明日香先輩、高城さんからの贈り物

文字数 1,453文字

 蘭さんが心配そうにぼくを見守っていた。
 すぐに満面の笑みで叫んだ。

 「好了!好了!(よかった。よかった)」

 布団の中だった。
 起き上がろうってしたら、蘭さんがあわてて止めた。
 頭に包帯を巻いていた。

 「生きてるんですか?」

 あのまま死んでたらよかったのに・・・
 高城さんだって、先輩への圧力なんかかけられなくなるのに・・・
 ぼくが生きてたって・・・

 蘭さんがぼくの手を握った。

 「わたし、嬉しいです」

 蘭さんの話だと、高城さんは僕を帝国大学に連れていった。治療費は高城さんが支払ったっていう。
 骨には異常なかった。学校に帰ったら、ぼくを部屋に運んで、後のことを蘭さんに頼んでいったという。

 「治療費を給料から引く、伝えなさいと言います」

 蘭さんは悲しそうに言った。
 あたりを見回すと、封筒をぼくに差し出した。封筒にはメモが貼ってあった。

 「這是井上同学送給松山同学的。(井上さんからです)」

 蘭さん、ぼくにもう一枚のメモを渡した。

 「井上同学一直哭。我也痛苦。(井上さんはずっと泣いてます。見てられません)」

 蘭さんは、

 「気分が悪くなったら連絡して欲しい。高城さんから言われてるから」

って、学校からから支給された業務用スマホの番号を教えて部屋を出た。
 ぼくが、なにも気にせず封筒の中を見られるようにって気を遣ってくれたんだ。
 ありがとうございます。
 封筒を開けてみた。
 硬貨が布団の上にパラパラと落ちた。封筒の中には、千円札が七枚入ってた。
 硬貨も合せたら一万円以上のお金だった。
 それから花柄模様のハンカチが二枚。いい香りがした。
 先輩、ぼくが給料減らされることを配して、ありったけのお金を渡してくれたんだ。
 それだけじゃない。ぼくらが離れているようで、本当はずっとそばにいるんだって教えてくれたんだ・・・
 封筒を握り締めた。
 すぐに封筒がずぶぬれになった。
 だれもいなかった。
 だから声出して泣いた。

 泣くのを我慢することも・・・
 黙って泣くことだってできなかった・・・

 落ち着いてから、お金を棚にしまった。このお金を使うなんて、ぜったいにできないんだ。
 改めて、先輩の家がかなり苦しいんだろうって分った。
 先輩の祖父は有名な中国語学者だったけど、名声はあっても金銭とは無縁だったって聞いた。
 先輩の両親がぼくを敬遠する理由だって、よく分かった。先輩、ひとりを名門女学校に通わせるだけでも大変なんだ。
 なるべく早くお金を返して、

 「貯金があるから大丈夫」

って説明しなきゃ・・
 その時だった。
 棚の上に、ポッキーチョコレートの箱が置かれているのを見つけた。
 朝礼のことを思い出した。横で高らかにぼくの業務違反を説明していた高城さんのことを・・・
 高城さんの言葉の一言一句が思い出されてくる。
 あの時は、勝ち誇ったような高城さんの顔が恐ろしく思えた。
 でも高城さんの言葉を思い出してみたら・・・
 高城さんって、ぼくがだれかの罪をかぶってるって強調していた。
 ぼくをかばってくれていたる
 なんだか不思議な女性(ひと)だ。
 たぶん『英単語100で行う日常会話システム』の関係で、ぼくに利用価値があるって思ってるんだ。
 ポッキーチョコレートの箱の下に一冊の本があった。高級レストランを網羅したカタログだった。
 一枚、メモがはさんであった。

 <どこでもおごってあげるから声かけて。七頁にあるフランス料理のレストラン『ドローン・アラーン』はおすすめ>

 気持ちは複雑・・・
 本当に不思議な女性(ひと)なんだ。
 高城さんって・・・
 
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登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

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