと確信した次の瞬間、三人は一斉に目をみはった。それらが(とき)の声を叫ぶように腕を突き上げたかと思うや、馬腹を()りつけ、まっしぐらに向かってくるからだ。

「うあっ、こっちに来る!」

 リューイの叫びを合図に、思わずそろって駆けだした。透けているというのに迫力満点で押し寄せてくる。

「亡霊はでるし!」と、レッド。

 三人はとにかく、まだ明かりが点いている家を目指して疾走(しっそう)した。それからたどり着くなり、反応があるまで(せわ)しなくノッカーを叩き続ける。

 玄関が開いた。主人らしき男性が顔を出してくれたが、話はあとだ。(すべ)り込むようにして強引(ごういん)に入れてもらった三人は、バタンと玄関を閉めたあと、息を切らせて背中からドアにもたれた。

「ご、豪快な亡霊・・・。」
 (ひたい)の汗を拭いながら、ギルはドア越しに振り返る。

「あんたさんら、どうしたね。」
 住人の主人は、突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)に驚いている様子で立っていた。

「ああ失礼、突然お邪魔して。先ほどここを亡霊が・・・。」
 きかれるままに訳を話しだしたギルは、そこで口籠(くちご)もった。見たままを伝えて、果たして信じてもらえるのか。

「ああ、あれですか。いつものことですよ。お前さんたち、旅人かい。」

 ギルとレッドは絶句。意外で驚くべき返事が、平然と返ってきたのだ。

「いつもの・・・って、何とも思わないのか⁉」
 リューイもたまげてきき返した。

 すると急に顔を(くも)らせた主人は、重い声でこう答えたのである。
「まだマシですよ。怪物が暴れ回ることに比べれば。」と。

 その言葉を聞くなり、三人は思わず反応して血の気が引いた。

 この町の異様さといい、明らかにおかしいその様子といい、今度はギルがさらに問うと、主人はますます苦い面持ちになり、しかも病的に青ざめだしてたのである。

 気になる言葉も出てきたものの、それについて追及するのはやめた方がいいと感じたギルは、返事を待たずに話を終わらせた。姿勢を正して改めて()びを言い、恐る恐る玄関を開けてみる。もう豪快な亡霊たちはいなくなっていた。

 三人は再び大通りへ出た。そして気が()くままに帰路を急いだ。もうゆっくりなどしていられない。








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