234. かわいそうなタイセイヨウマダラ:700-

文字数 676文字

 タラは水温2~13度で生息でき、北海、ノルウェー海域、アイスランド周辺、北アメリカ沖大陸棚に豊富に生息していた。

「冷たい食べ物は聖日に相応しい」
 とのことで、塩漬けタラは四旬節にがつがつと喰い尽くされる。

 古代スカンディナヴィア人、スペイン北部のバスク人、イングランド人がタラを追い回し、ノルウェー海域やアイスランドまで航行した。
 捕まえ、切り裂き、寒風に晒し、塩で埋め、まずい硬いと罵りながらリンゴ酒やビールで喉の奥に流し込む。
 保存が効き、栄養になれば、それでいい。

 1410年、ハンザ同盟がノルウェー沖から外国船を締めだした。
 気候が不安定に、寒冷に傾くにつれ、タラは南に移動し、ノルウェー海域の漁獲量は減少していた。

 アイスランドまで行くしかない。
 小氷期で一層荒れた冬の海を耐え抜く、頑丈な船が必要だ。

 ドッガー船の船首が激しい波を砕く。
 イングランド人はアイスランドに押し寄せ、ヘンリー五世が「やめなよ!」とお触れを出したそうだが、従うものはいなかった。

 1430年代、もちろんハンザ同盟もやって来る。
 殺し合う。
 獲り尽くす。
 寒波襲来もあるだろうが……タラが消え始めたのは、当然の帰結だった。

 西へ、西へ。
 次の絶滅先を見つけなくちゃ。
 1500年、ニューファンドランド島には、大量の漁船団が押し寄せていた。

 より良き明日の為に。
 より良き私の明日の為に。

 貪欲を醜いと忌避する私がおかしいのだろう。
 私事では所詮同類と気づいていないだけなのだろう。

 タラに同情する私は狂っている。

 どうせ何をしても、自己満足から抜け出せないくせに。
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