明日香先輩!ぼくたち、一緒なんです!

文字数 2,618文字

 ドアが閉まった。
 靴音が遠ざかる。
 先輩、ぼくの方に倒れこんだ。
 先輩に思いっきり抱きしめられた。
 何度も何十回も頬ずりされた。
 嬉しかった。
 昼間と同じように、顔中、キスの雨を降らされた。
 ぼく、ハッキリ分かった。
 なんて自分は幸せな人間なんだろうって・・・
 どうしてそれを忘れてたんだろう。
 自分を大切にしてくれる人間がいる。
 これほど幸せなことってないんだ。
 そしてこの幸せを守るってことは、たとえ苦しくたって、自分の命を賭けるだけやりがいのあることなんだ。
 ぼくは先輩を守ろう。
 もう一度、自分の心に言い聞かせてた。

 「先輩。かっこよかったです」

 先輩に抱きしめられながら、耳元でささやいた。

 「かっこよくなかった。最後はやられっぱなしだった。
 でも洋ちゃんとね。学校の中でも一緒にいたい。話がしたいって頑張ったの」

 高城さんはよく先輩の悪口を言ってた。
 でも先輩は生徒会長にふさわしい正義感がある。行動力だってあるんだ。
 そしてもうひとつ。
 先輩にはやさしさがある。春の日差しのようなあたたかさがある。
 やさしさ、あたたかさなんて、いまの世の中、役に立たないって思われてる。
 だけどやさしさ、あたたかさがなければ、絶対にだれかを守ることなんてできない。
 助けることだってできないんだ。
 ぼく、そう信じてる。
 だからぼく、先輩が許してくれるなら・・・
 一生・・・
 先輩と一緒にいたい・・・

 「洋ちゃん」

 先輩が小声で言った。

 「治療費っていくらかかったの?教えて・・・」 
 「先輩。そんなこと言わないで」
 「でも」
 「ぼくら家族じゃないんですか」

 先輩、ぼくの髪をやさしくなでた。

 「洋ちゃんに恥をかかせたこと、許して。
 ひどいことばかりして、なんにも助けてあげられなかった・・・
 ごめんね。ごめんね。
 許してくれるまでこうやって抱きしめてる」

 胸が熱くなった。
 ぼくって・・・
 ほんとに・・・
 世界で一番、しあわせな人間なんだ・・・

 「ずっと、ずっと先輩と一緒にいたい。その気持ちは絶対、変わりません」

 ぼく、先輩の耳元でささやいた。
 それから長い時間、ぼくたちはキスしていた。
 先輩の言葉、永遠に忘れない。

 「一緒にいなくたって、心はずっと、こうしてるから・・・」

 しばらくしたら先輩、持ってきた荷物を紙袋から取り出し始めた。
 
 「洋ちゃん。そのパジャマは?」

 やさしい目。やさしい口調。
 だけど・・・
 目の奥で・・・
 さっき部屋を出た女性(ひと)をにらみつけてる・・・

 「高城さんね。立って」

 先輩、ぼくを立たせた。手を伸ばして高城さんのくれたパジャマを脱がせた。
 先輩、インナーを見た。これも高城さんから・・・
 すぐに脱がされた。
 布団の上に寝かされた。
 先輩、脱脂綿をたくさん持ってきていた。
 水で濡らしてぼくの乳首・・・
 そっとそっと丁寧に・・・
 何度も何度も拭いた・・・
 最後に先輩の小さくて滑らかな舌が・・・
 ぼくの乳首をやさしくすべった。
 先輩の目とぼくの目・・・
 ずっと見つめあってた・・・
 胸、おなか・・・
 先輩の舌がやさしく這う・・・
 いろんなことがあった・・・
 つらいこともあった・・・
 でもみんな忘れちゃった・・・
 先輩、ぼくのブリーフの縁をつまむ。
 そっとブリーフを持ち上げる。
 スッと舌が入った・・・
 おなかがくすぐったい。
 ぼく、声を出して笑っちゃった。
 先輩も笑った。

先輩がスクールシャツを脱いだ。
 
 「次は洋ちゃんの番だからね」

 ぼくの顔の上に、先輩の白くてふんわりした胸があった。
 キラキラ輝くピンクのルビー。
 ぼくの口元に来た。
 大事にしなきゃいけないんだ・・・
 宝物を扱うように・・・
 そっと唇をつける・・・
 練乳のように甘い香りが鼻いっぱい・・・
 先輩がぼくを呼ぶ声・・・
 何度も聞いた・・・

 「休みの時ね。豪華なホテルに行こうね。
 お金の心配しないで・・・
 わたしたちふたり・・・
 ほんとに一緒になろう・・・」
 「はい」

 ぼくら約束した。

 それから先輩、自分の持ってきたインナー、パジャマを白くて細い指で着せてくれた。パジャマは黄緑色でかわいい模様付き。
 先輩、高城さんのパジャマとインナーを手に取った。
 無言のまま、ふたつの手でビリビリに引き裂いた。
 可燃ごみになったパジャマとインナー。乱暴に紙袋に詰める。

 「後で捨てておくから」

 それから先輩、持ってきたお弁当を出してくれた。
 ぼくの好きなものばかりだった。フルーツやケーキなんかのデザートまでたっぷりついていた。こんにゃくゼリーもあった。
 ぼくらふたり、楽しくすてきなディナーを楽しんだ。
 ふたりでお弁当をいただきながらいろいろと話をした。

 「寮に行ってはいけない」

って先輩に教えたのは、やっぱり蘭さんだった。
 そればかりじゃなかった。
 蘭さんからアドバイスを受け、先輩の両親の知り合いの弁護士、祖父の知り合いの教育委員会の関係者に話を聞いたんだって・・・

 「蘭さんってすごい」

 ぼく、彼女に尊敬の念を抱いた。
 一度、蘭さんになにかご馳走しようって相談し、その夜は門限に間に合うように先輩は帰った。
 先輩が帰ると、当たり前なんだけどひとりになる。
 ふたりの時には思い出さなかった不安・・・
 いろいろ、沸き起こってきた。
 先輩はこの高校の生徒。
 ぼくは嘱託って立場だど、学校の職員と同じような立場。
 だれが見たって、恋人同士にしか見えない関係。
 校内で続けていくことが本当に許されるんだろうか。
 先輩の主張はあくまで個人的意見。
 決めるのって学校。
 高城さんってお父さんの関係で、学校にも大きな影響力がある。
 大丈夫なんだろうか?
 でもすぐ思い直した。
 先輩だって分ってるんだ。
 でもいまの状況が続けば、学校内で会っても学校外で会っても、生徒と学校関係者の不適切な関係だって指摘される。
 先輩は我慢することをやめた。
 そしてぼくとの関係について、高城さんや学校と戦うことに決めたんだ。
 本当はぼくが学校を辞めれば一番いいことなんだ。
 でもにぼくの方から退職を申し出れば、高額な違約金が発生する。
 先輩がぼくのことなんかで、大事な時間を費やしてていいのだろうかって心配もある。
 どうしてって?
 先輩には、日本を動かすくらいの人間になって欲しいから!
 ぼくがいろいろと考えている最中。
 スマホが鳴った。
 知らない番号。

 「元気?」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み