明日香先輩とはもう話せないの?
文字数 1,119文字
「君、泣き虫だね」
高城さんが言った。
「キライじゃないよ。
君のそういうとこ。
無能だけど、プライドばかり高い生徒会長が君しか目にない理由、分かるよ」
車が停車した。ぼくの家の前。
高城さんって、ぼくの家の住所まで知ってたんだ。
「あとで引っ越しの時間あげる。
取りあえず替えの衣服とか大事なもの持って来て。
十五分あげるから!」
部屋の中。
高城さんが見守る中、言われた通りに荷物をまとめる。
机の上のフォトスタンド。
横浜で先輩と撮った写真。しっかり手をつないでる。
フォトスタンドを鞄に入れる。
「持ってけないよ」
高城さん、ポッキーチョコレート、口にしてた。
「君、住み込みだから学校の部屋で生活するんだよ。
補助職員が生徒と、私的な関係になれるわけないでしよう。
校内でも校外でもね。
守らなかったら処分。
先輩は即退学だからね」
「見えないとこにしまっておきます」
高城さんはなにも言わなかった。
フォトスタンドを鞄から取り出した。そのまま床に叩きつけた。
ガラスが飛び散った。
写真は丸められて、床に放り投げられた。
あわてて写真を拾って、シワを伸ばした。
「十五分経った」
「もう少し待ってください」
「君さ」
高城さんがポッキーチョコレートをかじる。
「なんでいつも、『先輩』って呼んでるの?」
ぼく、下を見る。
「言いなさい。命令だよ。
念書ださないって文書で約束した訳じゃないよ。
いまから君の先輩、学校から出てってもらおうか」
高城さん、冷たく笑ってた。
「『明日香お姉ちゃん』って呼んでました」
小さな声だったって思う。高城さん、手を耳につける。
「なに?『バカ姉ちゃん』」
「『明日香お姉ちゃん』です。中学の時、先輩に迷惑だって思ってやめました。
先輩、『明日香お姉ちゃん』の方がいいって恥ずかしがってました。
いまは慣れましたけど・・・」
「まるで面白くない話だね。
マヌケな先輩にピッタリだって思う」
「先輩の悪口はやめてください」
ぼく、できるだけ大声で言った。
「勉強もできて、やさしくて真面目でステキな先輩です。
ぼくの一番大切な女性 です」
高城さん、なにも言わなかった。
ぼくから写真を取り上げた。
粉々になった写真が床に散った。
ソックスを履いた足で踏みつけられた。
高城さんに手首つかまれ、車まで連れて行かれた。
もう一度、車が走り出した時、見覚えある車とすれちがった。
助手席に乗ってた人が、驚いたようにこちらの車を見た。
振り向いたら、窓から顏を出して手を振っていた。
なにごとか、叫んでいた。
ぼく、また前を向いた。
母があれからどうしたかは知らない。
べつに知りたくもない。
高城さんが言った。
「キライじゃないよ。
君のそういうとこ。
無能だけど、プライドばかり高い生徒会長が君しか目にない理由、分かるよ」
車が停車した。ぼくの家の前。
高城さんって、ぼくの家の住所まで知ってたんだ。
「あとで引っ越しの時間あげる。
取りあえず替えの衣服とか大事なもの持って来て。
十五分あげるから!」
部屋の中。
高城さんが見守る中、言われた通りに荷物をまとめる。
机の上のフォトスタンド。
横浜で先輩と撮った写真。しっかり手をつないでる。
フォトスタンドを鞄に入れる。
「持ってけないよ」
高城さん、ポッキーチョコレート、口にしてた。
「君、住み込みだから学校の部屋で生活するんだよ。
補助職員が生徒と、私的な関係になれるわけないでしよう。
校内でも校外でもね。
守らなかったら処分。
先輩は即退学だからね」
「見えないとこにしまっておきます」
高城さんはなにも言わなかった。
フォトスタンドを鞄から取り出した。そのまま床に叩きつけた。
ガラスが飛び散った。
写真は丸められて、床に放り投げられた。
あわてて写真を拾って、シワを伸ばした。
「十五分経った」
「もう少し待ってください」
「君さ」
高城さんがポッキーチョコレートをかじる。
「なんでいつも、『先輩』って呼んでるの?」
ぼく、下を見る。
「言いなさい。命令だよ。
念書ださないって文書で約束した訳じゃないよ。
いまから君の先輩、学校から出てってもらおうか」
高城さん、冷たく笑ってた。
「『明日香お姉ちゃん』って呼んでました」
小さな声だったって思う。高城さん、手を耳につける。
「なに?『バカ姉ちゃん』」
「『明日香お姉ちゃん』です。中学の時、先輩に迷惑だって思ってやめました。
先輩、『明日香お姉ちゃん』の方がいいって恥ずかしがってました。
いまは慣れましたけど・・・」
「まるで面白くない話だね。
マヌケな先輩にピッタリだって思う」
「先輩の悪口はやめてください」
ぼく、できるだけ大声で言った。
「勉強もできて、やさしくて真面目でステキな先輩です。
ぼくの一番大切な
高城さん、なにも言わなかった。
ぼくから写真を取り上げた。
粉々になった写真が床に散った。
ソックスを履いた足で踏みつけられた。
高城さんに手首つかまれ、車まで連れて行かれた。
もう一度、車が走り出した時、見覚えある車とすれちがった。
助手席に乗ってた人が、驚いたようにこちらの車を見た。
振り向いたら、窓から顏を出して手を振っていた。
なにごとか、叫んでいた。
ぼく、また前を向いた。
母があれからどうしたかは知らない。
べつに知りたくもない。