高城さんとの対決!明日香先輩の涙・・・

文字数 3,078文字

 先輩が下を向いた。
 ぼくの手をしっかり握ってくる。

 突然、靴音。
 高城寺さんの背後に十人の女子高生が立った。
 ブレザーにミニスカート。
 全員、王道女学園の制服。王道女学園の生徒だ!
 全員、生徒会長ひとりだけをにらみつけている。

 そして・・・

 早智子さんの姿もあった!
 そうか!
 列車で会ったのって偶然じゃなかった。
 ぼくが先輩に会いに行くかどうか確かめてた。
 弟の墓参りなんて理由つけてさ。
 先輩の墓参りの予行演習のつもりなの?
 早智子さんと一瞬、目が合う。
 ぼく、横を向いた。
 でも早智子さん、少しの間、ぼくを見ていた。

 「生徒会長が校則破っていいの?」
 「校則守らない人間が、なんで生徒会長してるの?おっかしいじゃない」
 「親戚に会うなんてウソまでついてる」
 「ウソつき!」
 「デートするため、ウソまでついた」
 「こんな会長、いらない!」
 「王道女学園の恥!」
 「さっさと辞めて!」
 
 次から次へと悪口が飛ぶ。

 「サッチー!」

 高城さんの呼び声。 
 早智子さんが先輩の前に立つ。
 またぼくと目が合った。
 先輩に一枚の紙を差し出す。

 <王道女学園生徒会役員退任届>

って太字で印刷。

 「会長が自分の名前をペンで書けば、すべて終わりです。文章はこちらで作成してあります。
 激務に耐えかねた、としておいたから面子は守れると思います」

 先輩、蒼い顔してる。
 その書類を受け取ろうとする。

 「先輩!」

 思わず大声を出した。
 どうしたらいいかなんてわからない。
 でも先輩が危ない。
 とにかく先輩を守らなければって気持ちだけ・・・
 強い思いが、ぼくに力をくれた。
 知らないうちに次の言葉を叫んでいた。

 「ぼくが親戚です!なにも問題ありません!」

 高城さんはぼくの方に顔を向けた。

 「君、松山君だったね」

 高城さんがぼくに向かって話しかけた。
 ぼくの名前を知ってた。
 この前の出会いだって、偶然なんかじゃなかった。
 ぼくのこと調べて、先輩を生徒会長の座から引きずり下ろすつもりだったんだ。

 「この子、知ってる」

 後ろで女生徒たちの声。

 「新聞に載ってた。『英単語100の日常会話システム』って英会話のシステムつくったんだって」
 「なんか生意気な感じ」

 好意は持たれてないって、よく分かった。
 美しい女性(ひと)だってそう思ってるんだろうか。

 「君が、生徒会長の親戚だったとは驚き。どういう関係?教えてくれる?」

 高城さんが笑みを浮かべる。

 (お前の嘘なんかお見通しだ)

 もうひとつの表情が見えた。
 恐ろしかった。
 だけど・・・
 ぼくの大切な先輩が、この女性(ひと)に恥をかかされて、生徒会長を辞めさせられる方が、もっと恐ろしかった。
 先輩の屈辱的な姿なんて見たくない!

 「親戚なんです。それ以上、話したくありません。どうしてあなたがわざわざ調べるんですか?
 ワケ分りません」

 高城さんの顔から笑いが消えた。
 相変わらず冷静な表情だった。

 「なに言ってんの。この子」
 「ほんとに生意気だ」

 後ろの女子高生たちの声。
 高城さんはなにも言わない。じっとぼくらを見つめる。
 先輩の柔らかくて温かい胸、ぼくの背中にぴったりくっついてる。
 先輩の温かい胸って、すごく気持ちよかった。
 こわかった。
 でもほんの少し幸せだった。
 高城さんが口を開いた。

 「松山君」

 さっきのような余裕の笑顔。

 「君っていい子だね」

 先輩がぴったり密着。喉がゴクンと鳴った。

 「また会おうね」
 「ぼく、王道女学園の生徒でも先生でもありません。もう会わないって思います」

 体中から冷たい汗。

 「それが君の、そして生徒会長の希望というわけ?」

 高城さんがポッキーチョコレートを口にくわえた。

 「でもね。たぶんムリ」 

 高城さんと女生徒たちが、一瞬にして喫茶店から消えた。
 高城さんが最後にぼくの顏を見た。
 早智子さんが最後に出て行った。
 ぼくになにか見せた。
 一枚の写真・・・
 早智子さんと男の子・・・
 写真の中の早智子さん。眼鏡はかけてない。ニコニコ笑ってる。
 男の子の肩に手を回して・・・
 写真はすぐポケットの中・・・
 早智子さんは高城さんの後を追った。

