ムッシュー・鈴木は時間さえ守らない悪党だった・・・

文字数 3,737文字

 部屋の外では、恐ろしい光景。
 十三人の女性が縦一列で立っていた。
 二十代から三十代。
 ブラウスにスカート。ワンピース。全員パラパラ。
 ただ立ってるんじゃなかった。
 前手錠をはめられていた。腕が動かせないように、体中、ロープでぐるぐる巻きにされていた。
 両足首にも足錠がはめられていた。
 しゃべれないように口を白いタオルで覆われている。
 タオルの奥から女の人たちのすすり泣きが聞こえてくる。
 信じられなかった・・・
 なんてひどい光景・・・
 そばには、プロレスラーのように体が大きい男の人がいた。黒のスーツに黒のネクタイ。
 一目見るだけで、まともな人じゃないってが分かる。
 女性たちを守っているんじゃない。

 「うっせえな。泣くな。さっさとあきらめろ!」

 乱暴な口調。それでも泣き続ける女性。平手打ちが飛んだ。

 「殺すぞ!」

 女性に平気で乱暴を振るう光景。
 こんなひどいこと。高城さんが指示して行ってるの?
 ムッシュー鈴木って人が、大きな男の人に話しかけている。
 右手に持った瓶をラッパ飲み。
 なに飲んでるんだろう?

 「あ、味見だ。味見だ。売る前に・・・全員だあ」

 ムッシュー・鈴木が、女性のひとりを抱きしめる。
 白のブラウス。ブラウンのミニスカート。ダークブラウンのパンティストッキング。
 背の高い美しい女性。
 でもいま、タオルの奥で泣いている。
 ムッシュー・鈴木が頬ずりしてる。
 大きくなる泣き声。
 頬にキス。それからベロベロ舐めだす。
 女性の目が大きく開かれる。
 絶望の泣き声。

 「ひ、人妻だな。この女。ガキはいるんか?」

 宇野が答える。

 「小学生の女の子がふたり。亭主はリストラされて、ヤミ金融に借金つくって逃げ出し、海に沈められたんです」
 「そ、そうか!よ、よかったな。
 お前、もうガキに会えんぞ。
 給食費の心配しなくていいぜ」

 タオルの奥から泣き声が続く。
 たぶんぜったい終わらない。

 「な、泣けよ。
 女は泣いた時が、一番キレイなんだ。
 宇野!この女、ど、どこ行くんだ」
 「あるアジアの大国の農村です。女が少なく、やれるんならいくらでも金は出すって男が揃ってます」
 「アーーーハハハハハハ。
 わ、分かったか。
 お前よ。そういうとこ行くんだ。おっもしれーなあ。
 この国の地下組織ってのはよ。ケチで、出した金、早く取り戻そうってするんだ。
 お前。運ばれてそこ着いたらさ。縛られて猿轡はずされないで、むしろ寝かされて、一日、ひ、百人くらい相手させられるんだ。
 百人だぞ。百人。
 女はみんなすぐくたばる。最短で二日、長くて一週間だ。
 くたばってもよ。ムダにしねえ国だからな。
 女のあそこは酒に漬けて高く売る。
 顏の皮はな。男が顏にかぶって、夜、ひとりで楽しむんだ・・・ヘ、ヘンタイだな。
 お、女はな。本物がいいんだ。
 髪の毛はカツラ、歯は入れ歯。
 さ、最後にな。体使って人体標本つくるんだ。
 に、日本に輸出されたらよ。学校の授業の時、ガキにまた会えるかもしれないな」
 
 女性が首を大きく左右に振っていた。
 涙が飛び散る。
 高城さんはつまらなそうに、この様子見てた。
 顏に涙がかかったみたいで、不機嫌にハンカチで拭いた。
 
 「日本の最後の夜。フランス帰りのムッシュー・鈴木様が楽しませてやるからな。
 ハーハハハハ」

 騒々しい笑い声。残酷な笑顔。
 飲んでいた瓶を高く掲げる。

 「宇野。見ろ!
 こ、この酒はな・・・メンザー王国のオナン平原で採れた、マ、マカがな。
 二百ml、二百mlだぞ。入ってんだ。
 バ、バイアグラだって百mlだ。スッポン百匹分の濃縮血液も入ってるんだ。
 五発確定!十三発チャレンジだ!!!
 ヒャーハハハハハハハハハハハ」

 ムッシュー・鈴木。
 今度は、抱きしめた女性の首筋をペロペロなめてる。
 なんてひどい人間なんだ。
 なんとか女の人たちを助けらないんだろうか?
 高城さんって止める様子もない。
 おんなじ女性なのに・・・
 
 「高城さん・・・」

 ぼく、思いきって声をかけた。
 高城さんが苦い顔をぼくに向けた。

 「すみません。でもやめさせてください。ひどすぎます」

 高城さん、ぼくの顔、のぞきこむ。

 「しかたないサ。契約通りだから・・・
 わたし、金融の仕事もしてるの。
 納得づくでお金を借りて返せなかった女性は、契約書に基づいて、各地に仕事に行って貰うの!
 契約書に基づいて。
 つまり人材派遣業の仕事もしてるってこと!」

 高城さんって、人気アイドルグループの運営だけじゃない。いろんな仕事をしてる。
 だけどこれって、金融とか人材派遣業なんていえるのだろうか。
 連行されていく女性たちを見て、ぼく、この女性(ひと)が怖くなってきた。

