240. 無責任の物語:BC200000-

文字数 832文字

 誰かやってとお願いしても、誰も手を挙げないから――いつも同じ「居たたまれない空気に耐えられない哀れな人」しか挙げないから、必ず個人名で指名していた。
 責任を明示し、信じて託した。

『新たな利他主義が必要になる。
 それは自国のためでなく、地球全体の利益のために努力しようとする意欲だ』

 人類の責任なら、人類が果たせ。私じゃない、お前だ。
 責任の大半は先進国だ。お前らが為した悪行を、私達がしたら非難する。ダブルスタンダードかよ。
 私はヒトを愛さない。私が間接的に起こした気候変動の末、遠い他者が何十億人死んだところで、責任も何も感じない。だから、行動しない。

『海図にない気候の海を航海しているからだ。その点で言えば、われわれは天候に翻弄された中世の農民や十八世紀の小作農となんら変わりはないのである』

 激甚気象でなく、気候変動を肌で感じたことは?
 古気候の歴史書を読み漁り、共感して自分の話と驚愕したことは?
 自分が真夏日にエアコンをつけっぱなしにしたから、最高気温が40℃を超えたと後悔したことは?

『事実の前に謙虚であれ』

 遠い他者は誰も救わない。
 遠い気候に心を痛めるのは、身近と妄想できた一握りだけだ。
 大多数は感じない。身近な生活を当然優先する。大多数が原因なのに、その大多数が動けない。

 人為的気候激甚化というヒューマンドラマは、興行収入ランキングの末席にも載らなかった。

『しかし、人口の大幅な減少はたしかに悲劇ではあったが、長期的に見れば利点もある』

 細分化され尽くした土地は統合され、大規模化された。
 移民からの送金で、懐は豊かになった。
 競争は減り、雇用は安定した。

 科学は葬式の度に進歩する。
 まだ、大飢饉が必要か。
 悲劇が起きなければ、成長できないのか。

『気候の変動はゆっくりと穏やかに起こるわけではない』

 人々が幸福を再定義し、資本主義を拒絶し、新しい生き方を発明するまで、気候が忖度(そんたく)するはずがない。

 また死ぬ。たくさん死ぬ。
 青い鳥のように。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み