井上明日香の日記～明日香さん！あなたは本当に松山さんを守れますか？～

　寮のキッチン。

　洋ちゃんの朝食と昼食の準備。蘭さんが手伝ってくれた。
　久しぶりに心ウキウキ。
　洋ちゃんのために食事つくるってほんとに楽しかった。
　でも洋ちゃんがわたしのお弁当食べるところ、見られないって、すごく悔しい。
　でも夕飯なら、洋ちゃんの部屋に持ってって、一緒に食べてもいいよね。

　わたしが蘭さんに相談したら、

　「今日、松山さんの部屋を尋ねていいって言った理由分かりますか？」
　「えっ。どういうことなの」
　「高城さんの反応、知りたい。そう思ったのです。
　高城さん。これからどうするか？
　わたしにもまだ分かりません。
　明日。また相談しましょう」

　蘭さん。深刻な顔してた。
　携帯を開いてなにか見ている。真剣な顔している。

　「明日香さん」

　蘭さんが声をかけてきた。

　「父から、警視庁本庁の特別会議の内容が来ました」
　「お父さん。台湾の公安幹部だったね」
　「日本の警視庁、台湾の公安と非公式にいろいろ相談してます。
　明日香さんに見せます」
　「そんな大事な会議のこと。わたしなんか見ちゃいけないでしよ」
　「構いません。父にはあとで話します」
　「ごめん。わたしが見たってしかたないって思うから・・・

　なんで警察の会議の資料なんてわたしに見せるっていうのか。
　わたし、さっぱり分からなかった。
　でも蘭さん、真剣な表情だった。

　「明日香さん。
　あなた、松山さんのこと好きですね」
　「もちろん。
　わたしの一番大事な子だから・・・」
　「本当に好きですか？」
　
　どうしてそんなこと聞くんだろう？
　急に蘭さんのこと、分からなくなった・・・
　でもわたしだって、ハッキリ答えるんだ。
　自分の気持ち。
　洋ちゃんにだって聞いて欲しい。

　「好き！」

　「じゃあ、松山さんのこと。
　ちゃんと守ってくれますか？」

　蘭さんがわたしの腕をつかんだ。

　「松山さん。早苗さんのこと、ずっと守ってきました。
　あのように体が小さく、弱い男の子が、明日香さんを何度も守りました」

　蘭さんがじっとわたしを見つめている。
　そう。わたしだってよく分かってることだった。
　わたしは、大きくうなずいて蘭さんを見た。

　「松山さんは三月に生まれた。明日香さんは四月生まれ。
　明日香さんが、松山さんより二歳も年上です。
　明日香さんは両親がいる。
　松山さんはひとりです。
　本当は・・・」

　その時、わたし、蘭さんが泣いていることに気がついた。

　「明日香さんが松山さんを守らなければいけません。
　明日香さんは分かりますか？」

　わたしはもう一度、うなずいた。
　蘭さんの涙が頬をつたってる。こんなにわたしたちのことを考えていてくれるんだ。
　わたし、蘭さんの気持ちが嬉しかった。

　「明日香さん。
　あなたは本当に・・・
　松山さんを守ろうと思ってますか」

　わたし、もう一度、大きくうなずいてみせた。
　そしてハッキリとわたしの思ってることを伝えた。

　「これからは、わたしが洋ちゃんを守ってみせる。
　きっと・・・」

　蘭さんはわたしの腕を離した。
　わたしにスマホの画面を見せた。

　「それなら警視庁の特別会議の記録。
　きちんと読んでください。
　いいですか？
　これは明日香さんと松山さんに関係あることなんです」