ぼくが最期を迎える時、高城さんが拳銃を握る!

文字数 1,708文字

 宇野のすぐ前に立つ。
 宇野を見上げた。
 宇野が薄笑いを浮かべる。

 「バカなガキだ。死ぬか!」

 瞬間!
 ガキッとなにかが砕ける音。
 骨が折れたかも!
 体全体、割れるような衝撃!
 ぼくの体が宙を飛んでる。
 自分の体が自分でない。
 激痛なんか通り越した!
 床に頭から落下!
 自分の目が飛び出した感覚!
 脳が真っ二つに割れた感覚!
 手足がバラバラになった感覚!
 ぼくを「死」へ案内していく。
 宇野がぼくの手足をつかむ。
 軽々と持ち上げる。
 自分の体中から血があふれてる。
 血の臭い。死の香り。
 女性の悲鳴!
 まるでこだまみたい・・・
 悲鳴が次々、聞こえる。
 また床に叩きつけられる。
 自分の目が飛び出た感覚!
 脳が真っ二つに割れた感覚!
 手足がバラバラになった感覚!
 死が迫っている。
 頭がボォーッとしてきた。
 先輩を守ろうってする思い。
 先輩と一緒にいたいって思い。
 先輩と話をしていたいって思い。
 先輩とどこまでも並んで歩いていきたいって思い。
 思いのぜんぶが・・・
 ぼくの体から出ていくみたい・・・
 後には一体、なにが残るんだろう。
 もうすぐぼくって・・・
 先輩を思うことができなくなるんだ・・・
 宇野の大きな足。
 ぼくのおなかの上に全体重!
 おなかがつぶれる
 息ができなくなるってこういうものなんだ。
 目の前が真っ暗。
 ぼくは死ぬ。もうすぐ死ぬんだ。

 先輩・・・
 幸せになって下さい・・・
 将来、だれかと結婚しても・・・
 少しだけでいいんです・・・
 ぼくのこと少しだけ・・・
 心に残しておいてください・・・
 それだけで・・・
 それだけで・・・
 幸せなんです・・・

 「宇野!時間がねえ。壁に叩きつけて終わりだ!」

 ムッシュー・鈴木の声。

 「やめなさいよ」

 高城さんの声!怒りがぼくにも伝わる。

 「こいつがやろうって言ったんだ」

 鈴木の返事。

 「宇野!早く済ませろ!」

 宇野の手がぼくに伸びる。ぼくの肩をがっしりつかむ。
 そうだ。本当に死ぬんだ。

 高城さん!ぼくが死んだらどうか、先輩や監禁している女の人たちを解放してください。

 でも先輩と、最後にもう一度だけ、話したかったな。
 もう会えなくなるなら、まだ意識が残っているうち、先輩に別れをつげよう。

 「先輩。さようなら。
 すぐそばにいるのに、ぼくの目には見えない・・・ 
 もう一度、見たかったです。先輩のこと・・・」

 宇野がぼくの体を抱えようとする。
 プロレスで鍛えた腕力で壁に叩きつけるんだ。
 あと数秒・・・
 あと数秒で死が訪れる。
 最後の瞬間に先輩を見たくて・・・
 首を左右に振る・・・
 でもうまく動かない。

 ぼくに見えたのは、別の女性(ひと)・・・
 高城さん・・・
 右手に拳銃構えてる・・・
 まさか?
 高城さんの顔、つまらなそうに見えた。
 突然、学校で、掃除当番を言いつけられた時の表情・・・

 バンッ!

 重い音。
 男の悲鳴。

 「なにするんだ!」

 ムッシュー・鈴木の怒号!
 宇野の泣き声!
 ぼくが横たわる隣!
 震動といっしょに倒れる! 
 もうぼくを襲わなかった。
 鈴木が高城さんにくってかかる。
 高城さん、拳銃をブレザーの内ポケットに入れてる。

 「バカ野郎!どういうつもりだ。頭おかしいんじゃないか!」
 「IQの低いおじさんに、言われる筋合いないから」

 高城さんってうるさそう・・・

 「どういう意味だ」
 
 ムッシュー・鈴木の顔。怒りで真っ赤。

 「おじさん。IQ低いでしょう」

 高城さん、冷たく鈴木のこと、見つめる。
 ムッシュー・鈴木なんか人間って思わない。
 そんな感じ・・・

 「どうせさ。三流の商業高校。
 授業サボって、何度も停学。
 だれも聞きたくないへたくそなバンドの演奏かなんかして、サイテーの成績で卒業したんでしょ」

 高城さん、一言一言、ハッキリ話していく。

 「てめえ」
 「IQの低い可哀そうなおじさん。
 あのね。
 分数計算って分かる?
 2/4と1/2、どっちが大きいか分かる。
 たぶん分からないよね」
 「おい!」
 「九九ぜんぶ言える?
 四×四って四十四じゃないから・・・」
 「てめえ」

 ムッシュー・鈴木の右手に拳銃!
 トカレフXノベルズ!
 引金を引く!
 銃声!
 
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登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

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