ぼくは高城さんに挑戦する!

文字数 3,846文字

 目隠しをされて連れてこられた高城さんの会社。
 二度目の訪問だった。
 目隠しを取られると・・・
 大広間くらいの大きさの部屋。
 いきなりぼくの目に、悲惨な光景。
 十人の女性が手錠をはめられたうえ、足首にも重石をつけられて大声で泣いていた。
 二十代から三十代。美しい女性ばかり・・・
 高城さんの会社からお金を借りて返せなくなり、「人材派遣会社入社」の名目で遠くへ連れて行かれるんだ。
 部屋には薄い毛布が積まれているだけ。ほかにはなにもない。
 赤いブレザーの制服を着たJKカンパニーの五人がそばに立っている。高城さんに気がつくと、頭を下げた。
 その中に早智子さんの姿があった。
 ぼくが一礼すると、下を向いた。
 ぼくの隣に高城さん。
 迷彩服のブラウスにミニスカート、ハイソックスのファッション。
 胸を張って自信に満ちた態度。
 ぼくにはまぶしい。
 ぼくはあたりを見回す。

 ぼくの一番大切な女性(ひと)・・・

 部屋の隅にぼくの大好きな先輩はいた・・・
 後ろ手に縛られ、胸にもロープを回されていた。
 そのまま毛布の上で眠っていた。
 ぼく、涙がこぼれた。
 先輩って安らかな寝顔だった。
 それだけがぼくにとっての救いだった。

 「強い睡眠薬を何度か飲ませたの。
 起きたら、君に会わせろって騒ぐだろうから」

 高城さんはつまらなそうに言った。

 「洋ちゃん」

 先輩が話しかけてきた。
 目を閉じたまま、微笑んで・・・
 久しぶりだった。
 お姉さんのように、やさしくあたたかい響きだった。
 
 「一緒に行こうね・・・一緒にファミリーランドに・・・」

 小学校、中学校・・・
 ふたりでよく行った遊園地・・・
 先輩が時刻表を調べて・・・
 ぼくの手を引っ張って列車に乗って・・・
 ぼくの手を引っ張って切符を買って・・・
 一緒に乗り物に乗って・・・
 先輩がポテトやポップコーン、フランクフルトを買ってきて・・・
 一緒に食事をして・・・

 「オム焼きソバ買うからね・・・」

 ぼくが一番好きだったメニュー!
 いまでも覚えていてくれた。

 こぼれる涙が、すぐに洪水になった。
 手でぬぐったって止まらない。

 「残念ね。彼女、ひとりで行くんだよ。
 君はいないの」

 高城さんが笑った。

 「先輩と一緒にファミリーランドに行きます」


 そう答えた。
 涙は流れたままだった。

 「ローカルのゴミ遊園地でしょ。
 TDLに連れてってあげるから・・・
 本場のロスでもいいよ」

 高城さんがぼくの腕をつかんだ。

 「先輩と一緒にファミリーランドに行くんです」
 「彼女、遠くへ行っちゃうじゃない」
 
 高城さん、責めるようにぼくを見る。 

 「やめてください」

 高城さんに声をかける。
 小さな声だった。
 高城さんが笑う。ぼくの顔見て・・・

 「契約だもん」
 「全員、帰してあげてください」
 「だめ!」

 高城さんがぼくの肩を叩く。

 「ごめんね。
 でもこれが一番いいことなんだよ」
 
 その時、ドアが乱暴に開いた。
 ムッシュー鈴木と宇野のふたりだった。

 「受け取りに来たぞ!」

 ムッシュー鈴木は叫ぶ。酒のビンをガブガブ飲みだした。
 ぼくに気がつく。目をむいて怒鳴った。

 「な、なんだよ!このガキ?」

 濁った目がぼくをにらむ。

 「あなたに関係ないし、話す気もないから」

 高城さんが答える。
 ムッシュー鈴木が今度は高城さんをにらみつける。
 高城さんは知らん顔。

 「また約束の時間より早く来ましたね」 
 「う、うるせえな。アタマは俺だ」

 ムッシュー・鈴木の不機嫌な声。
 連れて行かれる女性たちをひとりひとり見ている。気味の悪い目つき。
 最後に先輩を見つけた。
 ニタニタと笑い始める。

 「JKだ。しかもこの制服。王道女学園だ。女子校じゃないか!」
 
 ムッシュー・鈴木の気持ちの悪い笑が止まらない。

 「女子校だ!天使の花園だ!
 ♪女子校の前で朝起きたら・・・♪♪♪
 ♪ち、ちがうところも起きた~~~~~~♪
 ケーヘヘヘヘヘ。ケーヘヘヘ!
 お、おい!宇野!」

 ムッシュー・鈴木が酒の瓶を掲げる。

 「み、見ろよ。
 こ、この酒はなーーーーー!
 ツテン王国のイポン平原のマカが三百ml!
 そ、そうだ!三百ml入ってるんだ。
 バイアグラ二百ml。
 中国の毒蛇エキスが百ml!
 お、男の元気が立ち上がる!
 へへへへへへへ!
 十発確定!全員二発ずつだ!
 じ、JKはな~~~~~~
 ち、チェリーガールかどうか確かめたらな。ラストの突っ込み以外はみーんなやるからな!
 女子校だ~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ハーハハハハハ」

 女の人たちが泣き叫んでいる。
 なんてひどい男なんだ・・・
 ぼく、どうにもできないんだろうか?
 先輩だけじゃない。
 ほかの人たちをなんとかして助けたい。
 ムリなんだろうか? 
 
