朝礼の罠・高城サキさん VS 井上明日香先輩
文字数 2,832文字
ぼくは暫定の謹慎処分になった。
出勤できない!
先輩にも会えない!
自分の部屋で、手紙を書いたりして過ごした。
蘭さんを通じて先輩に、
<絶対なにも言わないでください>
って伝えた。
一週間後の月曜日。
毎週、月曜の朝はホールで、全校生徒が一斉に集まり朝礼が行われる。
朝礼が終わりに近づいた頃。
ぼくは舞台の中央に立たされた。隣に高城さんと磯部先生が立った。
そして少し離れたところ。いつも通り、校長先生、教頭先生、教務主任、生徒会長の先輩が並んで座っている。
先輩、真っ青な顔。体が前後左右に揺れている。
ぼく、先輩のことが心配・・・
時々、高城さんが先輩の方に目を向けてる。
「王道女学園英語科生徒委員会より、補助職員の松山洋介さんの業務違反に関する処分について報告します」
高城さんがよく通る声で言った。
磯部先生はオロオロした様子。左右を見回していた。磯部先生は、本当にいい先生なんだ。
高城さん、ぼくの処分について全校生徒の前で詳しく説明した。
業務時間内に、スマホを使って生徒と私的な連絡をしていたこと。
だれとしていたか決して話さなかったこと。
半年間、給料を半分に減給すること。
いま、通っている通信制高校も退学させる。
ぼくは、ずっと下を向いて立っていた。
横目で高城さんたちの方を見る。
高城さん、自信に満ちた態度。
磯部先生はずっと下を向いてる。改めて磯部先生に申し訳なく思った。
高城さんの声が一段と高くなった。
先輩、手で顔を覆ってる。
だめです。そんな態度・・・
「英語科生徒委員委員長としてたいへん残念に思ってることがあります。
それは連絡した相手が、当校の生徒に間違いないということです。
松山さんは、補助職員ですが、教員に準ずる待遇です。
放課後とはいえ、生徒が補助職員とスマホで私的なやりとりをすることは、ぜったいに許されません。
私的なやりとりだったことは、松山さんが、メツセージがだれから来たのか、どんな内容だったか決して話さないことで明白です。
明白な校則違反。王道女学園生徒にあるまじき行為です」
高城さんが声を大きくした。生徒の間から大声。
「そうだ!」
「だれなの!」
「前に出てよ」
まちがいない。王道女学園振興会のメンバーだ。
「さらに問題なことがあります。
松山さんは、生徒をかばってなにも話さず、自分ひとりだけで処分を受けようとしています。
補助職員とスマホで私的なやりとりをした生徒は、いさぎよく名乗り出ないばかりか、松山さんひとりに処分を着せて自分は涼しい顔をしているのです。
松山さんの業務違反行為については校内に掲示されています。
知らないはずがありません。
松山さんがどういう処分を受けようが、自分は関係ない。給料が減って食事ができなくても関係ない。
松山さんが勉強を続けられなくても、自分が無事に優等生として当校を卒業できればいい。
そう考えている生徒が、この中にいるんです。
みなさんは悲しいと思いませんか?
このような人間性を疑われる生徒が当校にいるという事実。
この学校の生徒としても大変残念に思ってます。」
ぼく、先輩が心配になって横目で見た。
目が真っ赤。ハンカチを口にあてて嗚咽している。
他の生徒たち!この様子に気づいてないだろうか?
気が気でない。
「そうだ。ひどい!」
「連絡してた生徒は名乗り出なさい!」
「卑怯者!」
「学校にいる資格なんてない!」
生徒の間から大声!
「自分だけがよければいいの?」
「悪魔!」
先輩ったら肩震わせてる。
このままだと倒れる。
早く高城さんの話が終わって欲しい。
でも高城さん、話を長引かせ、先輩の息の根を止めるつもりだ。
「松山さんひとりを処分させて喜んでいる生徒に、いま、ここで申し上げます。
あなたは王道女学園の敵です。
生徒全員の敵です。そして・・・」
高城さんが先輩の方に顔を向ける。
「あなたは、松山さんの敵です」
先輩、弾かれたように立ちあがった。
口を開こうとしている。
まずい!先輩が!
