高城さんは面倒がキライだからムッシュー・鈴木を助けない・・・

文字数 3,014文字

 ムッシュー・鈴木の拳銃がふっ飛んだ!
 高城さんの手には拳銃!
 ムッシュー・鈴木の驚いた顔!
 大きな音!
 床の上。
 ムッシュー・鈴木の拳銃が転がる!
 ムッシュー・鈴木鈴木が手を伸ばす。
 銃声!
 ムッシユー・鈴木の拳銃がもっと遠くへ転がる!
 ムッシュー・鈴木のあわてた顔!
 ムッシュー・鈴木が走る!
 手を伸ばす。
 銃声!
 ムッシュー・鈴木の拳銃が宙を舞った。
 そのまま、高城さんの左手におさまる。
 もういまは、高城さんの拳銃になった・・・
 ムッシュー・鈴木が後ずさり。
 高城さんがふたつの拳銃を構える。
 高城さんがムッシュー・鈴木を見る。
 軽蔑のまなざし・・・
 銃口も鈴木をとらえる。
 感情なんてない・・・
 
 高城さんの拳銃の銃口が、ゆっくりと鈴木に向けられた。

 「おい!なにするつもりだ」

 鈴木の大声。すぐに恐怖の叫びに変わる。

 「ムッシュー・鈴木。わたしの使ってる拳銃教えてあげる。
 スーパートカレフ・MW・STARTSU。
 おじさん。やっぱりIQ低いんだね。
 おじさんのトカレフ・Xノベルズは二百万で買えるけど、スーパートカレフ・MW・STARTTS1は五百万。
 トカレフ・Xノベルズは連続撃ちすると銃身がムチャクチャ熱くなり、弾の出るのが遅くなる。安定も悪くなる。
 地下社会では相手にされなくなり、返品の山。ダンピングにつぐダンピングで、いまでは百万以下で買える。
 スーパートカレフ・MW・STARTTS1は五百万用意したってすぐには買えない。
 基本、高い方が性能いいに決まってるでしょ。
 基本、ケチな大人に未来はないわけ。」
 「てめえ!こんなマネして、ただで済むと思うか!」

 高城さんは拳銃を構えたまま・・・

 「ムッシュー鈴木。
 わたしのもうひとつのビジネスを教えてあげる。
 殺し屋。
 地下社会の人間を専門にしてるの。
 相手も女子高生だから油断してるし、だれにも疑われることもない。
 警察もどうせ内部抗争だろうって、一般人の事件ほどはしっかり調べないから。
 万一の時もね。
 知ってるでしょう。
 基本、わたし、未成年なんだ。
 殺すと脅され無理やりピストル持たされてたって泣きながら訴えればいいじゃん。
 それじゃあ済まない時はさ。
 受験勉強に悩んでたとか。
 クラスでの人間関係に悩んでたとか。
 メンタルに苦しんでたって言うのも効果的。
 お構いなしって訳・・・
 マヌケな大人たちが作った『少年少女のための人権団体』やら、ヒマでお節介なジジイやババアたちの『ボランティア団体』もたくさんあるし助けてくれる人たちには困らないから・・・
 IQの低いおじさん。わかった?」

 酒瓶が床に落ちた。お酒特有の香り。
 ムッシュー・鈴木の顔に恐怖が浮かぶ。

 「IQの低いおじさん。
 おじさんやりすぎたんだって・・・
 早智子が調べてくれたの。そうね!サッチー」

 早智子さんが大きくうなずく。右手に、何枚かのSDカード。

 「サッチー。お手柄」

 高城さんが声をかける。

 「IQの低いおじさん。
 だめじゃん。
 高会長から預かったお金さ。ポケットに入れて、わたしたちにちょっとしか渡さなかったでしょ。
 会長さあ。ご立腹。
 五十億、百億、平気で懐に入れる人間なら、まだ見どころがあるが、一億、二億で喜んでる人間は小物だ。
 小物ならいくらでもいるってね」

 女性を平気で殺し、痛めつけ、大声で怒鳴り散らす鈴木。
 いまはもうなにもしゃべらない。
 真っ青な顔でブルブル震えてた。
 高城さんの目・・・
 蛇のように暗く冷たく光った。

