高城さんはIQの低い人間がキライだ!

文字数 2,838文字

 JKカンパニーのメンバーから悲鳴。
 ぼく、見た・・・
 早智子さんが腕を組んで立っていた。冷静な表情。眼鏡の縁にかかった髪の毛。
 そっと払った。

 高城さんに銃口が向けられた。 
 両者の間は三メートル・・・
 高城さんがポッキーチョコレートを口にくわえた。
 ムッシュー・鈴木が鼻先で笑う。
 高城さんがポッキーチョコレートをかじる。
 引金が引かれた。
 悲鳴。
 銃口から白煙。
 高城さんが新しいポッキーチョコレートをくわえる。
 後ろの壁に、銃弾が一個、埋まってる。
 壁に大きな亀裂。

 「壁のキズ、弁償してください。」
 
 高城さんがポッキーチョコレートをかじる。
 ムッシュー・鈴木が顏を歪めてる。
 怒ってる。

 「レイプするか?」

 ムッシユー・鈴木が高城さんをにらみつける。
 高城さんが新しいポッキーチョコレートを取り出す。

 「チェリーガールじゃねえと、高く売れんからな。責めるのはバックだ」

 高城さんがポッキーチョコレートをかじり出す。
 ムッシュー・鈴木は拳銃をジャケットの内ポケットに戻した。

 「探せよ。新しいの・・・いくらでもいるだろう」

 高城さんは無言。

 「この世は、女と男しかいねえんだ。トランスジェンダーなんてオレは知らん」

 鈴木と宇野、気の毒な女性たちが立ち去った。後には亡くなった女性がひとり。

 高城さんが、早智子さんはじめ、JKカンパニーのメンバーを見回す。

 「さっきの言葉。ジョークのつもりかな」

 答えはない。

 「IQ低いおじさんらしい氷点下の寒さだった」

 壁に近づくと、銃弾を取り出す。

 「使った拳銃は、中国で秘密裏に開発されたスーパートカレフ流星Xノベルズ。
 連続三十発。十秒で装填可能。
 ただしプロでなきゃ使うのはむずかしい・・・」

 高城さんは銃弾をハンカチで包んだ。

 「IQ低いけど、拳銃の腕前は一流。
 だからみんなこわがってる。
 まあ、こういうのに危ないオモチャ持たせちゃいけないよね」

 高城さんが女性の死体に近づく。
 床に血の川。
 女性は目を開いていた。涙の川が、まだずっと流れている。
 高城さんが中腰になった。
 スカートの奥の少し肉のついた太腿の奥。パープルのショーツ。
 衣服の胸の部分をナイフで切り裂く。
 一枚の紙が服の間にはさまってた。殺された女性と小学生くらいの女の子の写真。笑顔で頬ずりしてる。
 たぶん写真の女の子は・・・
 お母さんからの誕生日プレゼントをいまでも待ってる。
 たぶん これからもずっと永遠に・・・
 高城さん、写真を手に取る。写真の裏を見つめる。
 赤い文字で殴り書き。

 <たすケテ。この人 ワルイい人>

 メッセージだ。隙を見て、だれかに渡すつもりだったんだ・・・
 助けを求めて・・・
 高城さん、写真をJKカンパニーのメンバーに見せた。

 「このおばさん。自分の子どものこと、こわがってたみたい。
 ワルい人なんて・・・
 結果的には、よかったか。
 それにしてもヘタな字だね。
 おばさんもIQ低かったんだ」

 写真を投げ捨てた。
 写真が、血の川の中で赤く変わった。 
 高城さんが死体見つめてる。
 JKカンパニーのメンバーは顔をそむけている。
 早智子さんは、高城さんのすぐ後ろに立ってる。一緒に死体を見つめてる。
 女性の胸元が露出・・・
 血のデコレーション。ふたつの丸い盛り上がり。中心に、血で彩られた丸い突起物。
 高城さん、しばらく死体を見つめてた。

 「心臓を正確に一発。ただし・・・」

 高城さんが立ち上がった。

 「気功で『六基』と呼ばれる地点を撃てば、心臓からの出血は最小限になる。
 あのIQの低いおじさん。間違いなくそこ狙った。わずかにはずれてる。
 やっぱりIQ低いおじさんだった」

