223. 白い箱にボールを詰める

文字数 810文字

 今日のおやつは、薄く焼いたクレープ生地としっとり甘いクリームを重ねた可食地層、ミルクレープだ。
 一枚一枚剥がして苺化石を捜すには、お母さんの課題を解かなければならない。

 生成(きなり)色、ワインレッド、ホライズンブルー。
 多色のボールで白い箱をぴっちり詰める。

 色味が重なるボールとボールは、その度合いに応じて、互いに浸透する。
 ボールはふるさと至上主義で、似た状況――左上、隅っこ、8つちょうど隣接――以外はむずむずし、箱から飛び出してしまう。

 妹が僕のミルクレープに手を伸ばす前に、なんとかしなくちゃ。

 生成色は小さすぎて、いくら詰めても空間を埋めない。
 ワインレッドは即逃亡だ。
 ホライズンブルー、スカイブルー、ゼニスブルーは左下に固まり、まるで空間を埋めない。

 どうしたら解決できるかな?

 エニグマ攻略に、三歳児の知識は役に立つ?
 生成色は美しく染まる可能性を秘めているが、まだ力にはなれない。

 エニグマ攻略に、ドイツ語の罵倒語は必要だったが、きっと、アデリーペンギンの放埓な性生活はさほど役に立たない。
 白い箱を満たすのは、一ミリ立方くらいで、ワインレッドのように即逃亡だ。

 エニグマ攻略に、数学者は必要だ。同国、同宗教、同経済環境、同教授のもとで学んだ同専門の数学者は二人も必要?
 同じ数学者なら、同性愛者と異性愛者、ユダヤ人とアボリジニ、スカイブルーと群青色が良い。

 複雑な問題に必要な視点――問題空間、あるいは白い箱――を埋める叡智が揃ってはじめて、多様性と、認知的多様性と呼ばれる。

 集合知に昇華する。

 問題に悩む前に、集団を見直そう。
 この集団に盲点はないか?
 白い箱を埋めていく。

 ぽんぽんぽーん!
 赤、緑、青!

 ミルクレープ!

 こんな風に簡単に、複雑な問題に対処できるあらゆる視点が得られ、信頼があれば、キガシラペンギンも絶滅危惧種にならないだろうに。

 孤独を好むキガシラペンギンが、多様性を知れたなら。
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