 「教えてあげる。IQの低いおじさん。
 賢い人間ってね」

 高城さんはポッキーチョコレートをくわえた。

 「基本。負けるケンカはしないってわけ」

 高城さんが引き金に手をかけた。

 「や、やめてくれ。助けてくれ」

 弱い者を大声で罵っていた鈴木の叫び。
 いまでは助けを求める悲痛な叫びと変わった。
 その場に土下座。

 「メ、メ、メンタルで苦しんでたんです。
 だ、だから、こ、こんなだいそれたことを・・・
 神経性食欲不振で、食事も、酒も、SEXも、みんなダメになってしまったんです。
 そ、そうだ。発達障害に、パニック障害、自律神経失調症も併発して、自分がなにしてるか分からなくなったんです。
 本当です!
 身体障碍者手帳に特定疾患手帳持ってます。要介護二級です。
 し、社会的弱者なんです。
 な、ななななななな、仲よくしてください。
 友だちになりましょう。
 共生の時代です」

 ムッシュー・鈴木の正体が分かった。
 たくさんの人たちが苦しんでいる病気。その人たちにとっては耐えられないくらいの苦しみ。
 それを持ち出して、自分だけ助かろうってする心の歪んだ卑怯な人間だったんだ。
 
 「みんな差し上げますから!」

 ポケットからミニバッグを取り出す。さかさにしたらたくさんのカードが落ちた。

 「い、いくらでも使ってください」

 カードに混じって・・・
 別のものが・・・
 本当に・・・
 なんてひどい男なんだろう・・・

 「こ、これはですね。
 コペンハーゲン製のコンドームなんです。
 むちゃくちゃ高いんです。
 五十ダース持ってます。
 て、転売したらすごい金になりますから・・・
 あ、amazon見てください。
 むっちゃくちゃ高いです。
 使用者の声。
 これさえあればエイズなんてこわくない!
 使用感抜群!な、生と一緒なのに!
 安心安全!non children!
 ぜ、ぜんぶ、ここに届けますから!
 助けてください!」

 卑怯な人、ムッシュー・鈴木は叫ぶ。
 でも高城さんはしゃべらない。

 ゆっくり・・・
 ゆっくり・・・
 引き金を・・・
 
 そしてやっと口を開く。

 「クレジットカードは、使うから。
 でもさ。
 IQの低い可哀そうなおじさんはね。
 助けてあげない。
 メンドーだもん」

 高城さんはニッコリ笑った。
 心は笑ってなかったって思う。

 「おじさんはね。
 もうすぐ死んじゃうんだよ」
 
 ムッシュー・鈴木が泣叫ぶ。

 「助けてーーー!
 人殺しーーー!
 だ、だれか110番してくださーーーーい」

 高城さんに背を向ける。
 走り出す。
 引き金が引かれる。
 銃声!
 ムッシュー・鈴木の悲鳴。
 鈴木が高城さんの方を向く。
 両手を差し出す。
 拝むかっこう。
 泣いていた。
 涙をポロポロ流してた・・・
 泣き声が銃声で消された。
 ムッシュー・鈴木の口から・・・
 飲んだばかりの酒が噴き出した!
 回りの床に飛び散った。
 血が混じってた。
 仰向けに倒れた。
 目を開けてた。
 だけど動かなかった。
 ムッシュー・鈴木は死んだ。
 死んだけど、涙はまだ出ていた。
 そばで宇野が泣いていた。
 苦しげで悲しげだった。
 いまにも消えそうな声。
 高城さんは宇野のそばによった。
 気持ち悪そうに、宇野の姿を見た。
 もう一度、引き金を引いた。
 大量の血しぶきが飛んだ。
 そばにいたメンバーに血しぶきがかかった。
 あちこちで悲鳴。
 高城さんには一滴もかかってない。
 高城さんは後ろを向くと、メンバーに声をかけた。

 「あんたたち、運動神経悪いじゃない。
 JKカンパニーの経営するスポーツセンターに通いなさい」 

 高城さんは拳銃を自分の胸に押し当てた。早智子さんの顔を見るとつまらなそうに言った。

 「IQの低かったおじさんとうすのろの大男、早くかたづけて。
 変な顔してて吐き気がするし・・・
 後は高会長がうまく処理してくれる」
 
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登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

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