 「宇野!まずエンコーじゃなかった女子校からだ!」

 
 悪魔だ!
 女性の・・・
 そしてぼくら人間の尊厳を踏みにじる悪魔なんだ!
 だめだ!
 ぜったい許しちゃいけないんだ!
 だれかが止めなきゃならないんだ!
 こんなひどい人間がのさばる社会を、ぜったい許しちゃいけないんだ。
 ぼく、鈴木の前に立ちはだかった。

 「待ってください。連れていかないでください!」

 ムッシュー鈴木につきとばされた。

 「なんだ。てめえ。どけ!」

 ぼくは先輩に覆いかぶさった。

 「お願いです!」

 宇野がぼくの肩をがっしりとつかんだ。

 「やめて!」

 高城さんの声が響いた。

 「なんなんだ。このガキ!
 ベンキョーのしすぎか、『なんか』のやりすぎで、頭おかしくなったんか?」

 ムッシュー鈴木が高城さんにくってかかる。

 「友だちよ。指一本触れさせないから・・・」

 ぼく、高城さんの言葉に本当にびっくりした。
 あわてて高城さんの顔を見た。
 でも高城さんって無表情なままだった。
 手を伸ばし、ぼくの腕をつかんで立たせてくれた。

 「松山君。彼女が望んだことなんだよ。さあ、行こう」

 高城さんの言葉・・・
 ほんのわずかだけど・・・
 心がときめくくらいやさしかった・・・

 「宇野。そのJKを抱き上げろ。最初に車に乗せる」
 「はい」

 宇野が先輩に近づく。
 ぼく、宇野の前に立ちはだかった。

 「勝負してください」

 出せる限りの大声を鈴木と宇野になげつけた。

 「ぼくが勝ったら先輩も、ここにいる女の人も連れて行かないでください」

 こわかった。
 でも真剣だった。
 鈴木が笑い出した。口から酒を吐き出した。

 「アアアアア、アホか。お前!
 宇野はな、昔、マンモス・ウノってリングネームのプロレスラーだったんだ。
 フ、フーゾクでよ。ツッコミすぎて、病気拾って、頭がラリってアッパラバーで廃業だ。
 だ、だがよ。お前なんかかなうわけねえだろっ!」

 宇野はぼくなんか無視。先輩を抱き上げようとする。

 「逃げるんですか!」

 宇野の背中に話しかけた。鈴木のあざけりが聞こえてくる。

 「放っとけ。『週刊現代』かなんかの袋とじのグラビアの見過ぎで頭おかしくなったんだ」

 ぼく、あきらめなかった。
 こわい。死ぬかもしれない。
 でもぜったいに先輩を!
 ほかの女の人たちも!
 こんな奴らの自由になんかさせちゃいけないんだ。
 ぼく、決心してた。
 先輩を助けるためならなんでもするんだ。

 「口だけで強いと言ってる人間はいくらでもいます。あなたもそうですか!」

 宇野が振り向いた。立ち上がって、ぼくをにらみつけてきた。
 やった。ぼくのペースに乗って来た。
 でも鈴木は無理だ。酒をあおりながらイライラと叫んでる。

 「相手にするな。早く運べ!
 オレの遊ぶ時間がなくなるだろう」
 「すぐ終わらせますよ。ムッシュー・鈴木」

 宇野がぼくの前に立った。

 「なに考えてんの。松山君」

 高城さんがぼくの腕をつかむ。
 引き戻そうってする。
 でもぼく、高城さんの手を振り払った。

 「勝てる訳ないでしょ。殺されるよ」

 高城さんが叫ぶ。
 でもぼく、床に足をしっかりとつけ、決して動かなかった。

 「もしぼくが死んだら・・・」

 高城さんに話しかけた。

 「ぼくの生命(いのち)の代りに、先輩を助けてください。
 ほかの女の人たちも助けてください」

 宇野に勝てるなんて思ってない。
 でも先輩のために戦うことはできる。
 死ぬかもしれない。
 それでもいいんだ。
 ぼくが、自分の生命を代償に先輩を守ろうってする気持ち!
 高城さんに分ってもらいたかったんだ。
 慈悲の心が欲しかったんだ。

 「勝手なこと言わないで。そんな約束しない!」

 高城さん、イライラした口調で言う。

 「初めて会った時、りりしくてかっこいいと思いました。
 あこがれました。
 ぼくなんか、近づくこともできない女性(ひと)だと思っていました」

 高城さんの顔見て、ゆっくり、ぼくの気持ちを伝えた。
 急に高城さん、ぼくの目をそらした。

 「最高にステキでした。
 多分だれよりも・・・」

 高城さん、横を向いてしまった。
 ぼくの話、聞いてるかどうか、分からない。

 「だから信じてるんです」

 返事はない。
 ぼくは宇野に向かって突進した。
 すぐ目の前に、二メートル近い大きな体の男。

 でもぼくが見ているのは・・・
 とってもこわい目だけど・・・
 とっても美しい女性(ひと)・・・
 この女性(ひと)に勝たなきゃ・・・
 先輩を守るなんてできないんだ・・・
 高城さんはすごい女性(ひと)だもん。
 ぜったいにぼくは勝てない。 
 でも自分の生命を差し出したら・・・ 
 この女性(ひと)の心を動かすくらいできるかもしれない・・・
 そうすれば先輩を守れかもしれない・・・
 
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登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

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