 先輩は僕の体をしっかりと抱きしめた。そしてぼくに何度も頬ずりした。

 「洋ちゃん。ありがとう」

 何度も繰り返した。
 先輩の可愛らしくて小さな唇がぼくの唇に重なった。
 中学の時だった。遊びに行ってお別れする時、遊び半分でキスをした。額や頬だったけど・・・
 ぼく、先輩からスッと離れた。先輩が驚いてぼくを見る。

 「洋ちゃん」
 「ぼく帰ります。先輩も早く帰らないと、またさっきの女性(ひと)に・・・」

 もう先輩に会わない方がいい。
 これ以上、ぼくなんかのことで、先輩を苦しめるなんてイヤだ。
 先輩には、生徒会長の職務、学校の勉強に専念してほしい・・・
 席を立った。
 もう先輩に会っちゃいけないんだ。
 先輩の両親は望んでない。
 望んでるのは、高城さんだけだ。
 高城さんは、ぼくらのこと、よく調べている。先輩を陥れようとしている。 
 ぼく、なにもかも終わったんだ・・・
 負けイヌなんだ・・・
 行き先もないのに、みじめに毎日、生きてたのは、ぼくの大切な先輩にもう一回、会いたかったから・・・
 もう願いはかなったんだ。
 ぼくがこの世に存在するってこと、叔父さんや先輩の両親はイヤでたまらないだろう。
 ぼくがいなくなれば、一番いいんだ。
 そうなれば、高城さんだってどうにもできないんだ・・・

 「洋ちゃん」

 もう一度、先輩が声をかけてきた。

 「洋ちゃん。こっち見て」

 振り返った。先輩がぼくの顔、じっと見つめた。
 ぼくも先輩の優しい顔を見つめた。
 先輩の優しい表情。自分の心に残しておきたかったから・・・
 最後の最後の瞬間まで・・・
 先輩がいきなり立ち上がった。
 ぼくの手を引っ張って席に戻した。
 ぼくの持ってた鞄を取り上げて中を見た。ぼくが止める暇もなかった。
 先輩は、例の小瓶を見つけ出してぼくに突きつけた。

 「これはなに?」

 震える声。
 下を向いたまま、なにも言わなかった。
 先輩は小瓶を持って立ち上がり、洗面所に向かった。戻って来た時、小瓶は空になっていた。
 ぼく、もう一度立ち上がった。
 早くこのブースから離れたかった。
 先輩の顏だって見なかった。

 「みんなわたしが悪いの。わかってる」

 涙声だった。

 「忘れないで」

 先輩がぼくの背中に向かって声をかけた。

 「洋ちゃんがこの世から消えたら、わたしも生きてないから・・・」

 我慢しようってしたけど、結局できなくて振り返った。
 先輩の目が真っ赤だった。
 ぼくって負けイヌなんだ。
 だけどこんな人間でも、この世からいなくなったら・・・
 大好きな先輩を苦しめて悲しませて人生を狂わせてしまう・・・
 ぼくは・・・
 生きなきゃいけないんだ・・・
 先輩のためにも・・・
 どうしたらいいか、真剣に考えてみよう・・・

 「洋ちゃんがどうしたらいいか、わたし、考える。また連絡するから・・・
 休みの日に学校の外でなにしようと、高城さんに文句つけられる筋合いないから・・・
 今日は、生徒会のこととかね。
 辛くて苦しくて、どうしても洋ちゃんの顔見たかったの。
 そうすれば元気になれる。
 これからもずっとずっとね。
 洋ちゃんを見ていたい。
 いいよね。」

 先輩、ハンカチで目を拭いた。
 それからぼくのことをしっかり見つめてくれた。

 「わたしたち、家族と一緒なんだよ。
 きっと本当の家族になるんだよ」

 先輩が手を振った。
 ぼくも手を振った。
 すぐに喫茶店を出た。

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登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

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