高城さんはなにも言わずに背を向けた・・・

文字数 538文字

 公団出版の人が土下座をしてるそば。
 早智子さんが、高城さんになにか話しかけている。
 高城さんがぼくの方を見る。
 高城さんの目から、悪意も敵意も殺意も消えた。優しい姉のような慈愛に満ちた目。口元に親しげな笑み。
 悪魔がつかのまに見せてくれた愛情。
 一瞬の後、高城さんの目は悪魔に戻った。
 でもぼく、忘れたりなんかしない。一瞬の高城さんの目。

 「おじさんたち」

 高城さんが冷たく、甲良さん、大賀さんを見下ろしてた。

 「わたしの言ったこと、ちゃんと社長さんに伝えてください。
 今度、来た時、また

 『一億』

って繰り返したら、本社にクレーム入れますよ。
 認知症の見苦しい男がふたり来て、心に深い傷を負ったって・・・」

 高城さんに心を残しながら、歩き始める。

 「松山君!」

 ぼくを呼ぶ声。
 振り返る。
 高城さんと早智子さん・・・
 高城さんがなにか、ぼくに投げた。
 宙に円を描きながら、ぼくの手元に落ちて来る。
 手の中にポッキーチョコレートが一箱。
 お礼を言おうってしたら、もう高城さん、いなかった。
 早智子さんまで・・・
 高城さんは見えなくなった。
 でもぼくの心には見えていた。
 そして現実の肉体を持って、もう一度、ぼくの前に現われることになった。
 それがすべての始まりだったんだ・・・

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登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

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