喜んで怒った蘭美莉さん

文字数 1,136文字

  
 高城さんと家を出た。
 ドアの前に早智子さんが立っていた。ブレザーの制服。
 ぼく、あわてて頭を下げた。

 「進藤さん。こんにちは」

 早智子さん、ぼくの顏見て、小さく微笑んだ。

 「体、大丈夫?」

 ずっとぼくの顏見てた。

 「はい」

 早智子さん、また小さく笑った。
 後ろから高城さんの声がした。

 「早智子。話がある。
 松山君。車で待ってて」

 少し離れた所に見覚えある高城さんの車。後部座席に座る。
 ふたりは、ドアの前でなにか話をしていた。
 まもなくふたり、なにか話しながら車に来た。

 「早智子が前に座って」

 ぼく、高城さんは、後ろで肩を並べた。

 「覚えておいて。
 君の大怪我の件。
 学校にはこう報告した。
 生徒のひとりが、夜間、勝手に学校を出て街で遊び歩いていた。
 そのうち、不良グループに襲われてさらわれそうになった。
 松山君は、英語科生徒委員長のわたしの用事で一緒に外に出ていた。
 偶然、この様子を見て助けに入って重傷を負った。 
 犯人グループは行方不明。
 助けられた生徒は松山君に知らん顔で逃げ出した。
 わたしが松山君を病院に連れて行った。
 警察に届ければ、伝統ある王道女学園での不祥事が明らかになるため、秘密にした。
 学校のルールを破った悪質な生徒については、松山君が

 『知らない』

って言ってるから不明。  
 それが表の真実。
 君だってよけいなこと言う必要ない」

 さっさと逃げ出した生徒・・・・・・
 高城さん。
 以前、ぼくがスマホでやりとりをした相手だろうつて報告してるかも・・・
 高城さん、なにも言わずに前を見てる。
 
 車は学校に到着。
 高城さんがぼくの手を握り、部屋まで連れてってくれた。

 「明日は部屋でゆっくり休んで。
 明後日から出勤すればいいから・・・」

 高城さんはそう言って部屋を出た。
 窓の外は夕方の空。
 なんだかいろいろあった日・・・
 早いけど、布団を敷いて眠ろうって思った。
 その時だった。
 ドアがすっと開いた。

 「松山さん」
 
 嬉しそうな声。
  
 「蘭さん。こんにちは。
 いろいろお世話になりました」
 「高城さんに言われました。パンと牛乳持ってきました」 

 蘭美莉さんが部屋にあがった。出来たてパンの店で買ったカレーパンやアンパン、ツナロールなどの入った袋を差し出した。
 蘭さん。ニコニコ笑ってた。
 でもすぐ真面目な顔になった。

 「松山さん。目を閉じて」
 「えっ」

 なにをさせたいのか分からない。
 でも言われた通り、目を閉じた。
 時間が止まる。
 頬を軽く叩く音。
 なんだか心地よい。
 目を開ける。
 蘭さんがぼくをにらんでる。
 目に涙。

 「あんなこと、話してはいけません。

 『現実でハッピーエンドでなくていい。』

 ぜったいだめです。
 わかりましたか」
 

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登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

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