119. 街中のストリートチルドレン

文字数 548文字


 人類が児童虐待で訴えられた。
 罪状を一部抜粋する。

「二十歳の幼子を森林から引き離し、ストレスフルな道路脇に放置した。根を9割切断した」

「食糧を融通し合う親兄弟、栄養を補完する菌類、害虫撃退の助っ人鳥類、数々の協力者と離別させ、幼子を孤立させた」

「定期的に全身を切り刻み、昼夜問わず排気ガスを浴びせた」
「見知らぬ他者が四六時中周辺を歩き、好奇の視線やおどけた声で威圧した」
「硬く痩せた土に住まわせ、空気を求めて水道管に根を走らせただけで、死刑を宣告した」

 弁護人曰く、
「樹木はモノだ。モノは感じない。悪辣な環境に放置しても、対話なくぶっ殺しても、虐待ではない」

 原告曰く、
「樹木が何も感じないと、なぜ断言できるのですか?」

 弁護人が内心言う。
「そうでないと困るでしょう? 人間が」

 散歩の途中、(こぶ)だらけの桜の樹を見上げる。

 ああ、緑はいいなあ。
 いまはもう、私の趣味で孤立化され、拷問の日々に疲れ、もしかしたら、既に木喰虫(きくいむし)に襲われて死にかけている……。

 ね? 困らない?

【ふと思う】
 朝食べたベーコントースト、開いたままの書籍、液晶画面の光。
 豚の死体、樹木の死体、遠い樹木の死体。

 私の平凡な日常は、思っている以上に、死に溢れている。
 人間以外の死に。

 いや、人間以外の死だけとは、限らないか。
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