高城さんの勝利の笑みがこわい・・・

文字数 2,660文字

 ぼくの前に現われた高城さん!
 無表情にぼくに話しかける。
 ぼく、体中から冷や汗。
 先輩がぼくの手首をつかんだ時、まわりにだれもいなかった。
 どうしてここにいるって、すぐ分ったんだろう?
 本当に恐ろしい女性(ひと)だ。

 「学食に行かず、なにしてるの?だれかに会ってたの?」

 高城さんは相変わらず無表情で冷静。でも高城さん、なにもかも知ってるはずなんだ。

 「つ、疲れてたんで休んでました」

 しらじらしい嘘。りりしくてかっこいい女性(ひと)はお見通しのはず。
 でも追求なんてしてこない。

 「可哀想に。『王道女学園振興会』の部室に来て。
 ソファを新しく用意するし、君のためにお菓子も準備しとくね。飲み物はなにがいい?
 これなんかどう?」

 高城さんは、500mlのペットボトルのオレンジジュースをぼくにくれた。
 ぼく、頭を下げて受け取る。

 「でもここに来るのはやめようね。一応、立ち入り禁止だから・・・」

 高城さんはポッキーチョコレートを音を立ててかじった。

 「ところで、君、お節介で無能な生徒会長、どこにいるか知らない?」

 ぼくの前で、ひどい言い方をした。反論したら、後の災いの方が怖い。
 それにしても高城さん、なんでこんなこと言うのかしら。
 一緒にいたことくらいお見通しのはず・・・

 「わ、分りません」
 「用事があってさ。生徒会室にもいない。学食にも姿が見えない。
 もしかしたら寮じゃないかって、いま、『王道女学園振興会』のメンバー全員で向かってるの」

 頭を殴られたような衝撃。本当になにもかもお見通しなんだ。
 ぼくがおなかを空かしているといえば、先輩は必ずぼくに会う。
 食事を用意するため、寮に向かうだろうって!
 現場を押さえて校則違反を指摘したら、先輩だって弁解のしようがない。

 「でもあの生徒会長、IQは間違いなく低いけど、校則ぐらい知ってると思うけど。
 松山君、どう思う」

 高城さん、ぼくの足元に落ちている学食のカードを拾い上げる。
 ぼくにカードを見せつけて、口に笑い。

 「ごめんね。このカード、使えないの」

 高城さんが割れたカードの裏面を見せた。

 <発行年月日・4月1日(エイプリールフール)>

 そ、そんな・・・どうしてすぐに気がつかなかったんだろう。

 「構わないよね。お節介で無能な生徒会長が、なにするかくらい、こちらはお見通しだったから・・・
 でもこのカードさ、ほかの使い方ができるんだ。
 小さなボタンが埋め込まれててね。カードがいま、どこにあるか、すぐ分るようになってる。
 GPSも真っ青って訳。
 どう?すごいでしょ」

 ギブアップ気分。
 これから寮で繰り広げられる最悪の光景・・・
 高城さんが先輩の前に立ちはだかって勝利の笑み。そのそばには先生方の姿。

 「校則を知ってるでしょう。ここでなにしてたんです?
 答えてください。生徒会長!」

 先輩、ぼくに届けようとした弁当を手に、悲しそうに立ち尽くしてる・・・
 ダメ。絶対、そんなのイヤだ!
 ぼくにできることって、高城さんの慈悲にすがるだけ・・・

 「ごめんなさい」

 高城さんの前にひざまずき、頭を床にこすりつけた。

 「やめなさいよ。君、なんにも悪いことしてないよ。悪い人間はほかにいるの。
 君を踏み台にしてのうのうと暮らしてる、
 今度こそ、息の根を止めてやるから」 

 高城さんがポッキーチョコレートをかじる音が聞こえる。ぼく、大声で叫んだ。

 「お願いです。助けてください」

 ぼくの目からまた涙・・・
 せっかく先輩と久しぶりに会ったのに・・・
 でも高城さんって冷酷。

 「だめ。君の頼みでも」

 そう言ってぼくの手を握る。

 「そんな真似は止めて。立って」

 高城さん、ぼくの手を引っ張って立たせてた。

 「わたしたち、フツーの関係じゃないんだよ。
 そんな姿見たくない」
 じゃあ、寮に行ってくるから」

 高城さんが歩き出す。

 「なんでもします!」

 高城さんに頭を下げた。

 「お願いです。助けてください」

 高城さん、またポッキーチョコレートを口にくわえた。

 「なんでもするの?」

 音をたててかじる。その音が、なんだか恐ろしかった。

 「はい」

 高城さんが肩をすくめる。

 「取りあえず、そのドリンクを飲んで」

 ペットボトルのフタを開けて一口、飲んだ。
 突然だった。激しい嫌悪感!手足に電気が流れたみたい!
 頭にグワーングワーンと大きな鐘の音色。
 ぼくは立ってられなかった。
 次の瞬間!
 床に倒れてた。
 手足がけいれんしてる。

 「ごめんね。君を巻き込みたくなかったから」

 高城さんの声が聞こえた。隣の部屋から話すようなボンヤリとした音声。

 「君ね。わたしの気持ち知らないんだよ!」

 高城さんの口調が変わった。いままで聞いたことないイライラしたような様子。

 「この前の時だって、あの女が、

 『ぜんぶ、自分が悪いんです』

と申し出て万事解決するはずだった。 
 でも君が、あの女をかばって、

 『絶対になにも言わないように』

って言い聞かせてた」

 高城さんの声って、どこか悲しそうだった。
 違う!気のせいなんだ。

 「君に朝礼で、あんな恥をかかせるつもりなんてなかった。
 あの時のわたしの気持ち。君、分らないでしょ」

 高城さん、床でのたうち回ってるぼくを見下ろしてる。 

 「ごめん。しばらくそうしていて。だんだんと元に戻るから。
 今夜は豪華なディナーに招待するね!
 君をひどい目に合わせる邪魔者はいなくなるから、
 明日からフランス料理でもイタリア料理でも好きなとこ連れてってあげる。
 じゃあね」

 高城さんの靴音が遠ざかった。
 ぼくの手足、まだブルブル震えている。
 頭だけじゃない。
 胸も締めつけられるような激痛!
 動けない。体が動かせない。
 高城さんはもう寮に着いたんだろうか?
 先輩は?
 だめ・・・目がかすれてきた。
 真っ暗だ。
 だんだん意識が消えていくのが分る。
 もうどうにもならないんだろうか?
 その時だった。
 ぼくの耳に、子守唄のようにやさしい声・・・

 「洋ちゃん」

 先輩の声だった。ハッキリ聞こえる。幻なんかじゃない・・・

 「洋ちゃんは、一緒に住んでないけど家族みたいなの。
 だから友だちといたって、最後は洋ちゃんのところに来るの。
 わたし、洋ちゃんと本当の家族になりたい。
 どんなことがあったって・・・ぜったいに忘れないようにしようね。」

 真っ暗なんかじゃない。
 ちゃんと見える。先輩の姿が!
 先輩が待ってるんだ。
 行くんだ。
 歩けなければ這ってでも行くんだ。
 先輩は、明日香先輩は、ぼくが守るんだ・・・
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登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

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