 「いろいろビジネスをしてる。
 一番いい仕事っていうのは・・・」

 高城さんが言いかけた時、

 「宇野!早くしろ。今夜、十三人やるんだ!
 縛ったまんまさ。
 こいつらの夫とか、子どもとか、両親とかの写真、そばに置いてよ~。
 ギャーギャー泣くの見ながらやるんだ。
 家族の名前、呼ぶの見ながらやるんだ。
 スペシャルリカー飲んだ後だし、こいつは楽しいぜ~」

 ヘラヘラ笑いながら、女性たちが泣いているのを見ている。
 他人が苦しむのが愉快でたまらないみたい。
 間違いなく悪人だ。

 「行くぞ。バカ野郎。さっさと歩かんか」

 宇野って呼ばれた男の人が、今度は拳で女性を殴ってた。

 「高城さん」

 もう一度、呼びかける。

 「自己責任。仕方ないでしょ」

 高城さんはそう言って、ムッシュー・鈴木に近づいた。

 「ムッシュー・鈴木」

 ムッシュー・鈴木は、どこかで採れたっていうマカやらバイアグラの入った「スペャルリカー」を飲んでいた。
 こぼれた酒が、ピンクのシャツを濡らした。
 床にこぼれた。

 「ついさっきまで、『女子高パラダイス』が来てたんです。かちあったらどうするつもりです。
 どうしていつも時間守らないんですか?」

 ムッシュー・鈴木はニヤニヤ笑った。

 「オレはこの時間がいいんだ」

 残酷な笑い。ヘビのような白目。

 「アタマはオレだ。お前じゃねえ」

 宇野が女性たちに、

 「早く歩け」

って怒鳴りつけてる。
 悪人の決まり文句、

「殺すぞ。死ね!バカヤロー」

って付け加える。
 それでもひとりの女性の勇気ある行動を止められなかった。

 「助けてください!」

 三十歳くらいの女性が、ムッシュー鈴木に駆け寄った。口をふさいだタオルがはずれている。ピンクのエプロンが痛々しい・・・

 「子どもが家で待ってるんです。まだ小さいんです」

 その女性が涙ながらに訴えた。

 「もうすぐ誕生日です。誕生日プレゼント、家に置いてあるんです」

 ムッシュー鈴木は不機嫌な顔。

 「関係ねえだろう。ババア。
 死ね!タコ助」

 女性はあきらめなかった。

 「わたしが悪いんだって分ってます。
 でも最後に・・・
 どうか最後に、子どもに会わせてください。
 プレゼントあげたいんです!」

ムッシュー・鈴木が怒りの表情になった。

 「だから関係ねぇって言ってるだろ!
 耳聞こえねえのか。バーカ!
 てめえ、シンショー(身障者)か!!
 ゴミッ!」

 聞きたくない言葉の暴力が続く。
 差別、侮辱、暴力・・・
 ぜったいに許せない!
 人間じゃない!
 でもだれもこの男を止められない。
 ムッシュー・鈴木は平気で、ひどい言葉を叫ぶ。
 ムッシュー・鈴木は面倒くさそうな顔で、他人を不幸にする。
 さっさとその場から立ち去ろうってしてる。
 でも女性は必死だった。
 鈴木にすがりつく!

 「イテッ」

 鈴木の大声。鈴木の顔に手錠のチェーンが当たった。
 鈴木が頬を押さえた。

 「バッキャロー!」

 鈴木の大声が響いた。
 ジャケットの内ポケットから拳銃を取り出す。

 「ごめんなさい。やめて!お願い!お願いです」

 女性の悲鳴。鈴木の声がかぶさった。

 「トラブル起こすヤツは、ほかでも起こすんだ!」

 鈴木が拳銃を構えた。
 
 「面倒はごめんだ」
  
 女性が、だれかの名前を叫んだ。
 きっと子どもの名前だ!
 映画やテレビドラマのような光景。
 ぼくのすぐ目の前で・・・
 銃声が轟いた。
 女性が倒れた。
 動かなかった。
 もうしゃべらなかった。
 もう子どもにも会えない。
 目は開けたままだった。
 涙が一筋、頬をつたっていた。
 他の女性たちが大声で泣いてる。

 「大事な商品です。なにするんですか!」

 高城さんのきびしい叫び!投げつけられた相手は、不機嫌に頬を指さした。

 「見ろ。血だ!」

 高城さんは表情を変えない。でもその目、鈴木への怒りを秘めている。
 見ていて分かる。
 鈴木は顔色も変えない。
 先輩の挑戦を受けた。

 「死体を片づけろ。気持ち悪い。アホかっ」

 高城さんはなにも言わない。鈴木の顏だけ見てる。

 「片づけろ」

 高城さんは動かない。

 「アタマは俺なんだよ!さっさと片づけろ」

 大声で怒鳴った。

 「吐き気がするぜ。チッキショー」

 宇野の方を振り返った。

 「宇野!女たちを連れて来い。車に乗せる!」
 「はい」

 もう一度、高城さんを見る。

 「てめえ。死にてえのか」

 拳銃を高城さんに向ける。
 JKカンパニーのメンバーから悲鳴。

 「会長!」

 高城さんに銃口が向けられた。
 
 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み