ぼくの心に、先輩とのいろいろな思い出がよみがえった。
先輩がぼくをかばっていじめっこを叱りつけてくれたこと。
手をつないで学校に通ったこと。
一緒にスキーをしたこと。
転んで泣いている時、先輩がおんぶして病院に連れてってくれたこと。
誕生日にケーキを分け合って食べたこと。
プレゼント交換したこと。
思い出がひとつひとつよみがえる。
ぼくの目から大粒の涙。
一番大好きで、一番大切な先輩。
ぼくのことを一番大切に思ってくれている先輩。
先輩のことは・・・
ぼくが・・・
そう・・・
ぼくが守らなきゃならないんだ・・・
もし死ななきゃ守れないなら・・・
そうだ・・・
死ぬんだ・・・
たとえ死んだって、ぼくの大切な先輩は生き続けるんだ。
ぼくは、先輩が生き続ける限り、先輩の心の中で、先輩と一緒に生きることができるはずなんだ。
その場にひざまずいた。
ざわめきが聞こえる。
できる限りの大声で叫んだ。
「みなさん」
ホールの生徒や先生が、全員、ぼくの方を見ている。
「すみませんでした。本当にすみませんでした!」
先輩を横目で見た。
最後に見た。
勇気が出た。
死ぬんだ!
自分の額を・・・
思いっきり床に叩きつけて・・・
先輩の笑顔が見えた。
一緒に手をつないでた。
なにか話してた。
痛くない!痛くなんかないんだ・・・
まだ生きてる・・・
今度こそ・・・
先輩が国会でなにか演説している・・・
りりしいスーツ姿で・・・
きっと見るんだ・・・
天の上から・・・
痛くない!痛くなんかないんだ・・・
まだ生きてる・・・
今度こそ・・・
なんだろう・・・
悲鳴だろうか・・・
なにか聞こえる・・・
どうして死ねないんだろう・・・
先輩!
先輩!
きっと成功してください・・・
なんだろう・・・これ・・・
血の臭い?
悲鳴が聞こえる・・・
大きい・・・
これでいいんだ・・・
だれも先輩の様子、気づいてない。
これで最後だ・・・
今度こそ・・・
急に・・・
強く・・・
抱きしめられた・・・
頬ずり・・・
だれなの
だれ・・・
先輩?
高城さんの顔・・・
なんで悲しそうな顔してるの・・・
望んだことじゃないんですか・・・
早智子さんが後ろに・・・
「バカッ」
高城さんの声。
「バカッ!バカッ!」
高城さんの顔が血で染まってる・・・
ぼくの血?
「早く病院。学校の診療所じゃない!帝国大学病院!パパの名前を出して!
早く!」
高城さんにずっと抱きしめられてる・・・
嘘・・・でしょ・・・
「わたしが助けました!」
高城さんの声が震えてる。
「松山くんを見殺しにして・・・
平気でいる人が・・・
中にいます」
ぼくは見た・・・
先輩がフラフラッて倒れるのを・・・
それっきりなにも見えなかった・・・
これで死ねるんだろうか?
出勤できない!
先輩にも会えない!
自分の部屋で、手紙を書いたりして過ごした。
蘭さんを通じて先輩に、
<絶対なにも言わないでください>
って伝えた。
一週間後の月曜日。
毎週、月曜の朝はホールで、全校生徒が一斉に集まり朝礼が行われる。
朝礼が終わりに近づいた頃。
ぼくは舞台の中央に立たされた。隣に高城さんと磯部先生が立った。
そして少し離れたところ。いつも通り、校長先生、教頭先生、教務主任、生徒会長の先輩が並んで座っている。
先輩、真っ青な顔。体が前後左右に揺れている。
ぼく、先輩のことが心配・・・
時々、高城さんが先輩の方に目を向けてる。
「王道女学園英語科生徒委員会より、補助職員の松山洋介さんの業務違反に関する処分について報告します」
高城さんがよく通る声で言った。
磯部先生はオロオロした様子。左右を見回していた。磯部先生は、本当にいい先生なんだ。
高城さん、ぼくの処分について全校生徒の前で詳しく説明した。
業務時間内に、スマホを使って生徒と私的な連絡をしていたこと。
だれとしていたか決して話さなかったこと。
半年間、給料を半分に減給すること。
いま、通っている通信制高校も退学させる。
ぼくは、ずっと下を向いて立っていた。
横目で高城さんたちの方を見る。
高城さん、自信に満ちた態度。
磯部先生はずっと下を向いてる。改めて磯部先生に申し訳なく思った。
高城さんの声が一段と高くなった。
先輩、手で顔を覆ってる。
だめです。そんな態度・・・
「英語科生徒委員委員長としてたいへん残念に思ってることがあります。
それは連絡した相手が、当校の生徒に間違いないということです。
松山さんは、補助職員ですが、教員に準ずる待遇です。
放課後とはいえ、生徒が補助職員とスマホで私的なやりとりをすることは、ぜったいに許されません。
私的なやりとりだったことは、松山さんが、メツセージがだれから来たのか、どんな内容だったか決して話さないことで明白です。
明白な校則違反。王道女学園生徒にあるまじき行為です」
高城さんが声を大きくした。生徒の間から大声。
「そうだ!」
「だれなの!」
「前に出てよ」
まちがいない。王道女学園振興会のメンバーだ。
「さらに問題なことがあります。
松山さんは、生徒をかばってなにも話さず、自分ひとりだけで処分を受けようとしています。
補助職員とスマホで私的なやりとりをした生徒は、いさぎよく名乗り出ないばかりか、松山さんひとりに処分を着せて自分は涼しい顔をしているのです。
松山さんの業務違反行為については校内に掲示されています。
知らないはずがありません。
松山さんがどういう処分を受けようが、自分は関係ない。給料が減って食事ができなくても関係ない。
松山さんが勉強を続けられなくても、自分が無事に優等生として当校を卒業できればいい。
そう考えている生徒が、この中にいるんです。
みなさんは悲しいと思いませんか?
