115. 森林のポンプ

文字数 393文字


 山椒魚(サンショウウオ)の幼生が嘆いた。

「汚い」
「暑い」
「速い」

 美しく適温で流れの遅い水辺はどこにあるのだろう?
 幼生は旅に出た。

 砂漠。水がない。
 湖沼。生活用水が汚い。
 冬季。凍りつくのはちょっと。
 河川。豪雨が集まり海まで運ばれる。

 ビーバーのように樹木を切り倒し、健やかな環境を自作しようか?
 人間のように大規模開発し、為政者の旗のもとみんなで地獄に向かおうか?

 終の棲家は、広葉樹林の小川で見つかった。

 人間の手が入らずきれいだ。
 冬季でも温かい湧き水で適温だ。
 ブナが倒れて流れを()き止めれば、穏やかだ。

 山椒魚の幸せは、森林にあった。

 海岸線から数千キロ離れた陸地に、雨雲が届くのはなぜ?
 森林が雨を受け止め、地中から水分を吸い上げ、目一杯呼吸し、新たな水蒸気源となるから。

 森林。
 水の故郷。私達のふるさと。
 帰りたいとはもう思わないけれど、ただそこにあって欲しい。

 わがままだなぁ。
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