105. タルト

文字数 359文字


 食いしん坊がいた。
 皿の上のホイップクリームを(すく)ってはふくみ、舌を出しては()め取る。
 クリーム一泡も食べ尽くして尚、繰り返し皿をひっくり返し、見落としがないか入念に確認する。

「あーあ。お皿も食べられたらいいのに」

 しかして、タルトが生まれた。

 ざくざくと目に見える黄金の器に、イチゴクリームの雲海が満ちている。三種のベリーが流星のように降り、雲に埋まる姿は宝石そのものだった。
 掘り起こす必要もなく、鉱床のままいただけるとは、なんと贅沢(ぜいたく)か。

 食いしん坊は一息で口に入れた。よく咀嚼して、呑み込んだ。幸福が表情を輝かせる。
 見下ろせれば、再び、空の皿。

 陰った顔で言うには、
「あーあ。お皿も食べられたらいいのに」

 術ない。
 皿の上にタルトを載せたのが、間違っていたのだろうか?

 いや、きっと彼は、テーブルも食べたがる。
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