このような人間性を疑われる生徒が当校にいるという事実。
この学校の生徒としても大変残念に思ってます。」
ぼく、先輩が心配になって横目で見た。
目が真っ赤。ハンカチを口にあてて嗚咽している。
他の生徒たち!この様子に気づいてないだろうか?
気が気でない。
「そうだ。ひどい!」
「連絡してた生徒は名乗り出なさい!」
「卑怯者!」
「学校にいる資格なんてない!」
生徒の間から大声!
「自分だけがよければいいの?」
「悪魔!」
先輩ったら肩震わせてる。
このままだと倒れる。
早く高城さんの話が終わって欲しい。
でも高城さん、話を長引かせ、先輩の息の根を止めるつもりだ。
「松山さんひとりを処分させて喜んでいる生徒に、いま、ここで申し上げます。
あなたは王道女学園の敵です。
生徒全員の敵です。そして・・・」
高城さんが先輩の方に顔を向ける。
「あなたは、松山さんの敵です」
先輩、弾かれたように立ちあがった。
口を開こうとしている。
まずい!先輩が!
ぼくの心に、先輩とのいろいろな思い出がよみがえった。
先輩がぼくをかばっていじめっこを叱りつけてくれたこと。
手をつないで学校に通ったこと。
一緒にスキーをしたこと。
転んで泣いている時、先輩がおんぶして病院に連れてってくれたこと。
誕生日にケーキを分け合って食べたこと。
プレゼント交換したこと。
思い出がひとつひとつよみがえる。
ぼくの目から大粒の涙。
一番大好きで、一番大切な先輩。
ぼくのことを一番大切に思ってくれている先輩。
先輩のことは・・・
ぼくが・・・
そう・・・
ぼくが守らなきゃならないんだ・・・
もし死ななきゃ守れないなら・・・
そうだ・・・
死ぬんだ・・・
たとえ死んだって、ぼくの大切な先輩は生き続けるんだ。
ぼくは、先輩が生き続ける限り、先輩の心の中で、先輩と一緒に生きることができるはずなんだ。
その場にひざまずいた。
ざわめきが聞こえる。
できる限りの大声で叫んだ。
「みなさん」
ホールの生徒や先生が、全員、ぼくの方を見ている。
「すみませんでした。本当にすみませんでした!」
先輩を横目で見た。
最後に見た。
勇気が出た。
死ぬんだ!
自分の額を・・・
思いっきり床に叩きつけて・・・
先輩の笑顔が見えた。
一緒に手をつないでた。
なにか話してた。
痛くない!痛くなんかないんだ・・・
まだ生きてる・・・
今度こそ・・・
先輩が国会でなにか演説している・・・
りりしいスーツ姿で・・・
きっと見るんだ・・・
天の上から・・・
痛くない!痛くなんかないんだ・・・
まだ生きてる・・・
今度こそ・・・
なんだろう・・・
悲鳴だろうか・・・
なにか聞こえる・・・
どうして死ねないんだろう・・・
先輩!
先輩!
きっと成功してください・・・
なんだろう・・・これ・・・
血の臭い?
悲鳴が聞こえる・・・
大きい・・・
これでいいんだ・・・
だれも先輩の様子、気づいてない。
これで最後だ・・・
今度こそ・・・
急に・・・
強く・・・
抱きしめられた・・・
頬ずり・・・
だれなの
だれ・・・
先輩?
高城さんの顔・・・
なんで悲しそうな顔してるの・・・
望んだことじゃないんですか・・・
早智子さんが後ろに・・・
「バカッ」
高城さんの声。
「バカッ!バカッ!」
高城さんの顔が血で染まってる・・・
ぼくの血?
「早く病院。学校の診療所じゃない!帝国大学病院!パパの名前を出して!
早く!」
高城さんにずっと抱きしめられてる・・・
嘘・・・でしょ・・・
「わたしが助けました!」
高城さんの声が震えてる。
「松山くんを見殺しにして・・・
平気でいる人が・・・
中にいます」
ぼくは見た・・・
先輩がフラフラッて倒れるのを・・・
それっきりなにも見えなかった・・・
これで死ねるんだろうか?