 高城さんがメンバーを見渡す。

 「分かるよね。
 わたしに勝てるわけないってこと」

 高城さんが、早智子さんに声をかけた。

 「サッチー!」
 「はい。会長」
 「死体片付けて。
 処理のことでさ。『ドラゴンコンツェルン』に連絡するでしょ。
 ついでに高大人(こうだいじん)にアポとって。
 早めに会いたいって!」
 「分りました。でもあの人に会うなら、なにか土産を用意しないといけませんね」
 「蘭って留学生に意見を聞く。英語科の委員してるから」
 「会長が委員長でしたね」

 ドラゴンコンツェルン・・・
 ぼくもよくは知らないけど・・・
 アジア最大の企業って聞いた。
 会長の名前は、確か(こう)という人だった・・・
 この前、高城さんがスマホで話していた相手もそういえば・・・

 高城さんはぼくの方に向き直った。

 「君はまだ眠ってる。夢を見てるの。よけいなこと考えないこと。
 君のため。
 そして君の一番大切な先輩のためにね」

 黙ってるべきだった。
 でもだめだった。

 「やめてください。こんなこと・・・」
 「契約だからさ。お金返さないほうが悪いじゃない」
 「あの人たちが悪いんですか?
 こんなひどいことされなければならないんですか?
 家族を大切にしてるのに・・・」

 頬が鳴った。その場に倒れてた。
 立ち上がろうってしたら・・・
 ローキック、浴びた。 

 「会長!」

 早智子さんが声をかけた。

 「やめてください。
 松山君。正しいこと言ってるんです。
 会長も分かってるはずです」

 高城さん、ぼくの手を握って立たせる。

 「サッチー。わたし、バカじゃない・・・」

 ぼくの顏をのぞきこむ。
 
 「だけどさ。自分の心配した方がいい。
 一緒に行くよ」
 
 高城さんは、ぼくに目隠しをした。

 「車の中で話そう」

 早智子さんが声をかけてくる。

 「学校に戻るんですか?」
 「彼を英語科の補助職員にする。そのことを説明して来る」

 目隠しでなにも見えない。これからなにが起きるのか、ぼくには分らない。
 十分後。
 車の後部座席に乗せられたらしい。
 車が発進してしばらくした頃、目隠しをはずされた。

 「王道女学園は、英語を重視してるの。英語検定の一級取得が卒業の条件。
 わたし、英語の担当教師で組織されてる英語科の生徒委員長をしてる。
 生徒の立場から、わが校の英語のレベルを上げるため、英語科教師に協力して日々努力してる」

 高城さんはぼくに一枚の紙を渡した。

 「この紙にサインして。契約書だから」

 ぼくは高城さんの出した紙に目を通した。
 すぐに高城さんの顔を見た。高城さん、
 無表情なまま・・・
 
 「君に選択の余地はないの。
 王道女学園、住み込みの補助職員になる。
 待遇は嘱託だけど、仕事の内容は教員業務の補助だから、一部、教員の業務に抵触する。
 当然だけど、生徒と私的な交流は厳しく制限される」
 不同意なら、あの念書を校長に渡し、君の先輩を即刻退学させるだけだから・・・」

 そっけなく言った後、ポッキーチョコレートをかじった。
 契約・・・
 そうか・・・
 契約って、こういうもんなんだ・・・

 先輩の顔が心に浮かんだ。

 ぼくって本当に・・・
 弱くて・・・
 泣き虫だって思う・・・

 すぐ、なにも見えなくなった。
 でも先輩の顔だけ、見えた。




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登場人物紹介

高城サキ 《たかしろさき》  名門女子校・王道女学園二年。『王道女学園振興会』会長。JK起業家。『JKカンパニー』会長。父親は有力国会議員。


「ごきげんよう。生徒会長。

 いいこと教えましょうか。

 基本、わたし・・・生徒会長のこと、大キライなんです。

 分かります?」

「IQの低いおじさん。

 分数分かる?九九は?

 可哀想なおじさんはね。

 もうすぐ死んじゃうんだよ」


井上明日香《いのうえあすか》 名門女子校・王道女学園二年。生徒会長。松山洋介の幼馴染。


「洋ちゃんはね。離れていたって家族と一緒。

 だから友だちといてもね。

 最後は洋ちゃんとこへ帰ってくるの」




蘭美莉《ランメイリー》 台湾からの留学生。父親は公安幹部。

「松山さん。純愛ドラマは、

 ハッピーエンドって決まってるんです。

 加油!我的最親愛的好朋友(負けないで。わたしの一番大切な人!)」

進藤早智子《しんどうさちこ》高城サキの秘書。眼鏡美人。

 「会長。松山君に暴力をふるうのはやめてください。

 松山君の言っていることが正しいんです。

 それは・・・会長が一番、よく知ってるはずです」

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